ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第1章

第105話 ツェブルの悲劇2

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 ホレイは、ようやくドルマの危惧きぐ想到そうとうする。

「この村も、そのような目に遭うかもしれないと?」

「うむ、その可能性があるかもしれん。じゃから、わしはバージに頼み、ジョティルを試してもらったんじゃ」

「村長がけしかけたのですか?」

「結果的にはの。手合い自体は、バージが先に申し込んでおった。じゃが、手を抜かぬように頼んだのは、このわしじゃ」

 ドルマは、すまんのと言い、ホレイに向かって頭を下げる。

「よしてくださいよ、そんなこと。村長が、いつもこの村を思って行動してくれているのは、重々承知しています」

「いや、それでも、お主には事前に相談をしておくべきじゃったの」

 ドルマは、常に村の相談役をしてくれているホレイを頼りにしている。
 次期村長には、ホレイを指名するつもりでいる。

「次からは、お願いします。何事が起きたのかと、焦りましたから……」

「すまんの」

「いいですって……。それで、この先はどうされるのですか?」

 ホレイは、手合いの件はそれ以上気に留めず、今後のことをドルマに聞く。

「バージたちには、予定通り、明日出発してもらう。そして、3年後には、交代要員を派遣し、アロンたちに戻ってきてもらう」

「分かりました」

 ホレイは、今後の予定を頭に入れておく。

「じゃが、バージたちが襲われることもあるかもしれん」

「ツェブル村でも襲われたのですか?」

「いや。国都へ旅立った一行は、無事に辿り着いておる」

「では、襲われるのは、この村のほうではありませんか?」

「念には念を……じゃ。それに、この村は、ツェブル村とは違い、強力な結界に守られておる。余程の者でない限り、この村の結界を通り抜けることはできん」

 ドルマは、村に張られた特殊な結界に全幅の信頼を置いている。

「それも、そうですね」

 ホレイも、ドルマの意見に首肯しゅこうする。

「じゃから、結界から出て行くバージたちのほうが心配なんじゃ」

「村長は、どうなさるおつもりですか?」

「ダイザとテムに、彼らがこの島を出るまでの護衛を頼もうと思うておる」

 ドルマは、知恵が回り、腕の立つダイザとテムを頼りにしている。

「そうですか……。2人に我が子の見送りを頼むのはいいと思います。ですが、この村を守る者が少なくなってしまいます」

 ホレイは、ダイザとテムが抜けた後の懸念をドルマに伝える。

「それは、モールに任せてある」

「モールさんは、足が悪いのでは?」

「仮病じゃよ」

 ドルマは、さらりと真実を明かす。

「えっ?」

 ホレイは、驚いてドルマの顔を凝視する。

「いや、膝の痛みは本当じゃ。じゃが、あんなものは治そうと思えばすぐに治る」

「そうなのですか?」

「たぶんな」

 ドルマは、やれやれと首を振り、続きを話す。

「あやつは、本当は都に行きたくないのじゃよ。バージが言っておったようにな」

「モールさんの都嫌いは相当ですからね」

 ホレイも、バージの意見には賛成している。

「まぁ、今回は、それでもいいと思うておる。じゃから、わしもモールにあえて念押しをせなんだ。奴隷狩りの件もあるしの」

「そうでしたか……。では、モールさんは、この村を守ってくれるのですね」

「あぁ。その件は、快諾してくれた。あやつも、この村が好きじゃからな」

「モールさんらしいですね」

「そうじゃな」

 ドルマは、ホレイと楽しげに笑い合う。
 ホレイは、今後の方針が決まったことで、緊張の糸を緩めて、ドルマに尋ねる。

「ダイザとテムには、もう伝えてありますか?」

「いや、これからじゃよ。わしは、外で伸びておるジョティルを介抱したあと、2人のところに向かうつもりじゃ」

「分かりました。フレイとニアには、早く家へ帰るように言っておきます」

「うむ。頼む」

 ドルマは、立ち上がり、ホレイとともに家の外へ出て、別れる。
 そして、バージとジョティルのもとへと向かう。
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