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凍雪国編第3章
第20話 モールの特製薬3
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「これを飲むのは、かなり勇気がいりますね……」
割と寡黙なリックスが、冷や汗を垂らして言い、モール特製の回復薬を凝視している。
メリングとガンド、エスレートも、複雑な表情を浮かべており、手を出しかねている。
しかし、ハンナは、モールに傾倒し始めており、皆が手をつけぬのならと、意を決して湯呑みに口をつける。
「!」
ハンナは、あまりの味に一瞬固まるが、目をぎゅっと閉じて、一気に喉へ流し込む。
「ぶはっ!」
ハンナは、喉奥への衝撃に耐え切れず、噴水のように勢いよく吐き出す。
モールは、瞬時に無詠唱で風魔法を発動する。
ハンナの目の前に見えない壁を作り上げ、被害が広範囲に及ぶのを防ぐ。
「げほっ! げほっ! げほっ! うぇ~」
ハンナは、涙目になり、鼻に逆流してしまった薬液を袖で拭う。
モールは、ハンナが吐き出してしまった薬液を風魔法で包み込み、縁側へ移動させて庭へと捨てる。
「ご、ごめん……なさい……。む、無理です……」
ハンナは、溢れる涙を堪えきれず、涙を流し、激しく咳き込みながら、モールへと頭を下げる。
モールは、無理強いをしてしまったかと反省する。
「……すまん。お主らには、酷なことじゃったの」
モールは、ハンナに向けて頭を下げる。
大陸に住む者は、この島に自生する生薬の苦味や辛味に慣れてはいない。
この精励湯は、魔力を使わずに調剤し、ことことと煮詰め上げて作っている。
その分、薬液が濃縮され、その味も濃くなっている。
モールは、なおも、げほげほと咳き込むハンナの前に水球を生み出す。
「これでうがいをし、顔を洗うのじゃ」
ハンナは、苦しみながらも、突然現れた水球を不思議そうに見つめる。
これまで、無詠唱で魔法を操れる者に出会ったことはない。
ハンナだけではなく、ガンドとエスレートも初めて見る光景に目を奪われる。
「心配せずともよい。それは、純水じゃ」
モールは、ハンナが口に含みやすいように、魔力を操り、水球から小さな水玉をちぎり取り、ハンナの口へ近づける。
ハンナは、躊躇わずに口に含む。
「もごもごもご……」
ハンナは立ち上がり、縁側に行って、ぺっぺっと吐き出す。
すると、目の前に水球が移動してくる。
「次は、顔を洗うとよい」
モールは、ハンナに優しく語りかける。
ハンナは、勢いよく顔を水球に突っ込ませ、手も使って顔を洗う。
水球は、不思議なもので、全く飛び散る様子がなく、ばしゃばしゃとハンナが洗っても、すぐに集まってくる。
「はぁ~。すっきりしました……」
ハンナは、先程の苦しみから解放され、さっぱりとした顔で部屋に戻ってくる。
モールは、水球を弾けさせ、庭に捨てる。
そして、元の位置に戻ったハンナに回復魔法をかける。
『aqua heal』
ハンナは、喉の違和感が無くなっていき、強行軍がたたり、あちこちに生じていた痛みも消えていくのに驚く。
「凄い……」
「すまんかったの。わし特製の回復薬は、少々刺激が強すぎたようじゃ」
モールは、申し訳なさそうにして謝り、皆の前から湯呑みを回収していく。
「これは、詫びじゃよ」
モールは、そう言って、最上級の回復魔法を皆にかける。
『aqua complete cure』
オンジは、この魔法が大変貴重であることを知っており、モールの謝意の深さを知る。
『アクアコンプリートキュア』は、魔法使いが使いうる最高の回復魔法であり、その魔力消費量も膨大である。
それを一度に六人にかけるとは、モールの負担が大き過ぎる。
「お止めください。紅寿様が参ってしまいます」
「もう掛け終えた。わしの心ばかりのお詫びじゃよ」
