ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第1章

第72話 教練師の報酬

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「まぁ、そういうことだ。この金貨1枚で、銭貨が10000枚手に入る。都市では、鶏の串焼き1本銭貨1枚の世界だから、贅沢をしなければ、4人家族が1年間を十分に過ごせる。……ところで、国主からは、どれぐらいの金が貰えるんだったか?」

 バージは、教練師の報酬について隣にいるジョティルへ問う。

「報酬ですか? ……そうですね、今回の任務では、毎月金貨2枚の報酬が国から支給されると思います」

 ジョティルは、すでに決められている教練師の給金について語る。
 大陸でのこよみは、ロシュフォールれきを引き継いだルシタニアれきが採用され、1年12か月365日となっている。

「……だそうだ。毎月金貨2枚だから、1年間では12か月分の金貨24枚が貰える。一般市民の24倍の年収だ。まぁ、悪くない話だろ?」

 バージは、にやりと笑って、アロンやジル、キントに視線を移す。

「……いい話かどうか、価値観が分からないので、よく分かりません。ただ、ずいぶん恵まれた待遇で迎え入れてくれることは分かります」

 アロンは、控えめに感想を述べる。

「まぁ、俺たちには蓄財という概念がないからな。ジルとキントも、その考えでいいぞ」

 バージはうんうんと頷き、先ほどから静かに耳を傾けているドルマを見る。

「叔父さん。俺の持っている硬貨は古いものだから、新しい硬貨と交換してもらうつもりだ。叔父さんの硬貨は、どうする?」

「うん? わしのか?」

「そうだ。もう古い硬貨は流通していなくて、骨董的な価値があるらしい。だから、収集家にでも売って、俺は美味いもんを食うつもりだ。叔父さんも交換する気なら、一緒に交換して、お土産でも買ってくるが……」

「そうか? それなら、バージにお願いするかの……。どれどれ、ちょっと待っててくれ」

 ドルマは、バージにそう言いおいて、部屋から出て行く。
 バージは、ドルマを見送り、アロンたちに、硬貨について理解を問う。

「硬貨のことは大体分かったか?」

「はい。なんとなくですが……」

 アロンは、ジルやキントを代表して答える。

「今は、それで構わん。国都では、硬貨を用いて、物と交換したり、通行料や宿泊料を支払ったりする仕組みがあると思っておけばいい」

 そう言って、バージは、隣のジョティルを見て、「あとは、何かあるか?」と問う。

「そうですね……。身分証のことを話しておいたほうがいいと思います」

「あぁ……、そうか。忘れていた。身分証か……」

 バージは、ジョティルに、「今、持っているか?」と尋ね、手を差し出す。

「えぇ、ありますよ」
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