ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第1章

第109話 国都への出立1

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 ディスガルドの北半島には、おおよそ禁断の島フォビドゥンアイルに巣食う魔獣たちよりも、弱き獣たちしか棲息していない。
 だが、それでも、強力な魔獣に出くわす危険はあり、襲われれば長命族であっても命を落とすことがある。
 それらの魔獣のなかでも、氷嵐鳥やはぐれ飛竜は、特に危険である。
 また、冬眠から覚めたばかりの黒銀熊こくぎんぐまや群れで襲撃してくる灰色狼はいいろおおかみなども厄介な存在である。

「春先の今頃は、動物や魔物が繁殖期に入る時期に当たる。どいつも気が荒くなっていて、出くわしたら、突然襲い掛かってくるからな」

 ダイザは、子どもたちが旅の途中で気を抜かないようにいましめる。

「見張りを怠らないようにするよ」

 アロンは、少し固くなった表情で頷く。

「それがいい。だが、夜番やばんは、慣れているバージやジョティルに任せた方がいい。そのことは、あとで二人にも伝えておく」

 野営をする旅では、必ず夜の見張りを立てる。
 また、獣が本能的に怖がる火を絶やさないことも、野営の鉄則となる。
 夜番は、就寝している仲間の安全を確保するために、常に周囲を警戒し、襲撃への備えをしておかなければならない。

「ありがとう、父さん。そうして貰えると助かるよ」

 アロンとジルは、少し緊張を和らげて、ダイザに頭を下げる。
 旅の初心者である2人は、不眠による集中力の低下、疲労の蓄積を極力避ける必要がある。

「気にしなくていい。大事な息子たちを預けるのだから、二人にはよろしくお願いしておく」

「うん」

「よし、それでは行くか。フレイも、一緒に見送りに行くぞ」

 フレイは、またこみ上げてくる寂しさをぐっとこらえて、無言で頷き返す。
 ダイザは、居間にいるロナリアたちに声をかけ、いよいよ出発することを告げる。
 ロナリアたちも、アロンやジルに一頻ひとしきり別れの言葉を述べ合い、旅の無事を祈る。



 ダイザたちは、ドルマの家で、バージやジョティル、キントと合流する。
 そして、お互いに出立しゅったつ準備を確認したあと、村の入り口へ移動し、そこで先に待っていた見送り組と別れの言葉を交わす。

「くれぐれも、気をつけて行くのじゃぞ」

 ドルマが、一行のリーダーをつとめるバージに言う。

「分かっているよ、叔父さん」

 バージは、いつも通りの気安さで返事をする。

「うむ。ジョティルも、気をつけての。アロンたちをよろしく頼む」

 ドルマは、バージの隣に立つジョティルに向かって言う。

「はい。お世話になりました」

 ジョティルは、これで国都の使者としての役目を果たすことができる。
 そのため、少し肩の荷が下りたように、表情になごやかさをみせて言う。
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