ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第2章

第89話 襲撃の被害1

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「モールさん……」

 フレイは、ボーに乗ったままモールの側に寄り、声をかける。
 モールは、まだ魔法を解かず、敵が飛び去った方角を見つめている。

「ん? なんじゃ?」

 フレイの呼び掛けに答えながら、モールは視線を移し、横たわるランジェの様子を見守る。

「あいつら、いなくなったよ」

「分かっておる」

「魔法を解かないの?」

「これは、絶対防御の結界じゃ。解くのも一苦労での……」

 モールは、魔力を操り、張り巡らした結界から魔力を徐々に回収する。
 フレイは、そんな様子を物珍しそうに見つめるが、足元のランジェが気になり、モールに尋ねる。

「ランジェは、無事?」

「あぁ、無事じゃ。眠らされておるだけじゃな」

「良かった……」

 フレイは、ようやく安堵の吐息を漏らし、ボーの背中から降りる。
 ランジェは、規則正しい寝息を立てており、目を覚ます気配はない。

(魔力を封じられておるのが気になるがの……)

 モールは、そのことをフレイには告げず、心の中でそっと呟く。

「それより、フレイ。ナートの様子を見てきてくれんか?」

「うん、いいよ。行ってくる」

 村の入り口のところでは、ホレイがナートを庇い、覆い被さったままである。
 フレイとボーは、村までの道を戻り、ホレイとナートの様子を窺う。

「ホレイさん!」

 ホレイの背中には、針鼠はりねずみのごとく投擲針とうてきばりが突き立ち、そこからは止めどなく血が流れ続けている。

「モールさん! ホレイさんがっ!」

 フレイは、大声を出して振り返り、モールへ助けを求める。
 結界を解き終えたモールは、ランジェを急いで抱きかかえ、フレイのもとへと駆け寄る。

「どうした!?」

「ホレイさんが息をしてない!」

「なんじゃと!」

 モールは、ランジェをフレイに預け、ホレイへ回復魔法を掛ける。

aqua healアクアヒール

 ホレイの体が淡く光り、流れ出ていた血が徐々に止まる。
 しかし、ホレイの呼吸は再開せず、唇も、どす黒く変色したままである。

「毒じゃ!」

 モールは、ホレイの背中から全ての針を抜き取り、上位の解毒魔法を掛ける。

detoxifyディートクスィファイ

 ホレイの体が一瞬キラキラと輝き、光がすっと体内に吸収される。

「これで、大丈夫じゃ」

 ホレイの胸が弱々しくはあるものの、うっすらと上下しだし、苦悶の表情が和らいでいく。
 そして、心なしか、唇の色が明るくなり、徐々に血が通ってきているようである。
 フレイは、ぱっと表情を明るくし、喜びの声を上げる。

「良かったぁ! モールさん、ありがとう!」

「なに、当然のことをしたまでじゃ」

「ナートさんは、大丈夫?」

「ホレイの回復魔法が効いておる。毒されてもおらんし、何日か寝ておれば、大丈夫そうじゃの」

「良かった。ランジェも助かったし……」

 フレイは、涙目になりながらも、大きく安堵のため息を吐き出す。
 だが、モールは、ほっとした表情を浮かべるフレイとは対照的に、厳しい表情を浮かべたままである。

「今回はな」

「?」

「襲撃は、またあるじゃろ。……まぁ、わしらも黙ってはおらんがな」

「また、襲ってくるの?」

「襲撃が失敗したでな。次も来る可能性があるの」

「ランジェが目的だったの?」

「それは、分からん」

 モールは、首を横に振り、セルノたちが逃げていった東南の空を睨む。

「それよりも、フレイ。広場から人を呼んできてはくれんか?」

「うん、いいよ。でも、ランジェは、どうすればいい?」

「そこに寝かしておいてくれ。わしが三人を守っておるでな」

「分かった。ボー、行こう」

 ボーは、終始無言で周囲を警戒していたが、フレイに促されて頷き、一緒に広場へと戻る。
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