ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第1章

第106話 出立日の朝1

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 バージたち一行が大陸へ出発する日の朝。
 フレイは、二人の兄へ透輝石や翡翠輝石がたくさん詰まった麻袋を差し出す。

「貰ってもいいのか?」

 手渡された麻袋の中身を確認したアロンが、フレイに聞く。

「うん。何かの役に立つと思うから、持っていって……」

 フレイは、しばらく会えなくなる二人に向かって寂しさを隠さずに言う。

「ありがとう、フレイ」

「大切に使わせて貰う」

 アロンとジルが、フレイに礼を言う。

「うん……」

 フレイは、今にも泣き出しそうに小さく頷く。

「フレイ。寂しいのは分かるが、そんな顔をしてくれるな」

「だって……」

 涙ぐんだフレイは、ついに、ひっくひっくとえずき出す。
 それを見かねたダイザは、フレイの頭をぽんぽんとし、優しく声をかける。

「フレイは、兄思いだな」

「ふぐっ……」

「アロンとジルは、3年後には帰ってくる。それまでの辛抱だ」

「ぐすっ……」

「そうだぞ、フレイ。3年なんて、あっという間だ。すぐに会えるさ」

 アロンは、下を向いたフレイの顔を覗き込みながら慰める。

「うぅぅぅ……。ぐすっ」

 フレイは、アロンの優しい言葉を聞いて、さらに寂しさを募らせ、鼻水をすすり出す。

「フレイ。いつまでも泣いていては、大人になれないぞ」

 ダイザは、フレイの頭をなでながら優しくさとす。

「うぅぅ……」

「そうだ、フレイ!」

 それまで静かに成り行きを見守っていたジルが、フレイの気を引くために少し大きな声を出す。

「……? ぐすっ」

 フレイは、えずきながら、ジルの方を見る。

「お土産は、何がいい?」

「……いらない」

「まぁ、そう言うなって……。何か欲しいものはないか? ん?」

 ジルは、フレイの気持ちを変えさせようと、必死に話題を振る。

「ぐすっ……」

 ダイザは、フレイの背中をさすって優しく語りかける。

「フレイ……。フレイも、いつかは旅に出るんだろう?」

「ぐすっ……うん」

「そのとき、アロンやジルが泣いていたら、フレイは困らないか?」

「……」

「フレイ。しばらく会えなくなるからこそ、旅立ちには笑顔が一番なんだ」

「ぐすっ……」

「アロンやジルに、フレイのいい顔を見せてやって、気持ちよく送り出してやろうじゃないか」

「……うん。」

 フレイは、ごしごしと袖口で涙を拭いたあと、にぃ~と、ぎこちない笑みを浮かべる。

「フレイ……。それ、不自然……」

 ジルは、フレイが無理やり作った泣き跡の残る笑顔を見て、突っ込む。

「うぅぅ……。ごめんね……、ジル兄さん」

 フレイは、再び、ひっくひっくとし出すが、作り笑いを変えずにいる。
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