ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第2章

第79話 襲撃への備え2

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「いざとなったら助けてやる」

 モールは、まだ眠いとみえて、欠伸を軽くしたあと、目をつぶって動かなくなる。

「お主は、相変わらずじゃな……」

 ドルマは、そんなモールの様子にやれやれと首を振り、近づいてきたホレイたちを迎え入れる。

「しばらくは、様子見じゃ。ホレイとゲナンは、村の入り口で待機。異常があり次第、煙爆玉を使ってくれ」

「分かりました」

 ホレイが答え、緊張した様子のゲナンも頷く。

「ニコルは、皆の家を回り、静かにここへ集めてくれ」

「はい」

 ニコルも、硬い表情をして、声を抑えながら答える。

「では、始めてくれ」

 三人は、無言で頷き、それぞれの役目を果たしに行く。



 夜明けまでは、まだまだ時間があり、村の周囲は月明かりの薄暗さのままである。
 中央広場では、ニコルに先導されて、皆が集まり終わる。
 村の入り口付近では、ホレイとゲナンが待機している。

 薪小屋の陰から顔を出して様子を窺っていたホレイは、後ろにいるゲナンに小声でささやく。

「ようやく来たか」

 ゲナンは、薪小屋に背を預けて立ち、剣を握り締めている。
 ゲナンは、ホレイの背中越しで直接確認できないため、ホレイに尋ねる。

「何人ですか?」

「二人だ。鎧の奴と黒装束の奴だ」

「飛竜は?」

「いないな」

「こちらが見えているのでしょうか?」

 ゲナンは、強力な結界が張ってある村を外部から見通せるものなのかと疑問に思う。

「おそらくな」

 ホレイは、ゲナンの淡い期待をやんわりとしりぞけ、険しい表情を崩さずに答える。

「では、襲ってくるのでしょうか?」

「まず、間違いない」

 ホレイは、ゲナンに振り向き、腰に差してある剣をぽんぽんと叩く。

「敵は、やる気らしい。結界内からでも、闘志をビンビンと感じる」

「僕は、まだまだのようですね」

 ホレイのいう闘志すら感じられないゲナンは、己の未熟さを見せつけられる。

「なに、気にするな。ただの年の功だ」

 ホレイは、男らしくさらりと笑い、ゲナンを勇気づける。

「私は、鎧の相手をする。お主は、もう一人を頼む」

「魔法を使っていいですか?」

「出し惜しみはしなくていい。たった二人で襲いに来る奴らだ。腕に相当な自信があるのだろう」

「はい」

 ゲナンは、ホレイの言うことも確かにそうだとは思うが、村に被害が出る範囲魔法はできるだけ使わないようにしようと心に決める。

「無理だと思ったら、躊躇ちゅうちょなく引いてくれ。もちろん、私を置いてな」

「それは!」

「声が大きい」

 ホレイは、敵の様子を探りつつ、ゲナンをたしなめる。

「は、はい……」

 ゲナンは、慌てて口を押さえ、恐縮する。

「私のことは気にしなくてもいい。お主が引いたら、すぐにあとを追う」

「分かりました。広場へ引けばいいですか?」

「あぁ。皆を危険にさらすことになるかもしれない……。だが、私たちの手に負えなければ引くしかない」

「はい」

「あとは、モールさんが何とかしてくれる」

「モールさんが?」

「あぁ。すでに、広場におられた」

「えっ!」

 また、ゲナンは大きな声で反応してしまう。

「だから、声が大きい」

 ホレイは、一本指を口に当てて、静かにするように合図する。
 敵の二人は、周囲を警戒しながら、ゆっくりと歩みを進め、村の入り口まで、あと200mという所まできている。

「す、すいません」

 ゲナンは、再びの失態に動揺し掛けるが、ホレイの強い視線に気づき、気を引き締める。

「モールさんは、気配がない。お主が気がつかなくても不思議ではない」

「知りませんでした」

「さて、無駄話はここまでのようだ……。そろそろ、お客さんをお出迎えしようか……」

 ホレイは、身を隠していた薪小屋の陰から姿を現し、広場へと続く道の真ん中に立ち塞がる。
 それを見たゲナンも、ホレイに従い、隣に並び立つ。
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