ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第2章

第110話 黄色い小瓶3

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「雪中花とカラバル豆、魔晶石か……」

 ドルマは、メラニアの見立てを聞いて唸り声をあげる。
 モールも、事態の重さに険しい表情を保ったままである。
 部屋に、重苦しい空気が立ち込めたとき、土間のほうから、数人の気配が近づいてくる。

「娘を連れてきました」

 ホレイがランジェを抱えて部屋に入り、その後ろから、ナートとヒュレイが続いてくる。
 メラニアは、ランジェをクスリナの隣に寝かすように手振りで示す。
 そして、ランジェを診察したあと、ホレイとナートに判明した事実を告げる。

「ランジェも、クスリナと同じ薬を飲まされているよ。バチアの秘薬だね」

「それは、どういうものですか?」

 ホレイは、母メラニアに尋ねる。
 ホレイは、メラニアの息子であり、アラインは、ホレイの妹である。
 メラニアは、今来たばかりのホレイとナートに、バチアの秘薬について説明し、それぞれの成分の特性について語る。

「雪中花は、量が多いと痺れや昏睡を引き起こす。カラバル豆は、強制的に体を弛緩させる劇薬さね。しかも、カラバル豆は、雪中花の薬効を強めてしまう作用を持つ。今では、この配合は禁忌とされていて、知っている者は少ないはずだがね」

 本来、雪中花もカラバル豆も、微量で薬効を示す生薬である。
 また、魔晶石も極微量で薬効を示す自然鉱石である。
 だが、これらの成分は、分量を多くし、最小中毒濃度を越えると、いずれも毒性が現れ、人体には大変有害となる。

「敵は、ゼノス教や闇ギルドみたいじゃぞ?」

 モールは、ナジキの尋問で分かったことをメラニアに話す。

「ゼノス教とは、どういう宗教なのかは知らないね。でも、闇ギルドならば、どこかでこの秘薬の製造方法を聞きつけてきても不思議じゃないね」

「そうか……。それで、治療はできるのか?」

「古い文献には、カラバル豆には、ハシリドコロの根茎こんけいが効くと書かれているよ。ただし、ハシリドコロは手持ちにはないね。あと、雪中花と魔晶石については、特効薬すらない」

 これまでに、カラバル豆の薬効を中和する生薬が発見されている。
 しかし、雪中花と魔晶石については、反作用の薬効を示すものや中和させるものが見つかってはいない。

「それでは、このままなのか?」

 モールは、成す術が分からず、もどかしい気持ちでいる。

「まずは、対症療法を行うよ。これ以上、薬液が体内に吸収されないように、吐かせ、排出させる。その間に、誰かにハシリドコロを取ってきてもらわないといけないね」

「私が行きます」

 ホレイは、自ら志願する。

「それなら、私も……」

 夫の言葉を聞き、隣にいたナートも志願する。
 ランジェは、ホレイとナートの娘である。
 クスリナの父ニコルが憔悴し切っている今、解決に動くのは自分たちしかいないと、二人は視線を交わして頷き合う。
 ドルマは、二人の言葉を聞き、頼もしげに頷く。

「うむ。二人なら、適任じゃの。島の地理に詳しく、魔獣を撃退する力も合わせ持っておる」

 ドルマは、ホレイとナートの申し出に感謝する。
 ドルマとモールは、敵の再襲撃に備え、村を離れることはできない。
 ハシリドコロを採取してくる者が必要であったからである。

「うむ。ホレイとナートの傷は、魔法で完治させてある。体力も強壮剤で何とかなるじゃろ」

 モールも、ドルマの意見に賛成である。

「段取りが決まったんなら、早い方がいい。あたしは、吐瀉薬としゃやくせんじるとするさね。アラインは、ホレイとナートにハシリドコロの詳細を教えてやっておくれ」

「分かったわ、お母さん」

「先に行っとくれ。あたしは、クスリナとランジェを連れて行くからね」

 アラインは、メラニアに頷き、ホレイとナートを部屋から連れ出し、自宅へと向かう。
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