ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第1章

第77話 キントの興味

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 バージは、キントを意外そうな目で見る。

「おっ……。キントは、盗賊退治に興味があるのか?」

 皆が、普段は物静かなキントに注目する。
 バージから急に話を振られたキントは、少し慌てて答える。

「いえ……。盗賊退治がどういうものかはよく分かりません。でも、正しい行いを堂々とできることが羨ましくて……」

「はははっ……、そうか。キントは、役人向きだな。国都へ行けば、きっと良い教練師になるだろう」

「そうですか?」

「あぁ。兵の中にも、言うことを聞かず、悪さをしようとする奴らが混じっているからな。そういう連中をビシビシと鍛えるのは、己の教導心をくすぐられるぞ」

 バージは、「はぁ……」と合点がいかずに答えるキントを見て、愉快に笑う。
 そして、アロンやジルに目を向けて、話を振る。

「お前たちも、存分に力を振るう機会がきっと来る。持っている力を正しいことに使うのは、気持ちがいいし、清々しい気分になる」

「はぁ……。よく分かりませんが、そういうものですか?」

 アロンも、まだ経験したことがない感覚を想像してみて、曖昧に返事をする。

「あぁ、そうだ。……だが、決して力に溺れてはならない。むやみに暴力を振えば、いつかは手痛いしっぺ返しがやってくる」

「はい。それなら、分かります」

「素直でいい子だ。ダイザによく似たな」

「そうじゃな」

 ドルマも、バージに賛成して頷く。

「ところで、バージよ」

「ん? なんだい、叔父さん?」

「モールのことなんじゃが……」

 ドルマは、少し話しにくそうにしてから、言い出す。

「モール爺か?」

「そうじゃ。わしは、今朝早く、モールに会いに行っての。今回の都行きを願い出てみたのじゃ。じゃが、奴は膝が痛いとか言うての……。今回は、行かんということじゃ」

「やっぱり、都嫌いは治らないか……」

 バージは、特に驚くでもなく、モールのことを受け入れる。
 だが、ドルマは、モールの都行きを薦めた手前、モールのことを気遣い、モールの顔を立てる。

「いや。それもあるが、膝の病は本当じゃ。どうも、関節を痛めたみたいでな。赤く腫れ上がり、熱を持っておった。治癒魔法も効かんところを見ると、悪い菌に感染しておるみたいじゃな」

 水や光属性などの治癒魔法は、怪我を治すことはできるが、悪い菌による病気は治せない。
 大陸では、病気の治療は、薬を使用するか、聖属性の治癒魔法に頼る。
 この村には、聖属性を使えるものがおらず、また、始祖の血族には聖属性は効果を現さない。

「薬での治療はしていないのか?」

「一応、薬は塗っておるようじゃ。じゃが、まだしばらく様子を見てみんことには何とも言えんの」

「それでは、無理はさせられないな」

「そうじゃな。キントは期待しておったかもしれんが、残念じゃな」

「そうだな……」

 心配そうに首を垂れるキントに、ドルマとバージが慰める。

「はい。僕も、あとでお見舞いに行ってきます」

「あぁ。そうしてやってくれ。モールも喜ぶでな」

 ドルマは、キントの申し出に頷いて答える。
 そして、ドルマは、ジョティルの方を向いて言う。

「そういうことじゃから、今回の派遣は、ここにいる4人ということになるの」
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