ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第2章

第70話 初めての魔力感知

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 モールは、フレイが魔力感知の訓練をまだ続けたそうであったので、水球をたくさん空中に漂わせる。
 そしてフレイには、水球に魔力を当てて、魔力波長を感じ取るように言い置いて、結界の外へ出る。

「わしは、一足先に休憩するでな。フレイも休みたくなったら、いつでも休んでよいぞ」

「うん、ありがとう。モールさん」

 フレイは、手に生み出した魔力塊を薄く引き伸ばしながら、水球へ当てる練習を繰り返している。
 秘石の増幅効果のない魔力は、水球を激しく揺さぶるものの破裂させることなく、魔力反射波をフレイへ返している。

「それに飽きたら、足捌きの練習か、秘石の力を使い、魔力の流れをつかむ訓練にうつることじゃな」

「うん」

 モールは、そう言って、家の中に入り、部屋の奥へと消えてしまう。



 庭に取り残されたフレイは、少し動きながら、魔力を水球へ当て、魔力反射波の感覚を体に覚えこませる。
 フレイは、同じ動作を繰り返すうちに、徐々に魔力反射波のぞわりとした感覚に慣れていき、魔力を手のひらに作り出すときにも、似たような感覚が生じていることを意識する。

(この感覚が魔力波長……というか、魔力なんだね……)

 フレイは、魔力を手のひらではなく、体全体から周囲に放射することに挑戦し、周りに浮かんでいる複数の水球へ魔力を当てることにも成功する。

(う~ん……。魔力波長がたくさんでも、何となく感じ取ることができているのかな……?)

 フレイは、アドバイスを貰おうと縁側を振り返るが、そこにはモールはいない。

(また……。モールさんって、いつでもどこかに行っちゃうよね)

 フレイは、庭の中央に胡坐をかいて座り、オセイアの秘石を発動させる。

magical controlマジカルコントロール

 オセイアの秘石は、淡い光を発して、輝きだす。

(……?)

 フレイは、『ジェネレイティングパワー』を唱えて秘石を発動させたときよりも、秘石から感じる温かみがやわらかいことに気がつく。

(もしかして、この秘石……、魔力波長の強さを変える……?)

 フレイは、秘石から漂い出る魔力波長を温かみとしてではなく、割とはっきりとした感覚として捉えられていることに少し驚く。
 そして、その感覚は、『ジェネレイティングパワー』のときよりも優しくフレイを包み込む感じで、とがった感じがしない。

(ん!)

 フレイは、手のひらに魔力塊を生み出し、それを薄く引き伸ばして、頭上に浮かんでいる水球へ当てる。

ぷるるるんっ

 水球は、弾けることなく、大きくやわらかく揺れながら、ぶつけられた魔力の力を逃がすように変形する。

(へぇ~)

 『ジェネレイティングパワー』では、魔力塊を薄く引き伸ばしても、その威力を減弱できずに水球を破裂させてしまう。
 だが、『マジカルコントロール』では、威力を調整して水球へ魔力を当てることができる。
 これは、大きな発見である。
 フレイは、嬉しくなり、新しい実験を開始する。
 まず、秘石の力を試すように、次々と魔力塊を生み出しては引き伸ばし、空中を漂う水球へ当てていく。
 水球はいずれも弾けることなく、大きく揺れながら魔力反射波をフレイに返す。

(うん! 『マジカルコントロール』の方が扱いやすいね)

 次に、フレイは、魔力をいろいろな形へと変形させて水球へ放ち、そこから返ってくる魔力反射波を受け取る。
 槍の形は、小さく鋭い魔力反射波が返ってきて、水球と同じ玉の形は、弾かれたように返ってくる。
 それらをしばらく繰り返していると、何となく秘石の魔力波長も感じだし、自分が生み出した魔力波長も似たようなものになっていることを認識する。

(あぁ……。もしかして、これが、モールさんが言いたかったことなのかな?)

 フレイの魔力波長は、秘石の魔力波長と干渉して、秘石と同一の魔力波長となっているようである。
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