「しかし……」
「気にすることはない。わしにとって、これぐらいはどうと言うことはない」
モールは、実際に大して負担を感じていない。
禁忌魔法に比べれば、これぐらいの魔力消費量など微々たるものに過ぎない。
「凄ぇぇ……」
ガンドは、痛みがすっかり引いてしまったことに衝撃を受ける。
エスレートも、長年患っていた腰痛が完治したことに驚きを隠せない。
「どの治療師でも治せなかったのに……」
エスレートは、立ち上がり、大きく腰を回し、飛び跳ねる。
今まで不可能であった動きもできるようになっており、腰が軽く、跳躍力も格段に上がっている。
それを見たモールは、一瞬きらりと瞳をきらめかせるが、皆が満足している様子に喜びを表し、微笑みながら頷く。
「魔法には、疲労を取り除く効果はない。じゃが、これも良いもんじゃろ?」
「良いなんてものではありません! 治していただき、ありがとうございます!」
よほど嬉しかったのか、エスレートが声を張り上げ、倒れ伏すようにして土下座する。
ガンドとハンナ、リックスも、エスレートに倣い、頭を下げる。
オンジとメリングは、昔戦場で、モールから幾度となく『アクアコンプリートキュア』をかけられており、その効果を実感している。
そのため、礼儀正しく拝手して、謝意を表す。
「我らにこれほどまでの魔法を掛けていただき、ありがとうございます。紅寿様のご高配に感謝申し上げます」
「よいよい。皆が救援に駆けつけてくれた礼じゃ」
モールは、そう言って、皆が頭を下げている間に、台所へと消える。
ひとりになったモールは、心の中で呟く。
(しかし、何故じゃ? 良薬口に苦しじゃぞ?)
モールは、しきりに首を傾げ、皆に全く受け入れられなかった特製薬を残念に思う。
(効果覿面なのにの……)
ドルマやテムは、この薬液を苦い苦いと言いながらも、飲み干している。
特に、メラニアは、自身が作る薬よりも、モールの精励湯を好んで求めてくる。
大きくため息をついたモールは、この薬を村外不出の薬に指定しようと心に決める。
割と寡黙なリックスが、冷や汗を垂らして言い、モール特製の回復薬を凝視している。
メリングとガンド、エスレートも、複雑な表情を浮かべており、手を出しかねている。
しかし、ハンナは、モールに傾倒し始めており、皆が手をつけぬのならと、意を決して湯呑みに口をつける。
「!」
ハンナは、あまりの味に一瞬固まるが、目をぎゅっと閉じて、一気に喉へ流し込む。
「ぶはっ!」
ハンナは、喉奥への衝撃に耐え切れず、噴水のように勢いよく吐き出す。
モールは、瞬時に無詠唱で風魔法を発動する。
ハンナの目の前に見えない壁を作り上げ、被害が広範囲に及ぶのを防ぐ。
「げほっ! げほっ! げほっ! うぇ~」
ハンナは、涙目になり、鼻に逆流してしまった薬液を袖で拭う。
モールは、ハンナが吐き出してしまった薬液を風魔法で包み込み、縁側へ移動させて庭へと捨てる。
「ご、ごめん……なさい……。む、無理です……」
ハンナは、溢れる涙を堪えきれず、涙を流し、激しく咳き込みながら、モールへと頭を下げる。
モールは、無理強いをしてしまったかと反省する。
「……すまん。お主らには、酷なことじゃったの」
モールは、ハンナに向けて頭を下げる。
大陸に住む者は、この島に自生する生薬の苦味や辛味に慣れてはいない。
この精励湯は、魔力を使わずに調剤し、ことことと煮詰め上げて作っている。
その分、薬液が濃縮され、その味も濃くなっている。
モールは、なおも、げほげほと咳き込むハンナの前に水球を生み出す。
「これでうがいをし、顔を洗うのじゃ」
ハンナは、苦しみながらも、突然現れた水球を不思議そうに見つめる。
これまで、無詠唱で魔法を操れる者に出会ったことはない。
ハンナだけではなく、ガンドとエスレートも初めて見る光景に目を奪われる。
「心配せずともよい。それは、純水じゃ」
