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凍雪国編第3章
第7話 かつての部下と再会2
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「……じゃが、オンジは、どこで奴らのことを知った?」
「密告がありました」
「誰の?」
「国主の側近です。御用商人の一行の中に間者が紛れ込んでいたとのことです」
オンジに密告をしてきた側近は、ジーゼンという。
このジーゼンは、国主の奥向きの用を担当しており、国主の私的領域に侵入してきた間者を捕らえた。
「その者の背後が分かるか?」
「側近の話では、間者が国主の動向を探っており、近く教練師が多数派遣されてくることを盗み聞いていたとのことです。そして、間者を締め上げたところ、この村への襲撃が判明致しました。ただ、その背後関係までは分かっておりません。間者を城内へ引き入れた御用商人の方は、ルシタニア帝国ヘイデム領のお抱え商人と懇意にしております」
「その御用商人は、どうした?」
「すでに国都を去り、今頃はマクヤード国へ入っているかと思われます」
オンジは、国都を出立する際、御用商人が南方へ向かったことしか確認していない。
「国都を閉じなかったのか?」
モールは、当然の質問をオンジにする。
国都では、異変が生じた際、怪しい人物を都市外へ出さないために壁門を閉じ、一切の通行を遮断する。
今回、御用商人が都市外へ逃れ出たということは、警備を行う側にも内通者がいた可能性がある。
「何分、間者の発見が遅れました。現在、密使が急追しております」
「なぜ遅れたじゃ?」
「間者は、御用商人が国都を発った後、しばらくしてから活動しており、何らかの取り決めがあったように思われます」
「ふ~む……」
モールは、間者と通謀した者がほかにもいると考える。
だが、壁門警備の任に当たる者たちの中にはいなかったようで、そこは安心する。
モールは、腕を組み、しばし思索に耽るが、皆が跪いたままであることに気がつく。
「畏まるのは、それぐらいでよい。立ち上がり、楽にしてくれ」
オンジは、僅かに顔を上げ、モールの顔色を窺ったあと、メリングたちを促して立ち上がる。
「ご配慮、有り難く存じます」
「オンジは、相変わらずの律儀さじゃな」
「紅寿様も、お変わりありませんね」
オンジは、微笑を返して言う。
モールは、すでに齢300を超え、短命族の数え年で78歳にもなるが、壮年の風貌を保ったままである。
また、立ち姿は、常に凜としており、人外の秘境に隠れ住んでいても、どことなく貴族のような雅さを漂わせている。
一方、オンジにも、長命族の濃い血が流れており、他人から30歳前後の若さと見られるものの、齢はすでに200を超えている。
「うむ。お主の衣装もの」
オンジは、東大陸で伝統衣装とされる忍装束を好んで身につけ、長刀を背負っている。
これは、オンジが武者修行と称し、若かりし頃に東大陸へと渡り、剣の腕を磨いたことが影響している。
なお、こちらに向かってきているブーキは、初老の域に差し掛かっており、日焼けした顔には深いしわが幾つか刻まれている。
また、赤茶けた髪には、ところどころに白髪が交じり、左頬に入った二本の傷と相俟って、修羅場を潜り抜けてきた歴戦の勇士という出で立ちである。
ただ、真っ直ぐに伸びた背筋が、ブーキの老いを感じさせない。
「ふむ……。わしらが知りえた情報と合わせれば、もう少し裏が見えてきそうじゃの。じゃが、それは後じゃな。ブーキが来たで、ドルマとともに話を聞くとしよう」
モールは、遅れてきたブーキたちを迎え入れ、オンジたちとともに中央広場へと導く。
「密告がありました」
「誰の?」
「国主の側近です。御用商人の一行の中に間者が紛れ込んでいたとのことです」
オンジに密告をしてきた側近は、ジーゼンという。
このジーゼンは、国主の奥向きの用を担当しており、国主の私的領域に侵入してきた間者を捕らえた。
「その者の背後が分かるか?」
「側近の話では、間者が国主の動向を探っており、近く教練師が多数派遣されてくることを盗み聞いていたとのことです。そして、間者を締め上げたところ、この村への襲撃が判明致しました。ただ、その背後関係までは分かっておりません。間者を城内へ引き入れた御用商人の方は、ルシタニア帝国ヘイデム領のお抱え商人と懇意にしております」
「その御用商人は、どうした?」
「すでに国都を去り、今頃はマクヤード国へ入っているかと思われます」
オンジは、国都を出立する際、御用商人が南方へ向かったことしか確認していない。
「国都を閉じなかったのか?」
モールは、当然の質問をオンジにする。
国都では、異変が生じた際、怪しい人物を都市外へ出さないために壁門を閉じ、一切の通行を遮断する。
今回、御用商人が都市外へ逃れ出たということは、警備を行う側にも内通者がいた可能性がある。
「何分、間者の発見が遅れました。現在、密使が急追しております」
「なぜ遅れたじゃ?」
「間者は、御用商人が国都を発った後、しばらくしてから活動しており、何らかの取り決めがあったように思われます」
「ふ~む……」
モールは、間者と通謀した者がほかにもいると考える。
だが、壁門警備の任に当たる者たちの中にはいなかったようで、そこは安心する。
モールは、腕を組み、しばし思索に耽るが、皆が跪いたままであることに気がつく。
「畏まるのは、それぐらいでよい。立ち上がり、楽にしてくれ」
オンジは、僅かに顔を上げ、モールの顔色を窺ったあと、メリングたちを促して立ち上がる。
「ご配慮、有り難く存じます」
「オンジは、相変わらずの律儀さじゃな」
「紅寿様も、お変わりありませんね」
オンジは、微笑を返して言う。
モールは、すでに齢300を超え、短命族の数え年で78歳にもなるが、壮年の風貌を保ったままである。
また、立ち姿は、常に凜としており、人外の秘境に隠れ住んでいても、どことなく貴族のような雅さを漂わせている。
一方、オンジにも、長命族の濃い血が流れており、他人から30歳前後の若さと見られるものの、齢はすでに200を超えている。
「うむ。お主の衣装もの」
オンジは、東大陸で伝統衣装とされる忍装束を好んで身につけ、長刀を背負っている。
これは、オンジが武者修行と称し、若かりし頃に東大陸へと渡り、剣の腕を磨いたことが影響している。
なお、こちらに向かってきているブーキは、初老の域に差し掛かっており、日焼けした顔には深いしわが幾つか刻まれている。
また、赤茶けた髪には、ところどころに白髪が交じり、左頬に入った二本の傷と相俟って、修羅場を潜り抜けてきた歴戦の勇士という出で立ちである。
ただ、真っ直ぐに伸びた背筋が、ブーキの老いを感じさせない。
「ふむ……。わしらが知りえた情報と合わせれば、もう少し裏が見えてきそうじゃの。じゃが、それは後じゃな。ブーキが来たで、ドルマとともに話を聞くとしよう」
モールは、遅れてきたブーキたちを迎え入れ、オンジたちとともに中央広場へと導く。
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