ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第2章

第56話 高魔力体質者の魔力4

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 モールは、魔力の流れを見てとれるため、オセイアの秘石から溢れ出る魔力がフレイの中に染み入っているのが分かる。
 ただ、オセイアの秘石は、フレイの魔力を吸い上げて、それを還流しているようにも見える。

「その指輪から出る魔力は、もともとはフレイの魔力のようじゃな。きっと、オセイアの秘石がフレイに力を貸しておるのじゃろう」

「本当?」

「たぶんな」

 モールは、オセイアの秘石にまつわる伝説をどこかで聞いた覚えがあった。
 しかし、それは、ずいぶん前のことであったので、すでにモールの記憶からその内容が消えている。

「まぁ、ともあれ、これで、わしの魔力体験は終わりじゃよ」

 モールは、そう言って、解放した魔力を再び魔臓に押し込み始める。
 そろそろ限界を迎えていた魔力障壁は、突然均衡が崩れたことで、パキンと乾いた音を立てて弾け飛ぶ。
 ほんの少し、モールの魔力が家の外へ漏れ出るが、それも少量で、モールは素早く魔力を魔臓に封じ込める。

「ふぅ……」

 体に纏わりついていた圧がなくなり、急激に襲ってきた脱力感と戦いながら、フレイは大きなため息をつく。
 びっしょりと全身に汗をかいたフレイは、額から滴り落ちる汗をようやく拭うことができる。

「苦しかったか?」

「ちょっとね」

 フレイは、そう言って、初めての感覚に驚きながら、モールに微笑む。
 モールの魔力波長にさらされた皮膚は、鳥肌立ったままである。

「少しは楽しめたようじゃな」

「うん」

「よしよし。しばらくは、体がだるいじゃろうが、これも良い経験じゃな」

 モールは、素直に頷くフレイに、してやったりという顔でにやりと笑う。

「フレイは、よく覚えておくのじゃぞ。これが、高位魔力を持つ者の真の力じゃ。戦場でこのような気を発するものに出会ったら、一目散に逃げるのじゃぞ」

「うん、分かった」

「それが長生きをする秘訣じゃな。はははっ」

 モールは、愉快そうに笑い、喉が渇いたのか、台所から冷たい甘茶を持って戻ってくる。
 そして、フレイの湯吞みにも冷たい甘茶を入れ、再び床に寝転がったフレイに渡す。

「モールさんも、同じような経験をしたことがあるの?」

「わしが覚醒する前に何度かな」

 高魔力体質は、生まれながらにして持つ者と、ある程度成長して高魔力体質が発現する者とに分かれる。
 一般に、成長途中で高魔力体質となることを覚醒かくせいと呼び、覚醒したものは、高魔力体質者のなかでも異常なほど高濃度の魔力を帯びるようになる。
 モールの場合は、後者の方で、成人後に突然覚醒し、この村から出て行かなければいけない原因となった。

「へぇ~。強い人がいるんだね」

 フレイは、強さに純粋な憧れを抱いており、強い力を持つ人に会ってみたくて仕方がない。

「おるとも。わしが戦場で剣を交えた相手だけで、5人はいたぞ」

「だれだれ?」

 フレイは、体を起こして前のめりになり、早く続きを聞きたそうにする。

「そうじゃな……。まだ生きておるかは知らんが……」

 モールは、そう言って、これまでに戦った強者を5人列挙する。
 クレアマック・ミスダイト、ガラティン・ジュディール、ロンギマル・アトワイト、ゼライジー・シャルティア、シュマルド・タイナクア。
 そして、モールは、このほかにも強い者には出会っていることを告げる。
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