ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第2章

第73話 エルフ族の魔法1

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 フレイは、びっくりして中断してしまった秘石への魔力注入を再開しながら、体のあちこちを調べる。
 手足に力が入りつつあり、呼吸も楽になり、気持ち悪さもすっかりなくなっている。
 魔力波長のほうは、魔力のほとんどがオセイアの秘石の魔力波長に変わりつつあるお陰で、先ほどまで鳴り響いていた、がちゃがちゃとした魔力波長が小さくなっている。

「魔法が効いたか?」

「う、うん……。そうみたい……」

「それなら何よりじゃ」

「魔力酔いを回復させる魔法なの?」

 フレイは、驚きを隠さないで質問する。

「いや……、そんな魔法はない。これは、樹精じゅせいが少しばかり入っただけの苦い水じゃよ。まぁ、気付け薬のようなものじゃな」

「ずいぶんと苦かったよ」

「はははっ。良薬口に苦し……じゃな」

「ふ~ん……」

 フレイは、樹精が何なのかはよく分からなかったが、とりあえず元気になったので、それについてはそれ以上深く考えず、気になるエルフについてモールへ尋ねる。

「それで、エルフ族ってどこにいるの?」

「さぁのぅ……?」

 モールは、フレイの質問に対して首を捻って答える。

「会ったんじゃないの?」

「会ったぞ。じゃが、わしが出会ったのは、旅をしておったチールというエルフじゃよ」

 冒険者をしていたモールが、たまたま依頼の途中で知り合ったのがチールというエルフ族の男である。

「でも、いたんだね」

「あぁ、確かにおったぞ。チールは、一人娘のウィユを探して旅をしておった」

「それで、どこから来たの?」

 フレイは、矢継ぎ早に質問をして、モールの答えを催促する。

「さぁのぅ? チールが、どこから来たのか、わしにも分からん。聞いても、教えてくれんかったしの」

「そうなの?」

 フレイは、明確な答えが得られなかったので、きょうが少しそがれかける。

「エルフ族の里については、誰も知らんのじゃよ。本当に集落が存在しておるのか、生き残りが人に紛れて住んでいるだけなのか、真相は誰にも分からんのじゃ」

 モールも、エルフ族にまつわる伝説はよく知っている。
 そして、そのことに興味を持ち、実際にチールへもフレイと同じような質問をぶつけている。
 しかし、チールからは、捗捗はかばかしい答えは一切返ってこなかった。

「でも、モールさんは会ったんでしょ?」

「まぁの」

「じゃぁ、そのエルフの人のことを教えてくれる?」

 フレイは、お宝や伝説にるいする話が好きで、エルフについても同様である。

「教えてやっても構わんが、言いふらさんと約束するか?」

「うん、する。だから、教えて」

「ずいぶん軽いのぅ……。まぁ、ダイザやロナリアも知っておることじゃから、別に構わんが、大陸の人間にはしゃべるでないぞ」

「うん」

 フレイは、約束は守るよと言って、興味津々な様子で話の続きを待つ。
 モールは、少し緊張感に欠けるフレイの態度に、やれやれと思うがチールとの思い出について語る。

「チールは、自分がエルフであることを隠すために変装しておった。じゃが、魔力波長までは、誤魔化すことはできておらんかった」

 エルフ族は、一般的には長命で金髪碧眼、容姿端麗、陶器のような滑らかな白い肌、長身痩躯、少し長く尖った耳、絶大な魔力などという特徴を数多く持ち、外見では、長命族によく似ている。
 だが、チールの変装は年季が入っていて、金髪を白銀色に染めて長命族にふんし、特徴ある少し長く尖った耳も、長髪で巧みに隠していた。
 また、エルフ族にしては珍しく口髭をたくわえ、痩身な種族の特徴を消すべく、筋肉を鍛え上げ、筋骨隆々の歴戦の冒険者を装っていた。

「なんか……。想像していたのと違う……」

 フレイは、日焼けして筋肉が盛り上がったテムが、口髭をたくわえている姿を想像して、率直な感想を漏らす。

「そりゃ、そうじゃろ。すぐに分かるようなら、あちこちで噂になっておるはずじゃ。それが一切ないということは、余程上手く紛れ込んでおるということじゃの」

「モールさんは、よく分かったね」

「魔力までは隠せんからの。チールは、わしと同じように魔力を魔臓に押し込んでおった。じゃが、魔法を発動させるときの魔力波長が独特で、すぐに気がついた」

 モールは、現実主義者で理想や幻想を実生活には持ち込まない。
 それ故、戦いにおいても希望的観測を抱くことなく対処でき、チールの魔力についても、すぐに違和感を覚えることができた。

「?」

「フレイには、まだ分からんかもしれんが、魔力波長には個性があるんじゃ」

「うん。それは、ホレイさんに聞いたよ」

 フレイは、魔力には波長があり、その波長は人それぞれで異なっていることをすでに教えられている。

「そうか……。チールのは、外見にそぐわず、高貴なものが持つ波長を備えておった」

「高貴な波長?」

「古来から生きる種族特有の波長じゃの。言葉では上手く言い表せんが、厳粛で峻烈……、畏怖を感じさせるような波長じゃな」

「よく分かんない……」

「言うなれば、チールは、トウジンのような魔力波長を備えておると言えばいいかの」

 モールは、身近にいるトウジンを例として挙げる。

「あっ、それなら何となく分かる気がするよ」

 フレイは、想像しやすいのか、嬉しそうにして頷く。
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