46 / 492
凍雪国編第1章
第43話 戦への懸念
しおりを挟む
ドルマは、しばし考え、言葉を選ぶようにして話し出す。
「バルトの盟約は、守らねばならん。じゃが、戦に出向けば、当然、命を落とすものも出てくる。じゃから、わしは、戦地へ死にに行けとは、とてもじゃないが、口が裂けても言えん」
ドルマは、重苦しく静まり返った一同を見渡す。
そのなか、テムは、先ほど思いついた妙案を口にする。
「俺が一緒に行くのは、どうだ?」
「テムがか?」
「そうだ」
「それならば、テムが1人で行くことになる。テムとキントは、一緒には赴かせられん」
ドルマは、テムにきっぱりと告げる。
「どうしてだ?」
「畑を管理する者がいなくなる。それに、ともに赴いて、何かあれば、テムの家が途絶えることになる」
「血を残せ……か?」
テムは、この村に古くから言い伝わる教えを呟く。
「そうじゃ。これは、始祖の教えじゃ。バルトの盟約よりも重い」
ドルマは、厳粛な声で言い放つ。
「となると、どうすればいい?」
「そうじゃな……。まず、今回の国主の依頼じゃが、剣と魔法の教練を依頼されておる。じゃから、わしは、戦への出征はないであろうと踏んでおる」
「戦の心配はないのか?」
テムは、最も懸念していることを聞きたがる。
「ゼロではない。じゃが、その心配はあるまい。ジョティルの話じゃと、戦が起こるまでには、まだ時間的な余裕もあるそうじゃ」
「確かに、すぐに戦をするのに、のんびりと訓練をしている場合ではないからな」
テムは、ドルマの意見に賛同する。
「そうじゃ。そして、アロンやジル、それにキントには、まだまだ経験が足りん。戦へ行くのは、死にに行くようなものじゃ。わしは、若き命を散らせとうはない」
「それで?」
「わしは、この3人が国都へ赴いても問題はないと思っておる。ただ、やはり戦は心配じゃの。じゃから、期限を区切ることにする。3人には、3年間だけの派遣を許可する。それ以降は、経験が豊富なゲナンやニコルに代わってもらう」
「そうか……。村長、それを聞いて少し安心した」
テムは、硬くなっていた表情を緩め、隣のキントを見て微笑む。
「私もです」
ダイザが、愁眉を開き、懸念を払拭した声で答える。
「それは、何よりじゃ。じゃがな、2人とも……。バルトの盟約を守るときは、この村からもさらに人を出し、戦地へ送り込まねばならんかもしれん。もちろん、我が村だけではなく、ほかの部族の村からも人が集まるがな」
「はい、分かっています。そのときは、私やホレイさん、テムさんが適任でしょう」
「そうじゃな。そのときは、お主らに頼むとするかの。ホレイとテムも、それでいいな?」
「えぇ。私は、異存はありません」
ホレイは、話の落しどころが見えて、ほっとしながら頷く。
「俺もだ。キントが無事であれば、それでいい」
テムも、キントに危険が及ばないことに安心して頷く。
「そうか。それでは、そのときは、よろしく頼む」
ドルマは、ホレイやテムの返答を聞いて、安堵の吐息を漏らす。
「バルトの盟約は、守らねばならん。じゃが、戦に出向けば、当然、命を落とすものも出てくる。じゃから、わしは、戦地へ死にに行けとは、とてもじゃないが、口が裂けても言えん」
ドルマは、重苦しく静まり返った一同を見渡す。
そのなか、テムは、先ほど思いついた妙案を口にする。
「俺が一緒に行くのは、どうだ?」
「テムがか?」
「そうだ」
「それならば、テムが1人で行くことになる。テムとキントは、一緒には赴かせられん」
ドルマは、テムにきっぱりと告げる。
「どうしてだ?」
「畑を管理する者がいなくなる。それに、ともに赴いて、何かあれば、テムの家が途絶えることになる」
「血を残せ……か?」
テムは、この村に古くから言い伝わる教えを呟く。
「そうじゃ。これは、始祖の教えじゃ。バルトの盟約よりも重い」
ドルマは、厳粛な声で言い放つ。
「となると、どうすればいい?」
「そうじゃな……。まず、今回の国主の依頼じゃが、剣と魔法の教練を依頼されておる。じゃから、わしは、戦への出征はないであろうと踏んでおる」
「戦の心配はないのか?」
テムは、最も懸念していることを聞きたがる。
「ゼロではない。じゃが、その心配はあるまい。ジョティルの話じゃと、戦が起こるまでには、まだ時間的な余裕もあるそうじゃ」
「確かに、すぐに戦をするのに、のんびりと訓練をしている場合ではないからな」
テムは、ドルマの意見に賛同する。
「そうじゃ。そして、アロンやジル、それにキントには、まだまだ経験が足りん。戦へ行くのは、死にに行くようなものじゃ。わしは、若き命を散らせとうはない」
「それで?」
「わしは、この3人が国都へ赴いても問題はないと思っておる。ただ、やはり戦は心配じゃの。じゃから、期限を区切ることにする。3人には、3年間だけの派遣を許可する。それ以降は、経験が豊富なゲナンやニコルに代わってもらう」
「そうか……。村長、それを聞いて少し安心した」
テムは、硬くなっていた表情を緩め、隣のキントを見て微笑む。
「私もです」
ダイザが、愁眉を開き、懸念を払拭した声で答える。
「それは、何よりじゃ。じゃがな、2人とも……。バルトの盟約を守るときは、この村からもさらに人を出し、戦地へ送り込まねばならんかもしれん。もちろん、我が村だけではなく、ほかの部族の村からも人が集まるがな」
「はい、分かっています。そのときは、私やホレイさん、テムさんが適任でしょう」
「そうじゃな。そのときは、お主らに頼むとするかの。ホレイとテムも、それでいいな?」
「えぇ。私は、異存はありません」
ホレイは、話の落しどころが見えて、ほっとしながら頷く。
「俺もだ。キントが無事であれば、それでいい」
テムも、キントに危険が及ばないことに安心して頷く。
「そうか。それでは、そのときは、よろしく頼む」
ドルマは、ホレイやテムの返答を聞いて、安堵の吐息を漏らす。
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。
王女の夢見た世界への旅路
ライ
ファンタジー
侍女を助けるために幼い王女は、己が全てをかけて回復魔術を使用した。
無茶な魔術の使用による代償で魔力の成長が阻害されるが、代わりに前世の記憶を思い出す。
王族でありながら貴族の中でも少ない魔力しか持てず、王族の中で孤立した王女は、理想と夢をかなえるために行動を起こしていく。
これは、彼女が夢と理想を求めて自由に生きる旅路の物語。
※小説家になろう様にも投稿しています。
少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。
大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった!
でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、
他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう!
主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!?
はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!?
いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。
色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。
*** 作品について ***
この作品は、真面目なチート物ではありません。
コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております
重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、
この作品をスルーして下さい。
*カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。
ある日仕事帰りに神様の手違いがあったが無事に転移させて貰いました。
いくみ
ファンタジー
寝てたら起こされて目を開けたら知らない場所で神様??が、君は死んだと告げられる。そして神様が、管理する世界(マジョル)に転生か転移しないかと提案され、キターファンタジーとガッツポーズする。
成宮暁彦は独身、サラリーマンだった
アラサー間近パットしない容姿で、プチオタ、完全独り身爆走中。そんな暁彦が神様に願ったのは、あり得ない位のチートの数々、神様に無理難題を言い困らせ
スキルやらetcを貰い転移し、冒険しながらスローライフを目指して楽しく暮らす場を探すお話になると?思います。
なにぶん、素人が書くお話なので
疑問やら、文章が読みにくいかも知れませんが、暖かい目でお読み頂けたらと思います。
あと、とりあえずR15指定にさせて頂きます。
聖女の姉ですが、宰相閣下は無能な妹より私がお好きなようですよ?
渡邊 香梨
ファンタジー
コミックシーモア電子コミック大賞2025ノミネート! 11/30まで投票宜しくお願いします……!m(_ _)m
――小説3巻&コミックス1巻大好評発売中!――【旧題:聖女の姉ですが、国外逃亡します!~妹のお守りをするくらいなら、腹黒宰相サマと駆け落ちします!~】
12.20/05.02 ファンタジー小説ランキング1位有難うございます!
双子の妹ばかりを優先させる家族から離れて大学へ進学、待望の一人暮らしを始めた女子大生・十河怜菜(そがわ れいな)は、ある日突然、異世界へと召喚された。
召喚させたのは、双子の妹である舞菜(まな)で、召喚された先は、乙女ゲーム「蘇芳戦記」の中の世界。
国同士を繋ぐ「転移扉」を守護する「聖女」として、舞菜は召喚されたものの、守護魔力はともかく、聖女として国内貴族や各国上層部と、社交が出来るようなスキルも知識もなく、また、それを会得するための努力をするつもりもなかったために、日本にいた頃の様に、自分の代理(スペア)として、怜菜を同じ世界へと召喚させたのだ。
妹のお守りは、もうごめん――。
全てにおいて妹優先だった生活から、ようやく抜け出せたのに、再び妹のお守りなどと、冗談じゃない。
「宰相閣下、私と駆け落ちしましょう」
内心で激怒していた怜菜は、日本同様に、ここでも、妹の軛(くびき)から逃れるための算段を立て始めた――。
※ R15(キスよりちょっとだけ先)が入る章には☆を入れました。
【近況ボードに書籍化についてや、参考資料等掲載中です。宜しければそちらもご参照下さいませ】
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
自重知らずの転生貴族は、現在知識チートでどんどん商品を開発していきます!!
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
無限の時空間の中、いきなり意識が覚醒した。
女神の話によれば、異世界に転生できるという。
ディルメス侯爵家の次男、シオン・ディルメスに転生してから九年が経ったある日、邸の執務室へ行くと、対立国の情報が飛び込んできた。
父であるディルメス侯爵は敵軍を迎撃するため、国境にあるロンメル砦へと出発していく。
その間に執務長が領地の資金繰りに困っていたため、シオンは女神様から授かったスキル『創造魔法陣』を用いて、骨から作った『ボーン食器』を発明する。
食器は大ヒットとなり、侯爵領全域へと広がっていった。
そして噂は王国内の貴族達から王宮にまで届き、シオンは父と一緒に王城へ向かうことに……『ボーン食器』は、シオンの予想を遥かに超えて、大事へと発展していくのだった……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる