ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第3章

第11話 国都での異変2

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「紅寿様。ハンナは、両親をナジキに殺されております」

「そうじゃったのか……」

 モールは、ハンナの事情を察し、いたわるように声をかける。

「ハンナよ、安心するがよい。ナジキは、すでにあの世へ送った」

 モールは、ナジキがこの村の者を三人殺害したため、情報を引き出した上で粛清したことをハンナに告げる。
 オンジは、嗚咽おえつを繰り返すハンナに代わり、モールへ謝意を告げる。
 ハンナの隣にいるエスレートが、布を差し出し、優しくハンナを介抱する。

「ナジキは、ツェブル族の末裔で、キガメラとワジィもその同胞です」

 オンジは、ギルドに集まってくる情報を蓄えており、ツェブル族の村が滅ぼされた事件のことも知っている。
 また、ツェブル族の生き残りが、異国で奴隷とされていることや闇ギルドに加入していることも知っている。

「ナジキらがいたということは、おそらくリフシローに拠点があると思われます」

「リフシロー?」

「ツェブル族の生き残りが開いた隠れ里です。ちょうど、この村から東へ行ったところにあり、その東が国都になります」

「なるほど……」

 モールとドルマは、お互いに顔を見て頷き合い、襲撃者たちがそのリフシローから飛んできたと確信する。
 オンジは、二人の表情を伺いつつ、続きを述べる。

「キガメラとワジィは、ナジキの弟分です。二人も、ナジキ同様、暗殺に手を染め、これまでに被害者が多数出ています」

 モールは、オンジの言葉を聞き、納得したように頷く。
 そして、まだ泣き終わらぬハンナに優しく語りかける。

「その三人は、もうこの世にはおらん。ハンナよ、これからはあだ討ちや怨みにとらわれず、思うがままに生きていくがよい」

「は……ぃ……。あ、あり……がとう……ございます……」

 ハンナは、ひっくひっくとえずき、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔でモールへ礼を言う。
 モールは、少女の未来が明るくなったことに、ささやかな救いを覚える。
 ドルマも、ハンナのことを思いやり、少し涙ぐみながら、うんうんと頷いている。
 一同の間には、辛い経験をしたハンナを気遣う空気が漂う。
 ハンナが泣き止むまで、しばしの沈黙のときが流れ、その後、モールが口を開く。

「それで、オンジ」

「はい」

 モールは、ほかの襲撃者たちのことをオンジに問う。

「セルノとベド、エテンという名に、心当たりはあるか?」

「あります」

 オンジは、言葉に強さを込めて断定する。
 モールは、オンジに目で続きを促す。

「セルノは、ゼノス教の助祭付き衛士えじです。また、ベドは、ルシタニア帝国ドレイファス領の騎士をしておりました。ただ……、私は、エテンという名には思い当たるところがありません」

「エテンは、炎魔法を得意とする魔法使いじゃな。こやつが、獣枷じゅうかの指輪で飛竜を使役し、わしらに襲い掛からせた」

 襲ってきた飛竜には、魔法による首枷くびかせめられており、どの個体も凶暴性が増していた。
 これらは、すべて獣枷の指輪によるものであり、それを所持していたエテンは、それなりに名が知られていたはずである。

「あぁ……。それでしたら、エリティンのことかと思われます」

 オンジは、指輪や魔法属性から該当する人物を導き出す。

「どのような人物じゃ?」

「エリティンは、マクヤード国出身の魔法使いです。若くして、ルシタニア帝国の宮廷魔法師見習いに抜擢された逸材です。しかし、数年前に、獣枷の指輪を宝物庫から盗み出し、行方知れずとなっていました」

「そうか……。これで、全員の身元が分かったの」

 ドルマは、敵の正体が判明したため、安堵の吐息を漏らす。
 モールは、厳しい表情を崩さず、一足先に安心したドルマに釘を刺す。

「まだ、黒幕が分かってはおらん。ナジキに命を下したのは、リビングデッドのギルド長らしいが、セルノの長とは誰なのか、ベドやエリティンの参戦理由が不明のままじゃ」
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