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凍雪国編第2章
第44話 始原興隆期の書2
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フレイは、始祖が生涯の伴侶となるロシュと出会ったことで、ロシュフォール帝国が出来上がるのだと勝手に想像を膨らませる。
「それが、運命の出会い?」
「えぇ、そうよ。ロシュさまは、湖の南方にある小さな国のお嬢さまだったの」
「お姫さま?」
「いいえ、ただの村人よ。でも、ご両親に大切に育てられたのよ。ロシュさまは、自然を愛し、命を尊ばれるとても素晴らしい考えの持ち主だったの。それが、戦争のせいで、ご両親をなくされて、親戚の方々と一緒に難を逃れてこられたのよ」
ロナリアは、戦争は全てを破壊し、人々の幸せを奪っていくものなのよと、悲しそうにフレイたちに教える。
「始祖さまが、助けてあげたんだね」
「そうよ。始祖さまは、ロシュさまたちを匿い続け、湖の側へ誰も近づけさせなかった。……それから、長い年月が経ち、始祖さまは、やがてロシュさまと恋に落ちて、幸せな家庭を築かれたの」
「良かった……。始祖さまは、ようやく幸せになれたんだね」
「……いいえ、まだよ。始祖さまは、一時の幸せを手入れられたけど、その幸せは長くは続かないの。フレイは、話を急がせすぎるわね」
「だって、早く先を知りたいから……」
「フレイの気持ちも分かるけど、始祖さまの話は、昔話だと思ってゆっくりと聞いてね」
「うん、分かった」
フレイは、乗り出して聞いていた体を引き、椅子に座りなおす。
それを見たロナリアは、リリアやニアをちらりと見て、二人は静かに聞き入っていることを確認してから、続きを話し出す。
「始祖さまは、たいへん長生きをされたの。でも、ロシュさまは、普通の人より少しだけ長生きができただけだったのよ」
「短命族だったの?」
「えぇ……。ロシュさまは、私たちの時間で考えるとほんの少しだけ生き、始祖さまがまだ若かりし頃に亡くなられたの」
「なんだか、切ないよ……」
「そうね。でも、これは仕方ないことだったのよ。始祖さまの寿命は、普通の人より長過ぎた。だから、始祖さまは、その寿命が尽きるまで、親しくなられた方々を見送り続けなければならなかったの」
これは、長命族の誰しもが経験しうることである。
それ故、長命族の多くは、短命族と好んで親しくなろうとする者たちが少ない。
「始祖さま、独りぼっちになったの?」
フレイは、始祖がせっかく手に入れた幸せをすぐに失い、また寂しい思いをしなければいけなかったのかと少し気落ちする。
「いいえ。始祖さまの子供たちやその孫たちは、始祖さまの寿命の長さをある程度は受け継いでいたの。だから、始祖さまは、子供たちとともに暮らすことができたのよ」
始祖の血は、ロシュとの間にもうけた子どもたちに引き継がれ、その子どもたちの子にも長寿が受け継がれた。
それ以来、始祖の血を引く者たちは、長寿であり続け、始祖の血が濃ければ濃いほど長い寿命を持つようになった。
「……そして、始祖さまは、家族と暮らしながら、ロシュさまを失った悲しさを癒され、幸せになっていかれたの」
「良かった……」
「……でもね、その幸せも長くは続かないのよ……」
「どうして?」
「寿命の長い始祖さまたちは、やがて、短命族の人たちと少しずつすれ違うようになっていったの。お互いの間に軋轢が生まれ、特に、古い考えに馴染まない若い人たちは、始祖さまたちに反発をするようになっていったの」
フレイは、それを聞き、切ないような、やるせないような顔をし、静かに頷く。
「始祖さまも、今のフレイと同じように憂いて、家族を連れられ、自分たちが安全に暮らせる場所を探す旅に出られたの」
「それが、運命の出会い?」
「えぇ、そうよ。ロシュさまは、湖の南方にある小さな国のお嬢さまだったの」
「お姫さま?」
「いいえ、ただの村人よ。でも、ご両親に大切に育てられたのよ。ロシュさまは、自然を愛し、命を尊ばれるとても素晴らしい考えの持ち主だったの。それが、戦争のせいで、ご両親をなくされて、親戚の方々と一緒に難を逃れてこられたのよ」
ロナリアは、戦争は全てを破壊し、人々の幸せを奪っていくものなのよと、悲しそうにフレイたちに教える。
「始祖さまが、助けてあげたんだね」
「そうよ。始祖さまは、ロシュさまたちを匿い続け、湖の側へ誰も近づけさせなかった。……それから、長い年月が経ち、始祖さまは、やがてロシュさまと恋に落ちて、幸せな家庭を築かれたの」
「良かった……。始祖さまは、ようやく幸せになれたんだね」
「……いいえ、まだよ。始祖さまは、一時の幸せを手入れられたけど、その幸せは長くは続かないの。フレイは、話を急がせすぎるわね」
「だって、早く先を知りたいから……」
「フレイの気持ちも分かるけど、始祖さまの話は、昔話だと思ってゆっくりと聞いてね」
「うん、分かった」
フレイは、乗り出して聞いていた体を引き、椅子に座りなおす。
それを見たロナリアは、リリアやニアをちらりと見て、二人は静かに聞き入っていることを確認してから、続きを話し出す。
「始祖さまは、たいへん長生きをされたの。でも、ロシュさまは、普通の人より少しだけ長生きができただけだったのよ」
「短命族だったの?」
「えぇ……。ロシュさまは、私たちの時間で考えるとほんの少しだけ生き、始祖さまがまだ若かりし頃に亡くなられたの」
「なんだか、切ないよ……」
「そうね。でも、これは仕方ないことだったのよ。始祖さまの寿命は、普通の人より長過ぎた。だから、始祖さまは、その寿命が尽きるまで、親しくなられた方々を見送り続けなければならなかったの」
これは、長命族の誰しもが経験しうることである。
それ故、長命族の多くは、短命族と好んで親しくなろうとする者たちが少ない。
「始祖さま、独りぼっちになったの?」
フレイは、始祖がせっかく手に入れた幸せをすぐに失い、また寂しい思いをしなければいけなかったのかと少し気落ちする。
「いいえ。始祖さまの子供たちやその孫たちは、始祖さまの寿命の長さをある程度は受け継いでいたの。だから、始祖さまは、子供たちとともに暮らすことができたのよ」
始祖の血は、ロシュとの間にもうけた子どもたちに引き継がれ、その子どもたちの子にも長寿が受け継がれた。
それ以来、始祖の血を引く者たちは、長寿であり続け、始祖の血が濃ければ濃いほど長い寿命を持つようになった。
「……そして、始祖さまは、家族と暮らしながら、ロシュさまを失った悲しさを癒され、幸せになっていかれたの」
「良かった……」
「……でもね、その幸せも長くは続かないのよ……」
「どうして?」
「寿命の長い始祖さまたちは、やがて、短命族の人たちと少しずつすれ違うようになっていったの。お互いの間に軋轢が生まれ、特に、古い考えに馴染まない若い人たちは、始祖さまたちに反発をするようになっていったの」
フレイは、それを聞き、切ないような、やるせないような顔をし、静かに頷く。
「始祖さまも、今のフレイと同じように憂いて、家族を連れられ、自分たちが安全に暮らせる場所を探す旅に出られたの」
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