ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第2章

第104話 村への帰路1

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「……仕方がない。思い出せなければ、この紋章だけでも書き写していこう」

 モールは、背負った麻袋から、非常食を包んでいた麻布を引っ張り出す。
 そして、おもむろに、魔法を詠唱する。

transcriptionトランスクリプション

 麻布の表面が淡い光を発し、モールが目にした三つの楔の紋章を焼き付けていく。
 その様子を眺めていたボーが、小さく呟く。

「便利な魔法だな……」

「初級魔法の1つじゃよ。じゃが、悪用されないために、大陸では限られた者にしか知らされておらんがの」

 モールは、きれいに焼き付けができた麻布をもとの麻袋へ仕舞い込み、ナジキの衣服を整えていく。

「さて……。敵とはいえ、このような場所で眠るのは寂しかろう。わしが、来世へ送ってやる」

 モールは、そう言い、ナジキを飛竜のそばへ連れていき、魔法を詠唱する。

flare cremationフレアクリメイション

 ナジキや飛竜の周りから炎が立ち昇り、激しくとも温かな炎が魂を天に届けるかのように高く高く燃え上がる。

「来世では、暗殺などにたずさわらず、真っ当まっとうな人生を送るのじゃぞ」

 モールは、弔いの言葉を短く述べ、祈りをささげる。
 ナジキの火葬が終わった後には、灰すら残らない。
 モールは、ナジキの荷物を持参した麻袋に入れ、腹側に回して身につける。
 そして、未だに意識の戻らないクスリナを背負い上げる。

「さて、ボーよ。村へ戻ろうかの」

「島の端まできたからな。帰り着くのは、明日になるぞ」

「今日は、ニコルがおった場所まで戻ろう。襲撃してきたものたちの手掛かりも欲しいでな」

「ならば、少し急ぐとしよう」

 ボーは、先頭に立ち、来た道を正確に辿り、戻っていく。
 モールは、ボーが選んでくれた獣道を黙々と歩いていく。



 日が陰り始める頃。
 モールとボーは、ニコルが戦っていた場所まで戻ってくる。
 キガメラとワジィは、倒されたままの状態で見つかり、モールは、二人の敵からも荷物を取り上げ、先ほどのナジキと同様に火葬に付す。
 そして、その場を後にし、さらに1時間ほど進んだところで日が暮れたため、適度に開けた場所で休憩をとる。

「クスリナが心配じゃな」

 モールは、ここに至るまでにクスリナに何度も回復魔法をかけている。
 しかし、クスリナは、目を覚まさず、深い眠りについたままである。

「原因は何か分からないのか?」

 ボーも心配そうにクスリナを見つめ、モールへ聞く。

「何か、特殊な薬を飲まされたとしか思えん。少なくとも、これは魔法による症状ではない」

 モールは、回復魔法がクスリナの体に吸収されるものの、全く手ごたえを感じないことに一抹の不安を覚える。

「モールでも、分からんのか?」

「薬じゃとしたら、わしの知らない薬じゃな。ドルマに相談するしかあるまい」

「では、今日は夜営をせずに、このまま村に戻ったほうがいいな?」

「うむ、そのようじゃの。じゃが、少し休憩じゃ」

darknessダークネス
light ballライトボール

 モールは、魔獣を引き付けないように、辺りを闇の膜で覆ってから、照明となる光の玉を生み出す。

「異変に気がついたら、教えてくれ」

「分かった」

 モールの要請を快諾したボーは、モールが何を始めるのか、興味深げに見ている。
 モールは、麻袋の中から非常食を取り出し、ボーに分け与える。
 そして、それを自身の口にも入れながら、ナジキから奪った麻袋の中身を全て取り出し、持ち物を調べ始める。
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