ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第3章

第13話 飛竜隊の出発

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 セルノたちは、ミショウの村の娘をさらいにきた。
 しかし、ほかの目的があったかまでは、未だに分かっていない。
 宗主であるダイザが、標的にされていることも考えうる。

 ディスガルドは、国都が中心の短命族の国家ではあるが、その支配領域は南部のごく一部に限られ、奥地では、長命族による宗主国が隠然と存在している。
 国都にいるヒュブなど、短命族の族長らにとっては、宗主国の存在など目障りこの上ない。
 もっとも、表向きは、宗主国などは存在しておらず、ダイザも宗主として活動することはない。
 ただし、ヤグラムを崇拝する一族の者たちにとっては、ダイザこそがヤグラムの正統なる後継者であり、ロシュフォール皇家の血統を継ぐ者である。
 ルシタニアやダルドレットに君臨する同じロシュフォール皇家の末裔皇帝にも、ダイザが比肩する存在であるとあがたてまつっている。
 ドルマやモールは、もしダイザたちが襲われていれば、今回の襲撃は根が深いところにあると考えている。

「そこでじゃ……」

 ドルマは、ブーキたちに視線を送り、今後のことを話す。
 飛竜隊は、それまで静かに控えていたが、ようやく話が回ってきたので、少し上気した面持ちで、ドルマの言葉を待つ。

「疲れておるお主たちには申し訳ないが、ダイザたちを迎えに行ってはくれんか?」

 ドルマは、村が襲撃されたことで、ダイザたちを一度村に戻す必要性を感じている。
 モールも同感であるのか、ドルマの言葉に頷いている。

「飛竜隊なら追いつけるじゃろ?」

「ご命令、しかとうけたまわりました」

 ブーキは、椅子から降り、跪き拝手はいしゅして命を受ける。
 ヤトたちも、ブーキと同様に椅子を降り、拝手して頭を垂れる。

「すまんの。ダイザたちの身が心配じゃ。仕度が整い次第、すぐに出発してくれ」

 ドルマは、飛竜なら1日の飛行で十分に追いつけると算段する。
 ヤトは、宗主に会えなくてがっかりしていたが、今度は確実に会いに行けると思い、やる気が表情にみなぎっている。
 ブーキも、はやる気持ちを抑えつつ、ドルマに問う。

「お連れするのは、宗主様だけでしょうか?」

「いや、全員連れ戻してくれ。ダイザの息子アロンとジル、テムとその息子キントに、バージ、ジョティルもじゃな」

「分かりました。その人数であれば、一度の往復で可能です」

 ブーキが連れてきた飛竜は、全部で六匹である。
 ダイザたち七人であれば、難なく運ぶことができる。
 これは、ブーキの騎竜は、一際大きいため三人で騎乗しても、安定して飛行することができるためである。
 ただし、オンジたちは、連れて行くことができない。
 ダイザたちの出迎えには、ブーキたちだけで行くことになりそうである。

「頼む。もし、襲われていたら、手を貸してやってくれ。回復薬や魔力補充用の輝石は、こちらで用意しよう」

「はっ!」

 ブーキたちは、一斉に頭を下げ、ドルマの配慮に感謝する。
 ドルマは、ブーキたちを立たせ、自身の家へ連れていく。
 必要なものを渡し、すぐにでも出立させるつもりである。

「オンジたちは、この村で待機じゃな」

 モールは、飛竜の定員オーバーになるオンジらに、のんびりと声をかける。
 オンジたちは、ドルマの決定と急過ぎる事の成り行きに、少し呆気に取られていたが、モールの言葉に意識を戻す。

「はい。その間、私たちにできることはありますか?」

「まずは、休息じゃ。お主たちは、体力を回復させることに専念してくれ。寝床は、わしの家を使ってくれて構わん」

 モールは、セキガ山の中腹にある山小屋を指差して言う。

「分かりました」

 オンジは、モールらしい質素な住居に、思わずくすりと笑みを漏らす。
 メリングとリックスは、素直に感謝を表し、ガンドとエスレートは、久しぶりに床で眠れることを喜ぶ。
 ハンナは、泣き止んだものの、目を腫らし、モールに頭を下げるばかりである。
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