ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第3章

第2話 救援隊の到着1

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「ねぇ、モールさん?」

 フレイが、のんびりとなごやかな雰囲気を醸し出して、とがった気配を出すモールへ尋ねる。

「なんじゃ?」

「あの人たちと戦うの?」

 フレイは、飛竜から降り始めた人達を指差し、不思議そうに聞く。
 フレイには、どの人も戦いの前の緊張感を伴っていないように感じる。

「いや、戦わん。じゃが、万が一ということがあるでな。用心をするに越したことはない」

 モールは、大陸で横行している騙し討ちに、これまで何度か痛い目をみている。
 戦いでは、真実を見抜く洞察力を持ち、冷静に状況を判断する分析力が必要である。
 今のモールは、心の奥に怒りを宿してはいるものの、瞳を曇らせてはいない。

「でも……。あの人たち、殺気がないよ」

 フレイは、昨日の敵に感じたような、肌に突き刺さる感覚を感じない。

「殺気か……。フレイも成長したのぅ」

 モールは、死線を越えたことで、鋭く研ぎ澄まされたフレイの感覚を褒める。
 しかし、フレイは、まだ純真で人を疑うという心を持たない。
 モールには、そのことが危うさとして目に映る。

「フレイよ。よく覚えておくのじゃ。真に恐ろしき敵は、味方の振りをして平気な顔で人を裏切る奴じゃ。こやつらには、殺気などはなく、あるのは、隠しきれぬ欲望だけじゃ」

「ふ~ん……」

 フレイは、モールの言っていることがよく分からない。
 ミショウ村では、人を騙すことや人をおとしめることなど起こり得ないからである。

「フレイには、まだ難しかろう?」

「うん……」

「今は、それでいい。心の闇を覗き見るのは、もう少し大人になってからでいい」

「うん」

 フレイは、モールの思い遣りを感じ取り、素直に頷く。
 モールは、警戒心を胸に秘め、飛竜から降りた者たちの行動を注視する。



 ミショウ村の南にある河川敷に降り立ったのは、六匹の飛竜である。
 どの飛竜にも騎手が乗り、それと分かる専用の甲冑を身に着けている。
 騎手の鎧には、胸部に統一された意匠が施され、その意匠はサイバジ族の竜騎兵であることを示している。
 飛竜に同乗してきた者たちも、六人いる。
 しかし、これらの者たちの衣装には統一感がなく、冒険者風の装いをしていたり、魔法師の装束を着ていたりする。
 また、明らかに異国の装束を纏っている者が、ひとりいる。

 サイバジ族の飛竜隊のなかには、一際大きな体格をした飛竜がおり、黒銀の鱗を持ち、ほかの黒褐色をした飛竜とは、種類が異なることがみてとれる。
 黒銀の飛竜には、同じく黒銀の甲冑を纏った騎手が乗り、肩章も一際大きい。
 これらのことから、黒銀の鎧を身に着ける者が飛竜隊の長であることが分かる。

 飛竜隊の隊長は、ブーキといい、モールの弟子のうちの一人である。
 ブーキは、副官のヤト、隊員のトパコ、スリーブ、ネイ、ペギンを従えてきている。
 一方、飛竜に乗ってきた者は、ヴァールハイトのオンジ、メリング、リックス、ガンド、エスレート、ハンナである。
 オンジは、ヴァールハイトの国都支部長であり、メリングはその副支部長である。
 また、リックス、ガンド、エスレート、ハンナは、ヴァールハイトのギルド員である。
 このうち、リックスは、ギルド長のマティアスがゼルスト国紅鱗騎士団から引き抜いた逸材であり、長年、ギルドの武術師範を務めている。
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