ロシュフォール物語

正輝 知

文字の大きさ
上 下
191 / 492
凍雪国編第2章

第78話 襲撃への備え1

しおりを挟む
(そんなに優先することなのか?)

 ホレイは、ボーの余裕の無さを訝しく思うが、未知の敵に意識を向け直し、本来の役割を思い出す。

(まずは、敵への用心をしないとな……)

 ホレイは、すでに見えなくなったボーを必死に追いかけ、ドルマの家へ向かう。



 ホレイは、セキガ山の獣道を駆け下り、畑や中央広場を駆け抜けて、ドルマの家に辿りつく。

「村長。敵です」

 ホレイは、ドルマの寝室に入り、声を抑えて、危険を知らせる。

「来おったか……」

 ドルマは、寝床から悠然と身を起こし、ホレイを見上げて言う。

「どこまで来ておる?」

「小滝の向こうまで」

「数は?」

「二人に飛竜一匹。ボーからの知らせです」

「ふむ……」

 ドルマは、寝起きでも頭が冴えているとみえ、気怠けたいなく、準備を整える。

「ゲナンとニコルに声をかけ、広場に連れてきてくれ」

「分かりました」

「わしは、モールに知らせる」

 ホレイは、こくっと小さく頷き、音を立てることなく出ていく。
 ドルマは、棚から鳥の形に折られた紙人形を取り出し、魔力を込める。

courier pigeonクーリアピジョン

 紙の鳥が淡い光に包まれ、まるで生きているかのように羽ばたきを始める。

「モール、敵襲じゃ。すぐに広場へ」

 紙の鳥は、カサカサと音を立てて舞い上がり、窓から外へ出て、モールが住むセキガ山の麓を目指して飛んでいく。

(さて、久し振りに腕が鳴るのぅ……)

 ドルマは、昔着ていた魔法衣を取り出してきて羽織り、愛用の杖を握る。
 そして、妻のヒュレイを起こし、事情を説明して敵襲への備えを始めさせる。

 ドルマは、一足先に中央広場に出て、杖の先で地面をトントンっと叩く。
 すると、杖の先端が触れた地面から、淡く青色に光る魔法陣が広がる。

dry mistドライミスト

 ドルマが魔法陣魔法を唱えた途端、魔法陣から霧が勢いよく吹き出し、すぐに辺り一体が濃い霧で覆い尽くされる。
 ドルマは、少し移動して、魔法陣の外へ行き、またトントントンっと杖の先端で地面を叩く。
 すると、杖の先端から、先程とは違う土色の光が生まれ、別の魔法陣が広がる。

soil detectionソイルディテクション

 魔法陣の光がすっと地面に溶け込み、何事もなかったかのように、もとの地面に戻る。
 隣の霧を吹き出していた魔法陣も、今では消えてしまい、濃い霧も霧散して見えなくなる。

(とりあえず、準備は完了じゃの)

 『ドライミスト』は、空間の魔力探知を可能にする魔法陣魔法で、『ソイルディテクション』は、土の表層を利用した探知魔法陣である。
 ドルマは、広場に入ってきたホレイたちの気配を振り向かずに察知し、探知魔法がきちんと作動していることを確認する。

「呼んだか?」

 ドルマの背後から、突然声がかけられる。
 魔法の腕が鈍っていないことに満足していたドルマは、思わず苦笑する。

(モールも息災じゃな)

 ドルマは、振り返り、己の探知魔法をいとも簡単に掻い潜り、ずいぶん前からそこにたたずんでいたかのようなモールに答える。

「敵が来た」

「知っておる。昨日の昼方、東に飛竜の群れが到来した。それで、何人、確認した?」

 熟睡を妨げられ、面白くないモールは、ふんっと鼻息を荒くして、ドルマに聞く。

「二人と飛竜一匹じゃ」

「それは、お主らで何とかせい。わしは、ここにおる」

 モールは、興味をなくし、飛竜の群れが気になるのか、広場の端にある椅子代わりの丸太に腰を掛ける。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。 だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。 十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。 ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。 元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。 そして更に二年、とうとうその日が来た…… 

晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]

ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。 「さようなら、私が産まれた国。  私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」 リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる── ◇婚約破棄の“後”の話です。 ◇転生チート。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げてます。 ◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^ ◇なので感想欄閉じます(笑)

政略結婚で結ばれた夫がメイドばかり優先するので、全部捨てさせてもらいます。

hana
恋愛
政略結婚で結ばれた夫は、いつも私ではなくメイドの彼女を優先する。 明らかに関係を持っているのに「彼女とは何もない」と言い張る夫。 メイドの方は私に「彼と別れて」と言いにくる始末。 もうこんな日々にはうんざりです、全部捨てさせてもらいます。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】

小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。 他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。 それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。 友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。 レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。 そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。 レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

正妃に選ばれましたが、妊娠しないのでいらないようです。

ララ
恋愛
正妃として選ばれた私。 しかし一向に妊娠しない私を見て、側妃が選ばれる。 最低最悪な悪女が。

伯爵夫人のお気に入り

つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。 数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。 喜ぶ伯爵夫人。 伯爵夫人を慕う少女。 静観する伯爵。 三者三様の想いが交差する。 歪な家族の形。 「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」 「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」 「家族?いいえ、貴方は他所の子です」 ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。 「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。

処理中です...