ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第2章

第41話 始原黎明期の書1

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「良かったね、リリア姉さん」

「えぇ。何でも言ってみるものね」

 リリアは、照れくさそうにフレイに答えながら、中断していた皿洗いを再開する。

「ところで、お母さん」

 フレイは、鼻歌を歌いだしたリリアをちらりと見てから、ロナリアに話しかける。

「何? どうしたの?」

「僕は、今日も眠くならないよ。だから、少しでいいから、昨日のお話の続きをしてくれる?」

 フレイは、日中にわくわくすることがたくさんあったので、その興奮の余熱がまだ続いている。

「いいわよ」

「ねぇ。今日は、あたしも話を聞かせてもらっていい?」

 リリアも、新しく杖を貰うことになり、喜び溢れて、眠気が吹き飛んでしまっている。

「いいわよ。ニアも一緒に聞く?」

「うん」

 ニアは、素直に頷いて、リリアが洗い終わった皿をてきぱきと拭き、食器棚へと戻していく。

「そう。なら、今日は皆にお話をしてあげようかな」

 ロナリアは、夜が更けても眠そうな顔をしない三人を見て言う。



 今日一日の仕事が全て終わったロナリアは、自室から三冊の古めかしい本を手にとり、三人が待つ食卓へと現れる。

「お母さん。それ何?」

 フレイは、ロナリアが持つ本を見てとり、真っ先に質問する。

「これは、始祖さまの伝承をまとめた書物よ。『始原黎明期しげんれいめいきの書』、『始原興隆期の書』、『始原隠棲期の書』の三部作ね」

 ロナリアは、分厚い本を机の上に置き、表紙に書かれている古代文字を指差して答える。

「始原……何?」

 フレイは、よく聞き取れなかったので、もう一度聞き返す。

「最初の巻は、始原黎明期よ」

 ロナリアは、リリアへすでにこの書について知っているわねと確認し、ニアへは初めてだったかしらと尋ねる。
 ニアは、静かに頷いて、もの珍しそうに本を覗き込む。

「始原とは、物事の始まりという意味で、私たちの始祖さまを指している言葉よ。そして、黎明期とは、夜明けや明け方を意味し、始祖さまがお生まれになってから東大陸を出られるまでの時期を示しているの」

 『始原黎明期の書』とは、始祖の伝承をまとめた書物の最初の巻である。
 この書の原本は、ロシュフォール帝国時代に作成されており、大陸各地に残る伝承を集め、後世に始祖の偉業を伝えるために作り上げられたと言われている。
 ロナリアの手元にある書は、写本の1つで、日中にドルマから借りてきた本である。

「ふ~ん……」

 フレイは、よく分からなかったのか、曖昧な返事を返し、昨日の話の続きを早く聞きたくてうずうずしだす。

「フレイは、そのうち理解すれば良いわよ」

「うん。じゃぁ、昨日の続きを話して」

「いいわよ。どこまで、話したかしら?」

 ロナリアは、リリアに聞かせるためにも、話の内容がどこまで進んだのかをフレイに確認する。

「始祖さまが龍族と別れて、国を建てる前まで……」

「あぁ、そうだったわね。じゃぁ、そこからの続きね。リリアは、たぶん聞いたことがあると思うから、話についてくるだけでいいわよ。ニアは、分からないことがあれば質問してね」

「分かったわ」

「うん」

 リリアとニアは、それぞれ頷き、フレイが一番の聞き手であることを理解する。
 ロナリアは、本を広げ、ぱらぱらとページをめくって、ゆっくりと話し出す。
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