ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第2章

第53話 高魔力体質者の魔力1

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 昼食を食べ終えたフレイは、モールの家へ向かう。
 その途中、ボーの棲み処へ立ち寄り、ロナリアがふかしてくれたアスタルテと黒斑牛の乳から作ったバターを手渡す。
 ボーは、素直に喜びを表し、帰宅したらロナリアへ礼を伝えるようにフレイへ頼む。
 ヤーやフイ、ビーも、嬉しそうに尻尾を振って、フレイを舐め回す。
 そうしてしばらく、ボーの子どもたちとじゃれ合ったフレイは、ボーたちに別れを告げてモールの家を訪れる。



「モールさん!」

 フレイは、昨日見たときと同じように、縁側で空を見上げて日向ぼっこをしているモールへ呼びかける。

「ん?」

 モールは、眠たそうな目をしてフレイを見る。
 そして、かったるそうにして起き上がり、フレイへ手招きをする。

「今日は、どうしたんじゃ?」

「モールさんに聞きたいことができたから、やってきたの。迷惑だった?」

「いや、構わんぞ。ほれ、見ての通り、暇じゃからな」

 モールは、縁側で座りなおし、大きく伸びをしながら、欠伸をする。

「モールさんって、することないの?」

 フレイは、暢気のんきな様子のモールを見て、思わず疑問が口をついて出る。

「フレイには分からんか?」

「何を?」

 モールは、フレイをじっと見つめて、可笑しそうに含み笑いをする。

「まだまだじゃな」

 モールは、ひとりで納得して、肩を回しながら立ち上がる。
 フレイは、モールの言っていることが分からず、顔に疑問を浮かべたままである。

「今は、分からずともよい。魔力感知ができるようになれば、おのずと分かるようになるからの」

「さっぱり分からないけど……」

「はははっ。今はまだ、いつも暇そうにしておるモールさんということじゃ。深く聞くでない」

 そう言って、モールは、部屋の中に入り、フレイのためにイタヤカエデの花蜜甘茶を入れてやる。

「遠慮せずに入ってこい。用があったんじゃろ?」

「うん」

 何がなんだか分からないものの、当初の目的を果たすために、フレイは靴を脱いで部屋へと上がる。

「ほれ。昨日、好きだと言っておった甘茶じゃ。菓子はいるか?」

「うん、ちょうだい。……モールさんの甘茶、好きなんだよね。ありがとう」

 フレイは、座椅子に腰掛けて、湯気を立てる甘茶をふーふーと息を吹きかけながら飲み始める。

「よしよし。なら、今日は、テムから貰った紅玉を糖蜜漬けにした菓子を出してやろう」

 モールは、台所へ行き、少し大きめの瓶を持って戻ってくる。

「ありがとう、モールさん」

 フレイは、初めて食べる糖蜜菓子を心行こころゆくまで堪能し、最後にもう一度甘茶をすする。

「満足したか?」

「うん」

「では、話を聞こうとするかの。フレイは、何のようで来たのじゃ?」

「この指輪のこと」

 フレイは、昨日、モールに貰った指輪を嵌めている右手を差し出し、少し口を尖らせて続きを話す。

「モールさんって、どうしてきちんと説明してくれないの?」

「なんじゃ? 急に怒り出して?」

「だって、モールさんのせいで、危うく火事を起こすところだったんだよ」
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