モールは、ハンナが口に含みやすいように、魔力を操り、水球から小さな水玉をちぎり取り、ハンナの口へ近づける。
ハンナは、躊躇わずに口に含む。
「もごもごもご……」
ハンナは立ち上がり、縁側に行って、ぺっぺっと吐き出す。
すると、目の前に水球が移動してくる。
「次は、顔を洗うとよい」
モールは、ハンナに優しく語りかける。
ハンナは、勢いよく顔を水球に突っ込ませ、手も使って顔を洗う。
水球は、不思議なもので、全く飛び散る様子がなく、ばしゃばしゃとハンナが洗っても、すぐに集まってくる。
「はぁ~。すっきりしました……」
ハンナは、先程の苦しみから解放され、さっぱりとした顔で部屋に戻ってくる。
モールは、水球を弾けさせ、庭に捨てる。
そして、元の位置に戻ったハンナに回復魔法をかける。
『aqua heal』
ハンナは、喉の違和感が無くなっていき、強行軍がたたり、あちこちに生じていた痛みも消えていくのに驚く。
「凄い……」
「すまんかったの。わし特製の回復薬は、少々刺激が強すぎたようじゃ」
モールは、申し訳なさそうにして謝り、皆の前から湯呑みを回収していく。
「これは、詫びじゃよ」
モールは、そう言って、最上級の回復魔法を皆にかける。
『aqua complete cure』
オンジは、この魔法が大変貴重であることを知っており、モールの謝意の深さを知る。
『アクアコンプリートキュア』は、魔法使いが使いうる最高の回復魔法であり、その魔力消費量も膨大である。
それを一度に六人にかけるとは、モールの負担が大き過ぎる。
「お止めください。紅寿様が参ってしまいます」
「もう掛け終えた。わしの心ばかりのお詫びじゃよ」
「しかし……」
「気にすることはない。わしにとって、これぐらいはどうと言うことはない」
モールは、実際に大して負担を感じていない。
禁忌魔法に比べれば、これぐらいの魔力消費量など微々たるものに過ぎない。
「凄ぇぇ……」
ガンドは、痛みがすっかり引いてしまったことに衝撃を受ける。
エスレートも、長年患っていた腰痛が完治したことに驚きを隠せない。
「どの治療師でも治せなかったのに……」
エスレートは、立ち上がり、大きく腰を回し、飛び跳ねる。
今まで不可能であった動きもできるようになっており、腰が軽く、跳躍力も格段に上がっている。
それを見たモールは、一瞬きらりと瞳をきらめかせるが、皆が満足している様子に喜びを表し、微笑みながら頷く。
「魔法には、疲労を取り除く効果はない。じゃが、これも良いもんじゃろ?」
「良いなんてものではありません! 治していただき、ありがとうございます!」
よほど嬉しかったのか、エスレートが声を張り上げ、倒れ伏すようにして土下座する。
ガンドとハンナ、リックスも、エスレートに倣い、頭を下げる。
オンジとメリングは、昔戦場で、モールから幾度となく『アクアコンプリートキュア』をかけられており、その効果を実感している。
そのため、礼儀正しく拝手して、謝意を表す。
「我らにこれほどまでの魔法を掛けていただき、ありがとうございます。紅寿様のご高配に感謝申し上げます」
「よいよい。皆が救援に駆けつけてくれた礼じゃ」
モールは、そう言って、皆が頭を下げている間に、台所へと消える。
ひとりになったモールは、心の中で呟く。
(しかし、何故じゃ? 良薬口に苦しじゃぞ?)
モールは、しきりに首を傾げ、皆に全く受け入れられなかった特製薬を残念に思う。
(効果覿面なのにの……)
ドルマやテムは、この薬液を苦い苦いと言いながらも、飲み干している。
特に、メラニアは、自身が作る薬よりも、モールの精励湯を好んで求めてくる。
大きくため息をついたモールは、この薬を村外不出の薬に指定しようと心に決める。
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