ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第2章

第51話 闇の密談1

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 ここは、ディスガルド国の首都ギールグッドから西へ3日ほど離れた距離にある小さな村リフシロー。
 ツェブル族の生き残りが造った隠れ里には、山間の一角に20人ほどが暮らしている。
 そのリフシローの集落からさらに離れた渓谷に、簡易で粗末なテントが設営され、中に数人の男たちが集まり、車座になって座っている。

「急報ですか?」

 背が高く細身の体型をした黒装束の男が、テントに入ってきたばかりの同じ装束に身を包んだ男に向かっていう。

「セルノ様。城に潜入していた間者が殺されました」

「そうですか……」

 セルノと呼ばれた男は、急報を持ってきた男にそう答え、特に驚いた様子もなく、何やら思案をし始める。

「手を下したのは、ヴァールハイトのオンジです」

 ヴァールハイトは、国都で唯一の冒険者ギルドであり、その本部はゼルスト国にある。
 オンジは、国都ギールグッドでギルド支部長を務めている人物である。

「やはり、気づかれましたか……」

 セルノは、当然そうなるであろうというある種の確信があったのか、鷹揚おうように頷く。

「それで、どうなりました?」

「はい。オンジは、すでに国都を出発しており、リポウズへ急行したと、途中まで追跡した密偵から報告を受けています」

 リポウズは、サイバジ族の集落名である。
 国都を出立しゅったつしたオンジは、サイバジ族の集落を目指しているのである。

「随行した人は、分かりますか?」

「報告によれば、メリング、リックス、ガンド、エスレート、ハンナの5人です」

「これまた、厄介な強敵ですね……」

 セルノは、苦笑し、やれやれと首を横に振る。
 オンジとメリングは、元ゼルスト国の近衛兵で、リックスは同じ国の騎兵隊出身者である。
 ガンドとエスレート、ハンナは、サイバジ族出身者だが、いずれも腕の立つ冒険者として頭角を現している。

金雷きんらい刀姫とうき隻眼せきがん水禍すいかか……」

 上座に座り、それまで沈黙を保っていた男が口を開く。
 オンジは金雷の刀姫と呼ばれる腕前を持ち、副支部長を務めるメリングも隻眼の水禍というふたを持っている。

「ベド殿……。此度こたびは、依頼をこなすのが優先ですよ?」

「分かっておる。二人の二つ名を聞いて、腕が鳴っただけよ」

 セルノは、いささか呆れ気味に忠告し、報告に来た男に向き直る。
 黒装束の上から甲冑を身につけたベドは、不敵な笑みを浮かべ、腰に差した剣を握りしめる。

「それは、今からどれぐらい前のことですか?」

「3日前の夕刻になります」

「そうですか……」

 セルノは、オンジたちがサイバジ族の集落に寄り、皇衛兵を動かすと読んでいる。
 そして、オンジたちは、飛竜に乗って、救援に駆けつけるはずである。
 セルノは、頭の中でサイバジ族への旅程を数え上げ、そこでの滞在時間、飛竜での飛行時間を計算する。

「分かりました。それでは、ミショウ村襲撃の日を明後日の未明に決めます。出発は明日の朝です。皆さんもそのつもりでいてください」

「それで、構わん」

 ベドは、戦いが待ち遠しいのか、嬉しそうに頷きながら答える。
 ほかの男たちも皆、異存はないというように首を縦に振る。

「もう少しだけ、飛竜を集めたかったな……」

 黒装束の衣装をまとい、首輪や指輪、腕輪など数多くの魔道具をじゃらじゃらと身につけた男が、ぼそりと呟く。

「エテン。それは、仕方のないことです。今の飛竜でも十分成果を上げられるでしょう」

「何匹集めた?」

 ベドが、エテンに問う。

「全部で14匹だ」

「結構、集めたではないか! わはははっ!」

 ベドは、エテンの答えを聞き、豪快に笑う。

「まぁな」

 エテンも、満更でもなさそうに笑い、ベドと笑い合う。

「ナジキたちも準備はよろしいですか?」

「あぁ、俺たちはいつでも行ける。心配なのは、報酬だけだ」

 ナジキと呼ばれた男は頷き、両隣に座るキガメラとワジィを見る。
 二人も、ナジキと顔を合わせ、無言で頷く。
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