ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第1章

第60話 ヤグラムの逃避行3

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「魔素は、この部屋にも漂っているが、感じられるものと感じられないものがいる。ただ、魔素を感知できなくとも、皆は魔素が濃い環境でも平気で息を吸い、動くことができる」

 ダイザは、子どもたちの前で大きく深呼吸をしてみせ、何も問題がないことを理解させる。

「このことは、大陸の人間から見れば、異常な性質だと映ってしまう。また、魔力量の多いものは、長命族の血を引いていることが多い。そのため、短命族に知られれば、迫害の対象となってしまう」

「僕たちも嫌われるの?」

 それを聞いて、コウザが声を上げる。
 ダイザは、不安そうにしているコウザに頷いて答える。

「おそらく、そうなる。もちろん、短命族の中にも話の分かる人や優しい人はいる。しかし、個人で良い人はいても、集団になると、その良さは否定され、先祖が忌み嫌われたように、攻撃対象にされて、最悪、命を奪われてしまう」

「それが、僕たちの秘密?」

 コウザの隣にいるブエンが聞く。

「秘密のうちの1つだ。私たちが、ヤグラムの血を色濃く受け継いでいることも、濃い魔素に耐性があることも、優れた魔力を宿していることも秘密のことになる。だから、国都へ赴くときには、そのことに注意しなければいけないし、短命族との価値観の違いを理解して発言しなければいけない」

「国都には、短命族がいるの?」

 クスリナが疑問の声を上げる。

「あぁ、悪い。まだ、言ってなかったな。ヤグラムが、今の国都がある集落に立ち寄らなかったのは、その集落が短命族だったからだ。また、その集落の周辺にも、短命族の集落がたくさん点在している。だから、国都は、今でも短命族が中心の都市だし、国都の周辺には、ほとんど短命族しか住んでいない。長命族が多く住んでいるのは、サイバジ族の集落からその奥地になる」

 ダイザは、クスリナに説明し、その頷きを得たあと、続きを話しだす。

「ただ、サイバジ族よりも奥地は、逆に長命族しか住んでいない。その理由は、まず住むには環境が厳しすぎること、強い魔獣や魔物が数多く生息していることなどが挙げられる。そして、この島に住んでいる人間が特に少ないのは、魔素が濃過ぎるために長くは生きられないためだ」

「じゃぁ、僕たちもすぐ死んじゃうの?」

 素直なブエンが、泣き出しそうな声を上げる。

「いや。私たちには、ほとんど影響がない。現に、何も感じずに生活できているだろう?」

「うん」

「ただ、大陸の人間、それも、短命族にとっては事情が異なる。だから、この島のことは秘密にして、余計な詮索を受けないようにしなければいけないんだ。分かるな?」

「う、うん。なんとなく……」

 ブエンは、必死に理解しようと頑張っている姿を見せる。

「あぁ、今はなんとなくでいい。いつか、このことを思い出してくれればいい。それと……、これは付け加えになるが、私たちと、短命族では年の取り方も違う」

「そうなの?」

 ブエンは、思いがけないダイザの言葉に、即座に聞き返す。
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