ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第1章

第104話 ツェブルの悲劇1

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 フレイを見送ったドルマは、ホレイに向き直り、少々姿勢を正して話し出す。

「さて、先ほどの件じゃが……」

「ジョティルのことですね」

「そうじゃ」

 ドルマは、重々しく頷く。

「昔……、そうじゃな、ホレイがまだ小さき頃じゃったかのぅ……。国主の使いが突然訪れ、人足にんそくを要求された村があったのじゃ」

「はぁ……」

 ホレイは、突然始まったドルマの昔話についていけず、曖昧あいまいな返事を返す

「その村は、ツェブル村といってな。サイバジ族から出た者たちの集落じゃった」

 ツェブル村は、ディスガルドの北半島の海沿いにあり、サイバジ族の集落から北東へ行ったところにある小さな村であった。
 漁業を盛んに行い、国都への行商も行っていた。

「過去形……ですか?」

「あぁ。今はもう滅びて、すでにない」

 ドルマは、悲しげな様子をみせ、静かに語る。

「何があったのですか?」

「奴隷狩りじゃよ」

 ツェブル村は、奴隷狩りに遭い、全滅した。

「……その話と、ジョティルが関係していると?」

「いや。先ほどの戦いを見た限りでは、ジョティルは白じゃな。全く関係がない」

 ホレイは、少しほっとして、話の続きを待つ。

「ツェブル村もな。この村と同じように、国主から人を出して欲しいと頼まれた。村の連中は、国主の使いが正当な使いであると信じ、国主の要請どおりに、腕利きの猛者もさを集め、国都へ送り出した」

 ドルマは、ツェブル村に起きた悲劇を語る。

「はぁ……」

「じゃが、その情報が闇ギルドに流れておったんじゃ」

「闇ギルドに?」

「そうじゃ。……ホレイ、腕に覚えのあるものが国都へ向かえばどうなると思う?」

「村には、戦力に劣るものたちが残ります」

 ホレイは、当然導き出される答えを即答する。

「うむ、その通りじゃ。村に残される者は、か弱きおんなどもか、すでに引退した年寄りばかりとなる」

「そこを襲われたと?」

狡猾こうかつにもな。当時、我らは、『古代の血エンシェントブラッド』と呼ばれ、寿命を求める者たちの標的にされておった」

 長命族のなかでも、ロシュフォール皇家の血は特に貴重とされた。
 権力者たちは、命を延ばす願望に駆られ、エンシェントブラッドエンブラを探し出すため、度々人狩りを行った。

「これは、ルシタニア皇家とて例外ではない。実際に、時の皇帝は、エンブラを追い求め、ミセル山脈やディスガルドの奥地へ人を派遣しておる。もっとも、ルシタニアの場合は、婚姻という形式を持って行われたがの」

「ルシタニアもですか……」

「あぁ、そうじゃ。じゃが、長寿を求める者たちのなかには、闇ギルドと手を組むものたちもおった」

「酷いですね……」

「そうじゃの。そやつらの依頼を受けた闇ギルドは、手薄になったツェブル村の隙をいたんじゃよ」

「闇討ちされたのですか?」

「詳細は分からん。じゃが、村の者たちが奴隷として権力者に売りさばかれ、村が焼き払われたことだけは分かっておる」

 ドルマは、これまでに伝えられている事実をホレイに教える。
 国都へ派遣された猛者は、その後、闇ギルドを襲撃し、捕まった奴隷を解放しようとした。
 だが、時すでに遅く、奴隷とされた村民は、大陸中へ移送されたあとであった。
 猛者の多くは、移送先への追跡行を続けた。
 一方、国都に残り、闇ギルドに潜入して、事件の真相を究明しようとする者たちもいた。
 ただ、その後の消息はいずれも不明であり、追跡行の果てに命を落としたとも、闇ギルドへ身を落としたとも言われている。
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