ロシュフォール物語

正輝 知

文字の大きさ
上 下
198 / 492
凍雪国編第2章

第85話 ホレイの奮闘2

しおりを挟む
(先程の余裕はそれか!)

 ホレイは、ベドがゲナンの氷の短剣を避けようとしなかった理由を悟り、舌打ちする。

「鎧の隙間だ!」

 ホレイは、ベドと激しく剣を打ち合わせながら、ゲナンに指示を出す。

「はい!」

 ゲナンは、レイピアを繰り出し、ホレイと連携してベドを追い詰める。
 不利を察したベドは、大剣を一閃させ、ホレイとゲナンから大きく距離を取る。

『身体強化』

 ベドは、身体能力を向上させる魔法を唱え、速度と膂力りょりょくを一段引き上げる。

(速い……!)

 ホレイも負けじと『身体強化』を施す。

hardeningハードニング

 ホレイは、さらに剣を硬質化して、ベドの大剣を迎え撃つ。

バギィィィン

 ホレイの剣と敵の大剣が打ち合わされる度に、盛大な金属音が鳴り響き、火花が飛び散る。
 ゲナンは、タイミングを取り、背後から突きを突き入れるが、ベドは気配を察しただけで、ゲナンの攻撃を軽々とかわす。
 むきになったゲナンは、ベドの誘いに乗り、体を近づけ過ぎた瞬間、ベドの回し蹴りを腹にもろに食らい、吹き飛ばされる。

ドガァァァン

 派手に吹っ飛んだゲナンは、盛大な音を立てて柵にぶつり、ぴくりともしなくなる。
 それを見たベドが、ふっと笑う。

(遊んでいるのか!?)

 ホレイは、ゲナンが作った隙に、必殺の一撃を叩き込むが、これも重い大剣で軽々といなされ、反撃を食らう。

(まずい!)

air shieldエアシールド

 風の盾魔法で大剣の袈裟懸けを回避したホレイは、伸びてしまったゲナンを庇う位置に移動する。

air stormエアストーム

 ホレイは、ベドの周囲に竜巻を発生させ、時間稼ぎを試みる。
 だが、ベドは、薄ら笑いをしたまま、竜巻の中心で大剣を高々と掲げる。

「ふんっ!」

 ベドは、大剣を上段から一気に振り下ろし、衝撃波によって竜巻を叩き潰す。

(先程の結界といい、剣も魔剣か……)

 ホレイは、ベドが竜巻に対処している間に、ゲナンを脇に抱え上げる。
 ベドは、面白そうに二人を眺めながら、一歩一歩、大地を踏みしめながら近寄る。
 ホレイは、魔法を連発し、ベドの動きを牽制けんせいする。

air cycloneエアサイクロン
flare burstフレアバースト
『加速強化』
『跳躍強化』

 上位の竜巻魔法に爆炎を加え、巨大な火柱を作り上げる。
 その隙にホレイは、下肢に部分強化を施し、大きく後退し、ベドとの距離を稼ぐ。
 そして、そのまま、一旦戦線を離脱する。

「くはははっ!」

 突然、爆炎の嵐の中から哄笑こうしょうが漏れる。

「やるではないか!」

 ベドは、左手に嵌めた指輪を高く掲げ、嬉々として笑い続ける。
 ホレイは、後ろを振り返り、白銀に光り輝く指輪を見る。

(氷属性の結界か……。用意周到なことだ)

 ホレイは、苦々しげに心の中で呟く。
 ゲナンは、意識を失ったままで、目を覚ます気配はない。

「なかなかに楽しませてくれる!」

 竜巻と炎の中から、淡く光る防御魔法に包まれたベドが悠然と歩み出てくる。
 しかし、ベドは、ホレイたちを追いかけようとはせず、道の中央に立ち、大地に大剣を突き立てる。
 ベドは、ホレイたちよりも、広場の様子が気になっており、事態の推移を見守る算段である。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

政略結婚で結ばれた夫がメイドばかり優先するので、全部捨てさせてもらいます。

hana
恋愛
政略結婚で結ばれた夫は、いつも私ではなくメイドの彼女を優先する。 明らかに関係を持っているのに「彼女とは何もない」と言い張る夫。 メイドの方は私に「彼と別れて」と言いにくる始末。 もうこんな日々にはうんざりです、全部捨てさせてもらいます。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

侯爵夫人は子育て要員でした。

シンさん
ファンタジー
継母にいじめられる伯爵令嬢ルーナは、初恋のトーマ・ラッセンにプロポーズされて結婚した。 楽しい暮らしがまっていると思ったのに、結婚した理由は愛人の妊娠と出産を私でごまかすため。 初恋も一瞬でさめたわ。 まぁ、伯爵邸にいるよりましだし、そのうち離縁すればすむ事だからいいけどね。 離縁するために子育てを頑張る夫人と、その夫との恋愛ストーリー。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

正妃に選ばれましたが、妊娠しないのでいらないようです。

ララ
恋愛
正妃として選ばれた私。 しかし一向に妊娠しない私を見て、側妃が選ばれる。 最低最悪な悪女が。

処理中です...