ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第3章

第8話 中央広場での謁見1

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 ドルマは、フレイからの知らせを受け、ひとりで中央広場に立ち、飛竜隊の到着を待つ。
 すでに村の者には、敵ではないことが知らされ、ドルマの家の土間や各自の家で過ごすように伝えられている。
 フレイとボーも、自宅に戻されている。
 そこに、モールを先頭にして、ブーキたちが現れる。

「サイバジ族の飛竜隊とヴァールハイトの者たちじゃ」

 モールは、連れてきた者たちをドルマに紹介する。
 ドルマは頷いて、ブーキたちを見る。
 すると、ブーキ一行は、それぞれ片膝を地面について、頭を垂れる。

「飛竜第二隊隊長のブーキとその隊員ヤト、トパコ、スリーブ、ネイ、ペギンです。我らの拝謁を許可してくださり、感謝申し上げます」

「私は、オンジという者です。ヴァールハイトのギルド支部長をしております。メリング、リックス、ガンド、エスレート、ハンナの5名とともに、救援につかまつりました」

 ブーキとオンジは、それぞれ挨拶の言葉を述べ、ドルマに謁見する。
 ブーキとオンジの後ろで跪く者たちも、一様に頭を垂れる。
 ドルマは、ヤグラムの血を引く一族の主筋にあたり、ミショウ村の村長である。
 ヤグラムの血を引く一族間では、宗主に次いで尊ばれる存在である。

「遠路はるばる、ご苦労であった。古来より変わらずの奉公、痛み入る」

「はっ」

 ブーキは、深く頭を垂れて答え、ヤトたちもドルマの言葉に恐縮する。

「オンジ殿たちも、よう来てくれた。友邦の厚情を賜り、嬉しい限りじゃ」

「はい」

 オンジは、気品のある笑みを浮かべ、ドルマに軽く会釈をする。
 メリングとリックスも、軽く頭を下げるが、サイバジ族出身のガンド、エスレート、ハンナは、飛竜隊と同様に深く頭を垂れる。
 モールは、三人が向ける敬意の深さを見やるが、エスレートには冷えた視線をちらりと向ける。

「さて……、堅苦しい挨拶はこれまでじゃ。皆は立ち上がり、あそこでくつろいでくれ」

 ドルマは、あらかじめヨルテンらに指示を出し、広場の端に植わっている大きな木の下に長机や椅子を用意させている。
 これは、ドルマの部屋には全員が入れるスペースがなく、広い土間には怪我人やその家族が休んでいるためである。
 そのため、ドルマは、急拵えの会談場所を木陰に設置したのである。

「非常時ゆえ、十分なもてなしはできん。じゃが、しばし休息をとってくれ」

 飛竜隊は、長時間の飛行をして、この村まで辿り着いている。
 オンジたちも、国都から駆け通しである。
 ドルマは、炊き出しをしていたヒュレイに頼み、救援隊の飲食を用意させ、長机に並べている。

「心遣い感謝致します。しかし、これ以上のご配慮は無用に願います」

 ブーキには、襲撃に間に合わなかった引け目がある。
 厚遇を受けるばかりでは、申し訳がない。

「分かっておる。じゃが、お主たちの話次第では、こちらから頼みごとをしなければならん。今は遠慮せず、腹ごしらえをし、体力の回復に努めてくれ」

「どのようなことでしょうか?」

「それは、詳しく話を聞いてからじゃ。まずは、皆、着席してくれ」

 ドルマは、ブーキたちとオンジたちを向かい合わせに座らせる。
 そして、自身はモールとともに、長机の端に置いた切り株に腰を掛ける。
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