ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第2章

第48話 秘石の特性1

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 フレイは、泥まみれになった洋服に気がつかず、台所にいるであろうロナリアの元へと急ぐ。

「お母さん!」

 ロナリアは、竈の火の調整をしながら、鍋に野菜を入れていたが、突然聞こえてきたフレイの声に少し驚いて振り返る。

「どうしたの?」

 ロナリアは、泥だらけになったフレイのズボンを見て、フレイを叱る。

「ちょっと、フレイ! あなた、何をしていたのよ? 泥だらけじゃない!」

「えっ?」

 勢いよく走ってきたフレイは、そこでようやくズボンが泥だらけになっていることに気がつく。
 秘石から出た水魔法は、土を掘り返すとともに、そこかしこに泥をまき散らかしていた。

「あっ! ご、ごめんね……。気がつかなかった」

 フレイは、衣服を汚したことを急いで謝り、ズボンをぱんぱんと叩き、泥をはたき落とす。

「ちょっと! こんな所で泥を払わないでよ! 鍋に泥が入るじゃない!」

 ロナリアは、珍しく怒り、朝から粗相そそうをしたフレイを叱りつける。
 その剣幕に少し気圧けおされたフレイは、すぐに謝る。

「ご、ごめんなさい……。でも、わざとじゃないよ」

「当たり前でしょ! 作ったご飯を台無しにしたら、怒るわよ!」

(もう、怒っているよ……)

 フレイは、心の中でそう思ったが、口には出さず、泥まみれになった訳を話す。

「さっき、薪の火を消そうとしたら、水魔法が暴発したんだよ……」

 それを聞いたロナリアは、何か思い当たることがあったのか、急に怒りを鎮める。

「はぁ……。分かったわ、原因はモールさんにあるのね……。フレイは、昨日、きちんと説明を受けていないんでしょ?」

「う、うん……」

 急にいつもの様子に戻った母に戸惑いながらも、フレイは、よく分からないまま正直に頷く。

「モールさんも、相変わらずね……。まぁ、いいわ。もう怒らないから、フレイは、その泥だらけのズボンを着替えてきなさい。話はその後で聞くわ」

「う、うん……。泥まみれにして、ごめんね」

 フレイは、そう言って、またロナリアの機嫌を損ねないように、素早く台所から出て着替えにいく。
 先ほどまでフレイが立っていた周りには、泥跳ねがいくつも残されており、ロナリアは、盛大にため息をつきつつも、ひとつひとつの汚れを丁寧に取り除いていく。



「着替えてきたよ」

 フレイは、恐る恐る台所の入り口から顔を出し、中にいるロナリアの機嫌を窺う。

「そう? もう、怒っていないから、こっちへいらっしゃい」

 ロナリアは、フレイを振り返って手招きし、食器棚から器を取ってくるように頼む。

「フレイは、その指輪を使うときに、どんな魔法を唱えたの?」

 フレイから器を受け取りながら、ロナリアが質問する。

「えっ? 『ジェネレイティングパワー』って唱えたよ?」

 フレイは、モールから教わった指輪を発動させる魔法名を答える。
 ロナリアは、深いため息をつく。

「やっぱりね……」

「何が?」

「フレイが唱えた魔法のことよ」

「『ジェネレイティングパワー』?」

「そうよ。フレイは、その魔法をモールさんから教わって唱えたんでしょう?」

「うん」

「その魔法は、威力増幅効果のある魔法名よ」

「そうなの?モールさんは、指輪を発動させる魔法としか、言ってなかったよ」

「やっぱりね……」

 ロナリアは、またため息をついて、フレイに説明する。

「『ジェネレイティングパワー』の術式詠唱は、『我が力を引き出し、我が前に力を示せ』というものよ」

 魔法は、本来、術式詠唱を唱えてから魔法名を唱えて発動させる。
 しかし、魔力が多いものや魔法に熟達したものは、魔法名のみを唱えるだけで魔法を発動させることができる。
 フレイは、いつも魔法名だけを唱えて魔法を発動させているため、術式詠唱のことは知らない。
 なお、術式詠唱には、通常、その魔法がどのように発動するのか、魔法名にどのような意味が込められているのかを知る手掛かりが含まれている。
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