ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第2章

第61話 モールとの実践訓練1

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「そこに立つのじゃ」

 モールは、自分から1mほど離れた場所を指し示す。
 フレイは、素直にモールの言うこと従い、指示された場所に立って、モールと向かい合う。

「うむ。それでは、師匠らしくするぞ」

「うん、いいよ」

 フレイは、いよいよ訓練が始まるんだという期待のこもった目で頷く。
 モールは、おほんっと一つ咳払いをして、腰の後ろで両手を握って立つ。

「では、まずは、蒼炎の発動からじゃが、フレイはすでに無詠唱ができるの?」

「うん。でも、何でそれを知っているの?」

「そんなものは、魔力の流れを見れば分かる」

 モールは、魔力の流れを目で見ることができる。
 フレイの魔力は、魔臓から絶えず溢れ出しており、魔力が行き場を探して体中を不規則に巡っている。

「そうなの?」

「あぁ。フレイは、魔臓から魔力を引き出して魔法を使っておらんからな。手や足に集まった魔力にそのまま属性を乗せておる」

 モールは、フレイが魔法を発動させたときの魔力の流れをしっかりと確認している。

「へぇ~。僕は、そうやって使っているんだね」

「何じゃ? それも分かっておらなんだのか?」

「うん。僕は、こうやって手をぎゅうっと握って、魔力を感じてから、魔法を発動させているだけだよ」

 フレイは、右手を前に突き出し、手に宿る魔力を圧縮して、蒼炎属性を乗せる。
 すると、手のひらから、ごく自然に蒼炎が燃え上がる。

「フレイには、もっと基本から教えんといかんの」

「うん」

「では、講釈を少し垂れてやるかの」

「講釈?」

 フレイは、聞いたことがない言葉に、首をかしげる。

「意味を説明することじゃ。この場合は、魔法の意味じゃな」

「ふ~ん」

 フレイは、そういうものなんだと、ひとり納得する。

「これも言葉の勉強じゃ。ひとつひとつを理解していけばよい」

「うん」

「そもそも、無詠唱ができるのは、魔力の質が濃い者だけじゃ」

 モールは、さらりと魔法の極意をフレイに説明する。

「そうなの?」

「うむ。このことはあまり知られておらんがな。まぁ……、それはいいとして、通常、魔法を発動するときには、魔力を練り上げる必要がある。フレイも、そう習ったはずじゃな?」

「うん。お母さんから、そう教わったよ」

「うむ。それ自体は間違っておらんし、魔法の基本動作じゃから守るべき手順じゃな。じゃが、魔力を練り上げる動作が、どのような意味を持つのかを理解せねば、魔法を上達させることができん」

 フレイは、素直に頷く。

「魔力を練り上げるという動作は、魔臓から魔力を引き出し、魔力の質を高める動作なのじゃ」

 魔臓に蓄えられている魔力は、活性化していない魔力である。
 魔法を発動させるためには、魔臓から引き出した魔力を圧縮して濃度を増し、活性化させる必要がある。
 この一連の流れが、魔力を練り上げる動作であり、魔力の質を高める動作となる。

「つまり、すでに高魔力の質を持つものは、魔力を練り上げるまでもなく、常に魔法を放てる状態にあるということなのじゃ。わしやフレイがそうであるようにの」

「へぇ~。僕が、無詠唱で魔法を発動できる理由が、今、分かったよ」

 フレイは、うんうんと頷き、両手をにぎにぎして、嬉しそうに手のひらを見つめる。

「じゃから、高魔力体質のものは、発動の準備動作をしなくても、いつでも魔法が放てる。それ故、無詠唱も簡単に行うことができるのじゃよ。このようにの……」

 モールは、そう言って、右の手のひらを体の少し前に出し、無詠唱で火を生み出す。

「モールさんもできるだね」

「うむ、たやすいことじゃな」

 モールは、そう言って、手のひらを庭の端に向け、ぽぽぽぽぽんっと、小さな水球をたくさん生み出して、木にぶつける。

「わぁ~、すご~い……」

 フレイは、自在に魔法を操るモールに感動して、賞賛の声を上げる。

「おそらく、ニアにもこれができるはずじゃ」

「うん。ニア姉さんも、僕と同じようにできてたよ」

「やはりの。虹石が示した魔力の質は伊達だてではないということじゃな」

「伊達?」

「見えを張ること……、もっと噛み砕いて言うと、よく見せかけようとすることかの」

「ふ~ん」

 先ほどの感動を引きずっているフレイは、少々上の空で聞く。

「つまり、伊達ではないということは、飾りではないということじゃよ。大陸では、よく使われる言い回しじゃな」

「うん。覚えておくよ」

 フレイは、素直に頷いて、目をキラキラと輝かせる。
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