74 / 492
凍雪国編第1章
第71話 貨幣価値
しおりを挟む
バージは、机の上に広げた硬貨の中から1枚の金貨をつまみ上げる。
「これは、金貨といって、硬貨の中で最も価値が高いものだ」
「きれいですね」
アロンも、バージと同じ金貨を手のひらの上からつまみ上げ、その両面をしげしげと眺める。
「そうだな。大陸では、金は希少価値が高い金属として有名だ。だから、流通している量も少ない。その金でできた硬貨は、貨幣価値が高く、それ1枚で、一般市民の年収に相当する」
バージは、すでにくすんでしまった金貨を、布でごしごしと磨き上げ、その輝きを取り戻す。
「年収……ですか?」
アロンは、聞きなれない言葉を耳にして、不思議そうに尋ねる。
「あぁ、そうか……。アロンたちは、お金に関する言葉を聞いたことがなかったな。そうだな……」
バージは、少し考えて、大陸で行われている貨幣経済の仕組みやその用語について詳しく解説する。
アロンたちは、年収や月収のほか、日当や依頼の報酬、家賃、税金、売値、買値など、生活にまつわるお金の言葉を学ぶ。
また、国都での主要な移動手段となっている馬についても教えられる。
「馬というのは、大人しい草食動物で、ボーと同じぐらいの大きさで、人を乗せて走ることができる生き物だ。国都では、馬は人々の移動を助ける動物として大変重宝されている」
「俺たちも乗るのですか?」
「場合によるな。急ぎの用であれば、馬に乗る必要も出てくると思うが、たいていの場合は、馬に引かせた馬車という乗り物に乗って移動することになる」
「馬車?」
ジルが、小首をかしげる。
「あぁ。馬は力持ちだからな。この部屋の大きさぐらいの箱を軽々と引くことが出来る。もちろん、人を乗せたままな。まぁ、簡単に言うと、村でも農作業で使っている手押し車を小屋並みの大きさにしたものだな」
「そうですか……。あまり想像ができませんが、なんとなく分かりました」
「あぁ、アロン。今はそれでいい。因みに、馬車に乗るお金を運賃と言うが、銭貨が5枚ほどいる」
バージは、ジョティルの手のひらから四角い鉄の硬貨をつまみ上げ、アロンたちに見せる。
「ずいぶん小さいんですね」
「そうだな。銭貨の材質は鉄で、大きさも爪ほどしかない。国都では銭貨が大量に出回り、日常的な取引は、ほとんどがこの銭貨で行われている」
「この金貨と銭貨は、どう違うのですか?」
アロンは、バージの真似をして、先ほどから磨き上げていた金貨を差し出す。
「金貨と銭貨は、希少価値が違う。だから、金貨を銭貨と交換するには、それなりの数と交換しなければならん。確か……、金貨1枚で銭貨10000枚だったか?」
バージは、記憶を頼りに思い出すが、少し自信がなくなり、隣のジョティルへ助けを求める。
「そうですね。バージの言うとおりで合っています。今から、50年ぐらい前になりますが、ルシタニア帝国が貨幣制度を固定価格に統一しました。それまでは、金貨の価値が毎年変更されていましたが、ロシュフォール時代に用いられた通貨制度を復活させて、金貨1枚は銀貨10枚、銅貨100枚、銭貨10000枚の価値と定められました」
ジョティルは、大陸で共通する貨幣価値について説明する。
金貨1枚は、銀貨10枚と交換できる。
また、銀貨1枚は、銅貨10枚と交換し、銅貨1枚は銭貨100枚と交換できる。
「そうだったな。お陰で、俺は両替の計算に悩まされずに済んだ」
「えぇ。その代わりに、大陸中の両替商が廃業になり、貸し金商に鞍替えする者が続出しましたね……」
ジョティルは、その当時のことを思い出し、苦笑を漏らす。
「美味い汁を吸っていた者があぶれたからな」
「そうですね」
バージとジョティルは、しばし思い出話に花を咲かせる。
そして、バージは、アロンたちに向き直り、続きを話しだす。
「これは、金貨といって、硬貨の中で最も価値が高いものだ」
「きれいですね」
アロンも、バージと同じ金貨を手のひらの上からつまみ上げ、その両面をしげしげと眺める。
「そうだな。大陸では、金は希少価値が高い金属として有名だ。だから、流通している量も少ない。その金でできた硬貨は、貨幣価値が高く、それ1枚で、一般市民の年収に相当する」
バージは、すでにくすんでしまった金貨を、布でごしごしと磨き上げ、その輝きを取り戻す。
「年収……ですか?」
アロンは、聞きなれない言葉を耳にして、不思議そうに尋ねる。
「あぁ、そうか……。アロンたちは、お金に関する言葉を聞いたことがなかったな。そうだな……」
バージは、少し考えて、大陸で行われている貨幣経済の仕組みやその用語について詳しく解説する。
アロンたちは、年収や月収のほか、日当や依頼の報酬、家賃、税金、売値、買値など、生活にまつわるお金の言葉を学ぶ。
また、国都での主要な移動手段となっている馬についても教えられる。
「馬というのは、大人しい草食動物で、ボーと同じぐらいの大きさで、人を乗せて走ることができる生き物だ。国都では、馬は人々の移動を助ける動物として大変重宝されている」
「俺たちも乗るのですか?」
「場合によるな。急ぎの用であれば、馬に乗る必要も出てくると思うが、たいていの場合は、馬に引かせた馬車という乗り物に乗って移動することになる」
「馬車?」
ジルが、小首をかしげる。
「あぁ。馬は力持ちだからな。この部屋の大きさぐらいの箱を軽々と引くことが出来る。もちろん、人を乗せたままな。まぁ、簡単に言うと、村でも農作業で使っている手押し車を小屋並みの大きさにしたものだな」
「そうですか……。あまり想像ができませんが、なんとなく分かりました」
