ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第2章

第96話 ニコルの発見

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 マルザとハイトが襲撃を受けた場所から、さらに3時間ほど奥地へ進んだとき、遠くから剣撃の音が響き渡る。

ギィィィン……

「生きておったか……」

 モールは、小さく呟き、後ろのホレイに指示を出す。
 ホレイは、モールに遅れまいと、必死に後を追ってきている。

「わしは、先へ行く。ホレイは、周囲の警戒じゃ」

「はい」

 ホレイが短く答え、距離を取り出す。
 それを見たモールは、すぐに魔力を練り上げ発動させる。

『身体強化』

 モールの全身が淡く銀色に光輝いたかと思った瞬間、モールの姿が突然かき消える。

(相変わらず、すごい……)

 ホレイは、心の中で呟いたあと、気配を絶ち、モールとは別の道を進む。
 モールは、木々の上へ跳び上がり、枝を飛び移りながら駆け走り、黒ずくめの男二人を相手に一人で奮闘するニコルの姿を視界に捉える。

(子どもはおらんか……)

 モールは、木の上から飛び降り、背後からニコルの首をはねようとしているワジィを一刀両断にする。

「あとは、任せよ!」

 魔力が尽きかけ、全身傷だらけとなったニコルは、モールを見て小さく頷く。
 そして、キガメラに向け、残り少ない魔力を練り上げ、火矢を放つ。

flare arrowフレアアロー

 キガメラは、ワジィがあっさりとやられたことに動揺し、炎の矢から逃げる動作が一瞬遅れる。
 モールは、その隙を逃さず、ニコルの炎の矢を追い越し、剣を横凪ぎにして胴を切り離す。

「子どもたちは、どこじゃ?」

 モールは、崩折れたニコルを支え、質問する。

「連れ去られました……。私の娘と息子です」

「どこへ?」

 ニコルは、辛そうに顔をゆがませながらも、獣道の先を指し示す。
 モールは、ふむと小さく頷き、ニコルへ回復魔法をかける。

aqua healアクアヒール

 ニコルは、小さく安堵の吐息を漏らす。
 残り魔力が限界となったニコルは、魔力切れを起こし、そのまま意識を消失する。

「よく頑張ったな」

 モールは、そう言ってニコルをねぎらう。
 そして、ニコルを肩に担ぎ上げ、敵の亡骸が横たわる場所から移動しようとする。

「モールさん……」

 ホレイは、ニコルが指し示した獣道の先から現れる。
 ホレイの胸の前では、両手で抱きかかえられたデュークがぐったりとしている。
 デュークの首には、致命傷となる大きな傷があり、その体からは、すでに生命力が抜け落ちている。

「手遅れか?」

「はい」

「そうか……」

 モールは、眉間に深いしわを寄せ、険しい表情を作る。
 気を失ったニコルは、目の前にいる最愛の息子の死を見ることができない。

「ニコルは?」

「ニコルは、無事じゃよ。魔力切れを起こしておるだけじゃ」

「そうですか……」

 ホレイは、息子を失ったニコルのことを思い、胸が苦しくなる。
 モールも、ホレイと同じ思いを抱き、僅かに涙ぐむ。

「犠牲者が続くと、辛いの……」

「はい……」

 モールとホレイは、しばし立ち尽くして、哀悼の意を捧げる。
 そして、離れた場所へ移動し、比較的大きな木の根元にニコルを横たえ、その隣にデュークを横たえる。

「お主は、ここで待て。ニコルへの辛い報告を任せることになってしまうが、ニコルが気がつき次第、事情を話し、デュークやマルザたちを村へ運ぶのじゃ」

「分かりました」

 ホレイは、硬い表情を崩さずに頷く。
 マルザとハイトは、先ほどの冷たい大地の上に残されたままである。

「わしは、このまま敵を追う。クスリナを取り戻さんとの」

「お願いします」

「うむ」

 モールは、そう言い、まだ幼き命を散らしたデュークに向き直り、祈りを捧げる。
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