ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第2章

第16話 好々爺モール2

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「確かに、わしは、この村では偏屈爺さんで通っておる。じゃが、人嫌いでもないし、子ども嫌いでもない」

 モールは、むしろ子ども好きで、昔は村の子どもたちの遊び相手をよくしていた。
 フレイとニアも、小さな頃にモールと遊んでいたが、そのときのことは、もうすっかりと忘れてしまっている。

「でも、都は嫌いだって、ホレイさんが言ってたよ」

「あぁ、都は大嫌いじゃ。あんなところへは、二度と行きたくはないわい」

 モールは、少し憤慨して言い放つ。

「どうして?」

「いろいろな想念が渦巻いておるからじゃ」

「想念って?」

「人の心の中に宿る欲望や妄執もうしゅうなんかのことじゃな」

「ふ~ん……」

 フレイとニアは、よく分からないというような顔をする。

「都はな、たくさんの人がいて、それぞれが好き勝手なことを考えておる。お主たちが、分からんのも無理はない。この村の連中は、気持ちのいい者ばかりじゃからな」

 モールは、話に毒が含まれそうな感じがして、はははっと、明るく笑い飛ばす。

「都は、良いところもあれば、悪いところもある。それは、何となく分かるな?」

「うん」

 フレイは、それは分かるというように首を大きく縦に振る。
 隣のニアは、無言で頷き、静かにモールの話を聞いている。

「わしは、その悪いところばかりを見せつけられたのじゃよ。じゃから、都嫌いになった」

「ふ~ん……」

 フレイは、モールに暗い過去があったのを何となく察して、それ以上は興味を示さないようにする。
 それを感じたモールも、話題を変え、フレイが持つ麻袋を指差す。

「ところで、フレイが大事そうに抱えとる、その袋はなんじゃ?」

「これ?」

「そうじゃ」

「さっき、ホレイさんが手渡してくれたの」

 フレイは、机の上に麻袋を置いて、モールに見せる。

「なんじゃろな? 開けてもいいか?」

「うん」

 モールは、麻袋を開けて、中身を机の上にガラガラと広げる。

「ほぅ……。これは、魔調石まちょうせき虹石こうせきじゃな」

 モールは、拳大の透輝石を持ち上げて、刻まれている魔法陣を読み取る。
 魔調石は、属性を調べることができる魔道具である。
 一方、虹石は、魔力量を測定する魔道具で、魔力量の多さに応じて七色に発光する。

「すごいものなの?」

 興味を引かれたフレイが、モールに尋ねる。

「あぁ。ホレイの奴、国宝級のものを作り上げたようじゃわい」

 モールが、その出来映えに感心して、一頻り唸る。

「国宝級?」

「国が最も大事にするお宝並みのことじゃな。この魔調石は、高位属性まで全て調べられる一級品じゃ。これ1個で、村が5つは買えるぞ」

 低品質の魔調石は、基本属性のみを調べるものや、派生属性までしか調べられないものがある。
 それに対して、高品質の魔調石は、最上級属性のほか、亜属性や特殊属性なども調べられる。
 これらの品質の差は、土台となる透輝石の質の差に加えて、刻み込まれる魔法陣の緻密さによる。
 ホレイは、全ての属性を探査できるように、複雑な模様とともに、数多くの魔法文字を刻み込んでいる。

「買う?」

 フレイやニアは、買うという行為をしたことがないため、よく分からない。

「あぁ……。フレイやニアは、この村を出たことがなかったか?」

「うん」

「そうか。では、少し説明をしてやるか……」

「お願い」

 フレイとニアは、顔に真剣さを表して、モールが話し出すのを待つ。
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