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凍雪国編第1章
第71話 貨幣価値
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バージは、机の上に広げた硬貨の中から1枚の金貨をつまみ上げる。
「これは、金貨といって、硬貨の中で最も価値が高いものだ」
「きれいですね」
アロンも、バージと同じ金貨を手のひらの上からつまみ上げ、その両面をしげしげと眺める。
「そうだな。大陸では、金は希少価値が高い金属として有名だ。だから、流通している量も少ない。その金でできた硬貨は、貨幣価値が高く、それ1枚で、一般市民の年収に相当する」
バージは、すでにくすんでしまった金貨を、布でごしごしと磨き上げ、その輝きを取り戻す。
「年収……ですか?」
アロンは、聞きなれない言葉を耳にして、不思議そうに尋ねる。
「あぁ、そうか……。アロンたちは、お金に関する言葉を聞いたことがなかったな。そうだな……」
バージは、少し考えて、大陸で行われている貨幣経済の仕組みやその用語について詳しく解説する。
アロンたちは、年収や月収のほか、日当や依頼の報酬、家賃、税金、売値、買値など、生活にまつわるお金の言葉を学ぶ。
また、国都での主要な移動手段となっている馬についても教えられる。
「馬というのは、大人しい草食動物で、ボーと同じぐらいの大きさで、人を乗せて走ることができる生き物だ。国都では、馬は人々の移動を助ける動物として大変重宝されている」
「俺たちも乗るのですか?」
「場合によるな。急ぎの用であれば、馬に乗る必要も出てくると思うが、たいていの場合は、馬に引かせた馬車という乗り物に乗って移動することになる」
「馬車?」
ジルが、小首をかしげる。
「あぁ。馬は力持ちだからな。この部屋の大きさぐらいの箱を軽々と引くことが出来る。もちろん、人を乗せたままな。まぁ、簡単に言うと、村でも農作業で使っている手押し車を小屋並みの大きさにしたものだな」
「そうですか……。あまり想像ができませんが、なんとなく分かりました」
「あぁ、アロン。今はそれでいい。因みに、馬車に乗るお金を運賃と言うが、銭貨が5枚ほどいる」
バージは、ジョティルの手のひらから四角い鉄の硬貨をつまみ上げ、アロンたちに見せる。
「ずいぶん小さいんですね」
「そうだな。銭貨の材質は鉄で、大きさも爪ほどしかない。国都では銭貨が大量に出回り、日常的な取引は、ほとんどがこの銭貨で行われている」
「この金貨と銭貨は、どう違うのですか?」
アロンは、バージの真似をして、先ほどから磨き上げていた金貨を差し出す。
「金貨と銭貨は、希少価値が違う。だから、金貨を銭貨と交換するには、それなりの数と交換しなければならん。確か……、金貨1枚で銭貨10000枚だったか?」
バージは、記憶を頼りに思い出すが、少し自信がなくなり、隣のジョティルへ助けを求める。
「そうですね。バージの言うとおりで合っています。今から、50年ぐらい前になりますが、ルシタニア帝国が貨幣制度を固定価格に統一しました。それまでは、金貨の価値が毎年変更されていましたが、ロシュフォール時代に用いられた通貨制度を復活させて、金貨1枚は銀貨10枚、銅貨100枚、銭貨10000枚の価値と定められました」
ジョティルは、大陸で共通する貨幣価値について説明する。
金貨1枚は、銀貨10枚と交換できる。
また、銀貨1枚は、銅貨10枚と交換し、銅貨1枚は銭貨100枚と交換できる。
「そうだったな。お陰で、俺は両替の計算に悩まされずに済んだ」
「えぇ。その代わりに、大陸中の両替商が廃業になり、貸し金商に鞍替えする者が続出しましたね……」
ジョティルは、その当時のことを思い出し、苦笑を漏らす。
「美味い汁を吸っていた者があぶれたからな」
「そうですね」
