ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第2章

第71話 初めての魔力酔い1

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 フレイは、己のうちに宿る魔力を意識して、魔力の流れを辿ろうと試みる。

(ん~)

 フレイの魔臓から溢れ出てくる魔力は、荒々しい魔力波長を伴いながら、体中を不規則に絶えず動き回っている。
 目を閉じて、集中するフレイの額からは、大粒の汗が噴き出し、口はへの字に曲がっていく。

(ぼ、僕のって……。こんなにごちゃごちゃしているの……?)

 フレイは、何となく魔力というものを意識し始め、乱雑なリズムをかなでる魔力波長に酔いそうになる。
 しかし、秘石の中に吸い込まれていき、そこから還流する魔力は、穏やかなリズムを刻み、フレイの持つ魔力を鎮めてくれているように感じる。

(これが、魔力の流れか~)

 フレイは、苦しそうに荒い呼吸を繰り返し、額の汗を拭って目を開ける。
 一度意識し出した魔力波長は、体の中からガンガン、ジャンジャンとやかましく鳴り響き、耳をふさいでもその感覚は止まらない。

(うぅ……、気持ち悪い……。吐きそう……)

 フレイは、ふらふらと立ち上がり、縁側に置いてある冷たい甘茶を飲みにいく。
 結界を潜り抜けるときに、また、ぞわりという感覚が体を通り抜けるが、己のうちの魔力波長の気持ち悪さに比べれば、大したことがないように思う。

(うぇ~。全然、なくならないよ……。き、気持ち悪い……)

 フレイは、甘茶を飲んで、縁側に横になるが、体の内側から発し続ける魔力波長の乱雑さにめまいがする。
 そこへ、モールが部屋の奥から、いい匂いを漂わせたお皿を持って戻ってくる。
 モールは、頑張るフレイのために、軽くつまめる狼肉の香草焼きを作っていたようである。

「ん? どうしたんじゃ?」

「き、気持ち悪い……」

 ぐったりとしているフレイは、手足を伸ばして仰向けになり、モールを見上げる元気もない。
 モールは、持ってきた料理の皿を縁側に置き、フレイの状態を素早く観察する。

「これは……、魔力酔いじゃな。どうして急に発症したんじゃ?」

「わ、分からないよ……」

「何をしておった?」

「ま、魔力の流れを……感じ取ってた……」

 フレイは、つらそうに荒い呼吸を繰り返す。
 モールは、フレイの手首を取って脈を診てから、全身の魔力の流れを調べる。

「特に異常はなしじゃな……。わしの魔力も漏れ出ておらん」

「モールさんの魔力じゃないよ……。ぼ、僕の内側からうるさい魔力波長がずっと続いているの……」

 フレイは、オセイアの秘石を発動させたあと、何となく魔力が分かりかけ、体の内側から発する魔力波長に酔い始めたことを説明する。

「何じゃ? お主は、自分の魔力に酔っておるのか? 器用なことをするのぅ……」

 モールは、フレイを見て呆れ、(変わった奴じゃの)と思いながら、フレイの魔力を鎮める方法を考える。
 フレイは、ふくれっ面をする元気もないのか、大の字になり、荒い呼吸を繰り返すばかりである。

「め、目が……回る……」

「ふむ。オセイアの秘石から戻ってきたお主の魔力は安定しておる。フレイは、その魔力を体の隅々まで通し、オセイアの魔力波長に合わせるんじゃ」

「ど、どうやって……?」

「オセイアの秘石に魔力をゆだねよ。己の魔力をすべて秘石に流せばよい」

「う、うん……」

 フレイは、虹石に魔力を流したときのように、秘石に魔力を通し、還流してきた穏やかな魔力波長に体を浸す。
 すると、先ほどまでガシャガシャとうるさかった魔力波長は鳴りを潜めていき、優しい魔力波長が体中を満たし始める。
 フレイの荒い呼吸は、少しずつ整っていき、だんだんと手足に力が戻ってきているようである。

「どうじゃ? ずいぶん楽になったじゃろう?」

「うん……」

 フレイは、ようやくモールを見上げて、安心したのか、やわらかい笑みを浮かべる。

「お主の魔力は、制御されておらんから、魔力波長が乱れに乱れておるのじゃよ」

「うん……」

 フレイは、上半身をむくりと起こし、両手で体を支えるようにして座る。

「まだ、横になっていよ。無理をしてはいかん」

「うん、分かった……」

 フレイは、再び、ごろんと寝転がって、オセイアの秘石を大事そうに胸の前で握り締める。
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