ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第2章

第76話 襲撃者たちの上陸

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 禁断の島フォビドゥンアイルの東と南側は、断崖絶壁が切り立ち、流れの速い潮流が渦潮を作り、陸からの侵入者を拒む天然の要害となっている。
 そのため、ディスガルドから島へ渡るには、比較的流れが穏やかになる北側か、海洋に面する西側しかない。
 しかし、黒装束の集団は、飛竜に乗り、島の東側の海峡を軽々と飛び越え、無事に上陸を果たす。
 島へ降り立ったのは、黒装束に身を包んだ男が6人、飛竜が14匹。

「皆さん、着きましたよ」

 一行の先導役であるセルノが、周囲を警戒し、騎乗してきた飛竜から降りる。
 島の東端とはいえ、辺りにはすでに濃い魔素が覆い尽くしており、魔臓が締め付けられるように軋みだす。
 セルノは、懐から土色の小瓶を取りだし、その中身を一気に飲み干す。
 魔力増幅薬は、即効性があるため、すぐにその効果を現し、魔臓に加えられていた圧力を解放する。
 セルノが薬を飲むのを見たほかの男たちも、前もって渡されていた土色の小瓶を取りだし、中身を一気に飲み干す。

「ひでぇ味だな!」

 エテンは、初めて飲む薬の味に悪態をつく。

「仕方ありませんよ。味は考慮されていませんから……」

「だが、効果は、あるようだな」

 ベドは、己の魔臓から湧き出る魔力に満足する。
 ベドは、魔力が比較的少なく、剣技に重きをおく、重戦士タイプである。
 もし、薬がなければ、島に充満する濃い魔素に当てられ、1時間もしないうちに魔素酔いを起こしてしまう。

「皆さん、息苦しくは、ありませんか?」

「あぁ、問題ない」

 ベドは、大きく深呼吸をし、魔素酔いを発症していないことを確認する。
 エテンやナジキたちも、それぞれが薬の効果を実感し、異常がないことをセルノに告げる。

「まもなく、日が暮れます。今日は、ここで夜営をして、真夜中を過ぎたら行動を起こします」

「おうよ」

 ベドは、不適な笑みを浮かべ、戦いが待ち遠しいのか、暗黒剣を握り締める。

「飛竜は、どうする?」

 エテンは、自身が支配する飛竜の使い道についてセルノに問う。
 昨日立てた作戦では、ベドが結界を無効化させたあと、エテンが飛竜を上空から襲わせて混乱を引き起こす。
 その後、ベドは敵の引きつけと退路の確保、セルノとナジキたちが依頼を遂行する手筈てはずである。

「私とベド殿で一騎、ナジキたちで二騎を使います。あとは、エテンが襲撃にお使いください」

「分かった」

 エテンは、腕輪の魔道具から三つの輝石を取り外し、セルノに一つ、ナジキに二つを渡す。

「その輝石を握り、飛竜に命令をくだしてくれ。『飛べ』や『降りろ』、『襲え』ぐらいの簡単な命令には従う。ただし、『娘をさらえ』や『一人だけを襲え』など、細かい要求には応えないから注意をしろよ」

「それで構いません。移動手段であれば十分ですよ」

 セルノは、そうエテンに答え、ナジキたちも同意を示すように頷く。

「私は、ベド殿が結界を破ったあと、村へ潜入します。エテンは、すぐに飛竜を上空から突っ込ませ、混乱を引き起こしてください。ナジキたちは、各自依頼の遂行をお願いします」

「結界は、大丈夫なのか?」

 エテンは、作戦決行前に障害となる結界について懸念を示す。

「はっはっはっ。任せておけ。結界は、わしが切り裂いてやる。エテンは、安心しておれ」

 ベドは、自信満々な様子で、エテンの懸念を笑い飛ばす。

「そうか。なら、俺は、飛竜を放ったあと、上空から範囲魔法で村の連中を殲滅する。セルノやナジキたちは、被害を食らわないように注意してくれ」

「私は、大丈夫です。ただ、ナジキたちは、状況をよく見て、魔法にき込まれないように気をつけてください」

「心配はいらない。俺たちは、陰に潜み、チャンスを待つ」

「頼りにしていますよ」

 セルノは、自身と同様に、暗殺に長けたナジキたちの働きに期待を示す。
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