ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第2章

第54話 高魔力体質者の魔力2

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 フレイは、今朝の出来事を説明し、その後、泥のことでロナリアを怒らせたことを訴える。

「はははっ! それは、すまんかったの」

 モールは、可笑しそうに笑い、悪びれた様子を見せることなく、フレイに謝る。
 そんな様子を見て、フレイは、ぷぅっと頬を膨らませる。

「はははっ。そうむくれるな、フレイ。オセイアの秘石など、ここ数十年……、いやロナリアのとき以来じゃから100年ほど前のことか……。それぐらい前のことじゃから、すっかりと忘れておったのよ」

 モールは、むくれるフレイの背中をぽんぽんと叩いて、フレイの機嫌をとる。

「もうっ!」

「すまん、すまん。わしは、オセイアの秘石をあまり使ったことがないのでな。『ジェネレイティングパワー』ぐらいしか覚えておらんのじゃよ」

 モールは、フレイの機嫌を直させるため、湯吞みに甘茶を注いでやる。

「確かに、『ジェネレイティングパワー』では、威力が強すぎるの。それに、蒼炎を乗せたら、岩でも溶かしてしまうじゃろうて……」

「すっごく、びっくりしたんだよ!」

 フレイは、そのときの驚きようを身振り手振りで必死に説明する。

「くくくっ……。そうじゃろうな」

 モールは、何が可笑しいのか、愉快そうに笑い続ける。

「どうして、モールさんって、そうなの?」

 フレイは、少し怒りが収まってきたのか、むくれるのを止めて問いただす。

「すまんの。人は、長く生きとるとな……、抜けることが多くなるんじゃよ。これを大陸では、ボケというが、わしも例外ではないんじゃな」

「そうなの?」

「あぁ。特に、わしは、日頃から一人で暮らしておるでな。話し相手もおらねば、やることもない。じゃから、だんだんと気が回らんようになってきておるんじゃろうな」

 モールは、そう言って、ふむとひとり頷き納得する。

「このままでは、本当に偏屈爺になってしまうの。いかん、いかん」

「やっぱり、村では暮らせないの?」

「それができればいいがの。わしの体質では、難しいじゃろうて……」

「そう?」

 フレイは、普通にモールと接することができているので、特にモールの高魔力体質を感じない。

「はははっ。フレイが平気なのは、お主も高魔力体質であるからじゃ。それにな、わしは、魔力を魔臓に仕舞い込む技を身につけておる」

「ふ~ん……」

 フレイは、まだ魔臓や魔力の理解が進んでおらず、モールの言っていることがよく分からない。

「よく分からんみたいじゃな?」

「うん」

「そうか……。では、少し見せてやるかの。これから、行うことは内緒じゃぞ?」

「うん、いいよ。何をするの?」

 フレイは、モールが何をするのか興味が出てきて、目を輝かせながら聞く。

「わしの真の魔力じゃよ。フレイなら、何とか耐えられるじゃろ」

 フレイは、虹石の判定結果から、モールに次ぐ魔力の質を備えていることが分かっている。
 フレイとニアが、モールに近づいても魔力酔いを起こさないのは、その質の濃さに由来する。

「さて……」

 モールは、立ち上がり、部屋の中央に進むと、フレイを手招きして、少し離れた場所に座るように指示をする。
 そして、モールは、部屋全体に外界と隔絶させる無属性の魔法障壁を張る。

seclusionスィクルージョン

「これで準備は完了じゃ」

「何をしたの?」

「この部屋の外へわしの魔力が漏れ出るのを防いだのじゃよ」

「へぇ~」

 フレイは、モールの魔法が発動すると同時に、肌にざわりとした感触が生じたのを不思議に思う。
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