「あぁ、アロン。今はそれでいい。因みに、馬車に乗るお金を運賃と言うが、銭貨が5枚ほどいる」
バージは、ジョティルの手のひらから四角い鉄の硬貨をつまみ上げ、アロンたちに見せる。
「ずいぶん小さいんですね」
「そうだな。銭貨の材質は鉄で、大きさも爪ほどしかない。国都では銭貨が大量に出回り、日常的な取引は、ほとんどがこの銭貨で行われている」
「この金貨と銭貨は、どう違うのですか?」
アロンは、バージの真似をして、先ほどから磨き上げていた金貨を差し出す。
「金貨と銭貨は、希少価値が違う。だから、金貨を銭貨と交換するには、それなりの数と交換しなければならん。確か……、金貨1枚で銭貨10000枚だったか?」
バージは、記憶を頼りに思い出すが、少し自信がなくなり、隣のジョティルへ助けを求める。
「そうですね。バージの言うとおりで合っています。今から、50年ぐらい前になりますが、ルシタニア帝国が貨幣制度を固定価格に統一しました。それまでは、金貨の価値が毎年変更されていましたが、ロシュフォール時代に用いられた通貨制度を復活させて、金貨1枚は銀貨10枚、銅貨100枚、銭貨10000枚の価値と定められました」
ジョティルは、大陸で共通する貨幣価値について説明する。
金貨1枚は、銀貨10枚と交換できる。
また、銀貨1枚は、銅貨10枚と交換し、銅貨1枚は銭貨100枚と交換できる。
「そうだったな。お陰で、俺は両替の計算に悩まされずに済んだ」
「えぇ。その代わりに、大陸中の両替商が廃業になり、貸し金商に鞍替えする者が続出しましたね……」
ジョティルは、その当時のことを思い出し、苦笑を漏らす。
「美味い汁を吸っていた者があぶれたからな」
「そうですね」
バージとジョティルは、しばし思い出話に花を咲かせる。
そして、バージは、アロンたちに向き直り、続きを話しだす。
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
〈完結〉この女を家に入れたことが父にとっての致命傷でした。
江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」アリサは父の後妻の言葉により、家を追い出されることとなる。
だがそれは待ち望んでいた日がやってきたでもあった。横領の罪で連座蟄居されられていた祖父の復活する日だった。
十年前、八歳の時からアリサは父と後妻により使用人として扱われてきた。
ところが自分の代わりに可愛がられてきたはずの異母妹ミュゼットまでもが、義母によって使用人に落とされてしまった。義母は自分の周囲に年頃の女が居ること自体が気に食わなかったのだ。
元々それぞれ自体は仲が悪い訳ではなかった二人は、お互い使用人の立場で二年間共に過ごすが、ミュゼットへの義母の仕打ちの酷さに、アリサは彼女を乳母のもとへ逃がす。
そして更に二年、とうとうその日が来た……
晴れて国外追放にされたので魅了を解除してあげてから出て行きました [完]
ラララキヲ
ファンタジー
卒業式にて婚約者の王子に婚約破棄され義妹を殺そうとしたとして国外追放にされた公爵令嬢のリネットは一人残された国境にて微笑む。
「さようなら、私が産まれた国。
私を自由にしてくれたお礼に『魅了』が今後この国には効かないようにしてあげるね」
リネットが居なくなった国でリネットを追い出した者たちは国王の前に頭を垂れる──
◇婚約破棄の“後”の話です。
◇転生チート。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
◇人によっては最後「胸糞」らしいです。ごめんね;^^
◇なので感想欄閉じます(笑)
政略結婚で結ばれた夫がメイドばかり優先するので、全部捨てさせてもらいます。
hana
恋愛
政略結婚で結ばれた夫は、いつも私ではなくメイドの彼女を優先する。
明らかに関係を持っているのに「彼女とは何もない」と言い張る夫。
メイドの方は私に「彼と別れて」と言いにくる始末。
もうこんな日々にはうんざりです、全部捨てさせてもらいます。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
伯爵夫人のお気に入り
つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。
数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。
喜ぶ伯爵夫人。
伯爵夫人を慕う少女。
静観する伯爵。
三者三様の想いが交差する。
歪な家族の形。
「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」
「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」
「家族?いいえ、貴方は他所の子です」
ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。
「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。
放置された公爵令嬢が幸せになるまで
こうじ
ファンタジー
アイネス・カンラダは物心ついた時から家族に放置されていた。両親の顔も知らないし兄や妹がいる事は知っているが顔も話した事もない。ずっと離れで暮らし自分の事は自分でやっている。そんな日々を過ごしていた彼女が幸せになる話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる