236 / 492
凍雪国編第3章
第12話 国都での異変3
しおりを挟む
モールは、ふと、バキュリデスのことを思い出す。
バキュリデスとは、ベルテオームが誇る名工ベアトリスが鍛え上げた八名剣の1つである。
バキュリデスは、闇属性を宿し、剣身は真っ黒く、暗黒剣と称され、類まれなる魔剣である。
「オンジよ。バキュリデスのことを知っておるか?」
「はい。これも、数年前にルシタニアの資料館から盗まれております。今でも、その行方が分かっておりません」
「ベドが持っておった。奴めは、バキュリデスの衝撃波を操り、この村の結界を破壊しよった。お陰で、飛竜の侵入を許し、ナジキたちの潜入を防げんかった」
モールは、少しだけ忌々しそうに言い放つ。
ドルマも、不愉快そうに眉をひそめるが、村の結界を過信していた非は認めている。
しかし、ベドが所持していた宝剣は、慮外のものである。
「そのバキュリデスは、今、どこにあるのですか?」
「ベドが持っておる」
「紅寿様が、始末したのでは?」
オンジは、モールの実力をよく知っている。
セルノやベド程度では、全く歯が立たないはずである。
「いや……。セルノとベドは、取り逃がした。少女を人質に取られたこともあるが、奴らの纏う気配がな……、闇落ちした者とは違っておったからじゃ」
「だから、逃がしたのですか?」
オンジは、モールの真意を問う。
モールは、首を横に振りながら答える。
「わしが遅れをとったのは事実じゃよ。それは、素直に認めよう。じゃが、奴らの背後には、おそらく貴族か、高位のものがおるとみた。それを聞き出さんうちは、手が出せんともな」
モールは、ランジェを救い出し、上空を旋回するセルノたちを見た。
そこで、絶対防御の魔法を解き、焼き払うことも可能であった。
だが、モールは、敢えてそれをしなかった。
黒幕やその後のことを考えてしまったからである。
「それで、躊躇われましたか?」
「まぁの」
「なるほど……。それでか……」
ドルマも、モールが敵を取り逃がしたことに疑問を感じていた。
だが、その理由を聞き、今はそれで良かったのかもしれんと思い直す。
モールは、ドルマに少々済まなさそうに言う。
「この村が、再び襲われることになるかもしれん。じゃが、わしは、むしろそれは好都合じゃと考えておる」
「覚えたのか?」
ドルマは、モールが魔力波長を覚えることに長けており、敵の位置を早期に察知できることを知っている。
「当然じゃ。奴らがこの島に侵入した途端、わしの魔力感知に引っ掛かりよるわい」
ドルマは、安心したのか、表情を僅かに緩める。
モールの言葉を聞いたオンジが、問いかける。
「追われますか?」
「あとでな。今は、ダイザたちが先じゃな」
モールは、ドルマの方をもう一度見て、襲撃前に村を出たダイザのことを心配する。
「分かっておる」
ドルマも、モールと同じ思いでいる。
そのために、ブーキたちに腹ごしらえをして貰ったのである。
ブーキたちも、ダイザの名が出て、緊張したように表情を引き締める。
「ドルマ様。宗主様に何かあったのですか?」
ブーキは、ヤグラムの一族の長であるダイザの身を案じる。
ダイザは、ヤグラムの息子バイデンの直孫であり、サイバジ族やエンゼイ族などの一族を束ねる宗主である。
また、ダイザは、ヤグラムの近衛兵団であった皇衛兵が忠誠を誓う存在でもある。
「ダイザたちは、巡察官のジョティルが持ってきた国主の要請を受け、襲撃前に村を出ておる」
ドルマは、そのときのいきさつをブーキたちに説明する。
そして、ダイザに同行している者たちが、息子のアロンとジル、この村のテムとその息子キント、甥のバージであることを告げる。
「今頃は、島を出た辺りかの」
ドルマは、ダイザたちの出発から経過した日数を数え上げ、ダイザたちの現在位置を推測する。
「モールよ。お主はどう思う?」
「ダイザたちも襲われている可能性はある……と見るが、こればかりは確認してみなければ、よう分からん」
「そうじゃの……」
ドルマも、もどかしい顔つきをして、そっとため息をつく。
バキュリデスとは、ベルテオームが誇る名工ベアトリスが鍛え上げた八名剣の1つである。
バキュリデスは、闇属性を宿し、剣身は真っ黒く、暗黒剣と称され、類まれなる魔剣である。
「オンジよ。バキュリデスのことを知っておるか?」
「はい。これも、数年前にルシタニアの資料館から盗まれております。今でも、その行方が分かっておりません」
「ベドが持っておった。奴めは、バキュリデスの衝撃波を操り、この村の結界を破壊しよった。お陰で、飛竜の侵入を許し、ナジキたちの潜入を防げんかった」
モールは、少しだけ忌々しそうに言い放つ。
ドルマも、不愉快そうに眉をひそめるが、村の結界を過信していた非は認めている。
しかし、ベドが所持していた宝剣は、慮外のものである。
「そのバキュリデスは、今、どこにあるのですか?」
「ベドが持っておる」
「紅寿様が、始末したのでは?」
オンジは、モールの実力をよく知っている。
セルノやベド程度では、全く歯が立たないはずである。
「いや……。セルノとベドは、取り逃がした。少女を人質に取られたこともあるが、奴らの纏う気配がな……、闇落ちした者とは違っておったからじゃ」
「だから、逃がしたのですか?」
オンジは、モールの真意を問う。
モールは、首を横に振りながら答える。
「わしが遅れをとったのは事実じゃよ。それは、素直に認めよう。じゃが、奴らの背後には、おそらく貴族か、高位のものがおるとみた。それを聞き出さんうちは、手が出せんともな」
モールは、ランジェを救い出し、上空を旋回するセルノたちを見た。
そこで、絶対防御の魔法を解き、焼き払うことも可能であった。
だが、モールは、敢えてそれをしなかった。
黒幕やその後のことを考えてしまったからである。
「それで、躊躇われましたか?」
「まぁの」
「なるほど……。それでか……」
ドルマも、モールが敵を取り逃がしたことに疑問を感じていた。
だが、その理由を聞き、今はそれで良かったのかもしれんと思い直す。
モールは、ドルマに少々済まなさそうに言う。
「この村が、再び襲われることになるかもしれん。じゃが、わしは、むしろそれは好都合じゃと考えておる」
「覚えたのか?」
ドルマは、モールが魔力波長を覚えることに長けており、敵の位置を早期に察知できることを知っている。
「当然じゃ。奴らがこの島に侵入した途端、わしの魔力感知に引っ掛かりよるわい」
ドルマは、安心したのか、表情を僅かに緩める。
モールの言葉を聞いたオンジが、問いかける。
「追われますか?」
「あとでな。今は、ダイザたちが先じゃな」
モールは、ドルマの方をもう一度見て、襲撃前に村を出たダイザのことを心配する。
「分かっておる」
ドルマも、モールと同じ思いでいる。
そのために、ブーキたちに腹ごしらえをして貰ったのである。
ブーキたちも、ダイザの名が出て、緊張したように表情を引き締める。
「ドルマ様。宗主様に何かあったのですか?」
ブーキは、ヤグラムの一族の長であるダイザの身を案じる。
ダイザは、ヤグラムの息子バイデンの直孫であり、サイバジ族やエンゼイ族などの一族を束ねる宗主である。
また、ダイザは、ヤグラムの近衛兵団であった皇衛兵が忠誠を誓う存在でもある。
「ダイザたちは、巡察官のジョティルが持ってきた国主の要請を受け、襲撃前に村を出ておる」
ドルマは、そのときのいきさつをブーキたちに説明する。
そして、ダイザに同行している者たちが、息子のアロンとジル、この村のテムとその息子キント、甥のバージであることを告げる。
「今頃は、島を出た辺りかの」
ドルマは、ダイザたちの出発から経過した日数を数え上げ、ダイザたちの現在位置を推測する。
「モールよ。お主はどう思う?」
「ダイザたちも襲われている可能性はある……と見るが、こればかりは確認してみなければ、よう分からん」
「そうじゃの……」
ドルマも、もどかしい顔つきをして、そっとため息をつく。
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
政略結婚で結ばれた夫がメイドばかり優先するので、全部捨てさせてもらいます。
hana
恋愛
政略結婚で結ばれた夫は、いつも私ではなくメイドの彼女を優先する。
明らかに関係を持っているのに「彼女とは何もない」と言い張る夫。
メイドの方は私に「彼と別れて」と言いにくる始末。
もうこんな日々にはうんざりです、全部捨てさせてもらいます。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
侯爵夫人は子育て要員でした。
シンさん
ファンタジー
継母にいじめられる伯爵令嬢ルーナは、初恋のトーマ・ラッセンにプロポーズされて結婚した。
楽しい暮らしがまっていると思ったのに、結婚した理由は愛人の妊娠と出産を私でごまかすため。
初恋も一瞬でさめたわ。
まぁ、伯爵邸にいるよりましだし、そのうち離縁すればすむ事だからいいけどね。
離縁するために子育てを頑張る夫人と、その夫との恋愛ストーリー。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる