ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第1章

第91話 フレイの無詠唱魔法1

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「火属性を乗せるね」

 すると、手のひらから明るい青味がかった炎が立ち昇る。

「フレイ……、これを自分で考えたのか?」

「そうだよ。何か、間違ってる?」

「……」

 ホレイは、う~むと唸り、フレイの手のひらで燃えている炎を凝視する。

「どうしたの?」

 フレイは、無邪気にホレイへ聞く。
 しかし、ホレイは、何かを考え込んでいる様子で返事をしない。

「ニア姉さん。どこか、おかしかった?」

 フレイは、ランジェを挟んで座っているニアに助けを求める。

「フレイ。あなた、魔臓から魔力を移動させていないでしょ?」

 ニアは、少々驚いて、フレイに感じた疑問を指摘する。

「うん」

 フレイは、ニアの質問に素直に答える。

「どうやって、手のなかに魔力を生み出したの?」

「え~。それは、よく分からないよ。……だって、こうして手をぎゅっと握り締めると、魔力ができるんだよ」

 フレイは、右手で燃えている炎を消し、もう一度、手のひらを強く握り締めて、魔力を集める。

「ほら、魔力が集まっているでしょ?」

 フレイは、左手で右の拳を指差し、魔力が集まっている様子を伝える。

「フレイ……。どうして、魔力を集めることができるの?」

 ニアは、フレイがどのようにして魔力を集めているのかが分からず、不思議なものでも見ているような顔をする。

「う~ん。手の中にある魔力が集まったのかな……? それとも、魔素かな……?」

 それを聞いて、ニアは深いため息をつく。

「はぁ……。フレイは、独学過ぎるわね……」

「僕なりに頑張った結果だけど……」

 フレイは、ニアにあきれられて、わずかかに肩を落とし、手の魔力を解放する。
 ホレイは、それらの一連の動作をじっと見ていたが、ようやく口を開く。

「フレイ……。それは、魔法の達人が行う高等技術だ」

「これが?」

 フレイは、右手をぎゅっと握り、拳に魔力を込める。

「そうだ」

 ホレイは、重々しく言い、未だに信じられないというように、フレイの手を凝視する。

「へぇ……」

 フレイは、右手をグーパーして、何度も手を開き、魔力を自在に操る。

「それは、私にはできない技術だな」

 ホレイはそう言って、もう一度唸る。

「そうなの?」

「私もそうだが、おそらく、この村で魔法を使える者には、今のようなことはできない。あぁ、モールさんは別だが……」

 ホレイは、そう言って、今のフレイと同じことをさらりとこなしてしまうモールの姿を、頭の隅によぎらせる。

「普通、魔力は、魔臓で練り上げるものだ。そして、手のひらや足などに魔力を移して発動させる。この方法は、このナミードの書にも書かれているように、魔法を発動するための基本動作だからな」

「うん。僕も、お母さんからそう教わったよ。でも、それだと、発動までに時間が掛かるし、面倒だから手間を省いたの」

「どうやって?」

「う~んとね……。僕は、魔臓というのがよく分からなかったから、最初は胸の辺りに何となく魔力を集めていたんだよね。でも、それだと、手のひらまで上手く魔力を移動できなかったの」

「あぁ、そういえば……。フレイは、初めて魔法を使ったときに、胸から火を出していたわね」

 ふふふっと、当時のことを思い出して、ニアが忍び笑いをする。

「うん」

 フレイは、少し恥ずかしそうにして答える。
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