バージとジョティルは、しばし思い出話に花を咲かせる。
そして、バージは、アロンたちに向き直り、続きを話しだす。
「これは、金貨といって、硬貨の中で最も価値が高いものだ」
「きれいですね」
アロンも、バージと同じ金貨を手のひらの上からつまみ上げ、その両面をしげしげと眺める。
「そうだな。大陸では、金は希少価値が高い金属として有名だ。だから、流通している量も少ない。その金でできた硬貨は、貨幣価値が高く、それ1枚で、一般市民の年収に相当する」
バージは、すでにくすんでしまった金貨を、布でごしごしと磨き上げ、その輝きを取り戻す。
「年収……ですか?」
アロンは、聞きなれない言葉を耳にして、不思議そうに尋ねる。
「あぁ、そうか……。アロンたちは、お金に関する言葉を聞いたことがなかったな。そうだな……」
バージは、少し考えて、大陸で行われている貨幣経済の仕組みやその用語について詳しく解説する。
アロンたちは、年収や月収のほか、日当や依頼の報酬、家賃、税金、売値、買値など、生活にまつわるお金の言葉を学ぶ。
また、国都での主要な移動手段となっている馬についても教えられる。
「馬というのは、大人しい草食動物で、ボーと同じぐらいの大きさで、人を乗せて走ることができる生き物だ。国都では、馬は人々の移動を助ける動物として大変重宝されている」
「俺たちも乗るのですか?」
「場合によるな。急ぎの用であれば、馬に乗る必要も出てくると思うが、たいていの場合は、馬に引かせた馬車という乗り物に乗って移動することになる」
「馬車?」
ジルが、小首をかしげる。
「あぁ。馬は力持ちだからな。この部屋の大きさぐらいの箱を軽々と引くことが出来る。もちろん、人を乗せたままな。まぁ、簡単に言うと、村でも農作業で使っている手押し車を小屋並みの大きさにしたものだな」
「そうですか……。あまり想像ができませんが、なんとなく分かりました」
「あぁ、アロン。今はそれでいい。因みに、馬車に乗るお金を運賃と言うが、銭貨が5枚ほどいる」
バージは、ジョティルの手のひらから四角い鉄の硬貨をつまみ上げ、アロンたちに見せる。
「ずいぶん小さいんですね」
「そうだな。銭貨の材質は鉄で、大きさも爪ほどしかない。国都では銭貨が大量に出回り、日常的な取引は、ほとんどがこの銭貨で行われている」
「この金貨と銭貨は、どう違うのですか?」
アロンは、バージの真似をして、先ほどから磨き上げていた金貨を差し出す。
「金貨と銭貨は、希少価値が違う。だから、金貨を銭貨と交換するには、それなりの数と交換しなければならん。確か……、金貨1枚で銭貨10000枚だったか?」
バージは、記憶を頼りに思い出すが、少し自信がなくなり、隣のジョティルへ助けを求める。
「そうですね。バージの言うとおりで合っています。今から、50年ぐらい前になりますが、ルシタニア帝国が貨幣制度を固定価格に統一しました。それまでは、金貨の価値が毎年変更されていましたが、ロシュフォール時代に用いられた通貨制度を復活させて、金貨1枚は銀貨10枚、銅貨100枚、銭貨10000枚の価値と定められました」
ジョティルは、大陸で共通する貨幣価値について説明する。
金貨1枚は、銀貨10枚と交換できる。
また、銀貨1枚は、銅貨10枚と交換し、銅貨1枚は銭貨100枚と交換できる。
「そうだったな。お陰で、俺は両替の計算に悩まされずに済んだ」
「えぇ。その代わりに、大陸中の両替商が廃業になり、貸し金商に鞍替えする者が続出しましたね……」
ジョティルは、その当時のことを思い出し、苦笑を漏らす。
「美味い汁を吸っていた者があぶれたからな」
「そうですね」
バージとジョティルは、しばし思い出話に花を咲かせる。
そして、バージは、アロンたちに向き直り、続きを話しだす。
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