ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第2章

第46話 始原興隆期の書4

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 始祖亡き後のロシュフォール国は、ベルテオーム族が残した書物や魔道具を研究し、暮らしを豊かにし始めた。
 周辺国は、それを妬み、次第にロシュフォール国へ戦争を仕掛けるようになっていった。

「それで、戦争が起きたの?」

「そうよ。でも、始祖さまたちの子孫は、たいへん優秀で勇敢な戦士や魔法師たちだった。だから、瞬く間に周辺の国々を返り討ちにして、逆に支配していったの。そして、戦いは、敵対する国がいなくなるまで続けられ、いつしか、大陸の半分以上を支配するようになったの。……それからよ、ロシュフォール国が帝国と呼ばれるようになったのは……」

「始祖さまの子どもたちは、凄かったんだね」

 フレイは、目を輝かせて話に聞き入り、リリアやニアも珍しく興奮している様子である。

「そうね。始祖さまの強大なお力を、それぞれが引き継いでいたからね」

「僕たちも?」

「そうよ。私たちの魔力が強いのも、始祖さまからお力をいただいたお陰ね」

「やったね!」

 フレイは、自分が蒼炎属性を使えるのは始祖さまのお陰だったと分かり、素直に喜びを表す。

「ただね、フレイ。この力は、短命族の人たちにとっては大きすぎる力なの。だから、この力は、悪いことに使ってはいけないし、悪い人に利用されてもいけないものなのよ」

 ロナリアは、強い力に憧れるフレイの気持ちはよく理解できる。
 だが、大きすぎる力がもたらす災厄や危険は、これまでの歴史が度々示している。
 ロナリアは、無邪気に喜び、後先を考えないフレイの今後に多少の危惧きぐを覚える。

「さて、今日のお話はこれまでよ。もう遅いから、明日に備えて寝なさい」

「え~。もうちょっと聞きたい。だって、残りの本の話を聞いてないよ?」

 フレイは、説明してもらっていない『始原隠棲期の書』を指差して抗議する。

「この本は、始祖さまが隠居されてからのことが書かれているの。その中身は、主に掟の内容や教訓など、私たちが守るべき教えが記されているわ」

「へぇ~」

「でも、それは、また今度のお話。今日は、もう寝て、明日寝不足にならないようにしないといけないわよ」

「うん……」

 フレイは、だんだんと朝寝坊しそうな気がしてきて、しぶしぶ頷く。

「リリアとニアは、先に寝なさい。私は、フレイを寝かしつけてくるから……」

「分かったわ、お母さん。お休み」

 リリアは、そう答えた後、大きな欠伸をして自分の寝室へと向かう。

「フレイ、私も先に寝るね。お休みなさい、お母さん、フレイ」

「お休み」

「お休みなさい、ニア姉さん」

 ロナリアとフレイがニアを見送り、居間には二人だけが残される。

「ところで、お母さん?」

「何?」

「始祖さまは、龍族の里で何を学ばれたの?」

 フレイは、小さい頃に、トウジンから龍族の話を聞いたことがある。
 しかし、その話は、フレイには難しすぎたため、その内容がほとんど理解できなかった。
 フレイは、始祖も龍族から教えを受けていたと聞き、自分も強くなるために同じことを学びたいと強く思う。

「……そうね。最初の巻によると、龍族の術を学ばれたとだけ書かれているわ。ただ、具体的に何を学ばれたのかは、ここには記されていないわね」

「そう……」

 フレイは、やはり、トウジンが帰ってきたら、もう一度教えてもらおうと、心に誓う。

「残念だけど、秘術とか伝承とかにまつわる話は、大体がこのようなものなのよ。だから、詳しいことが知りたいのなら、その道を極めた人に直接聞かないとね」

「うん、そうだね。……分かったよ、もう寝る。お休みなさい」

「良い子ね。お休み」

 ロナリアは、素直に返事をしたフレイの頭をなでてから、寝室に送り出す。
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