ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第1章

第43話 戦への懸念

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 ドルマは、しばし考え、言葉を選ぶようにして話し出す。

「バルトの盟約は、守らねばならん。じゃが、戦に出向けば、当然、命を落とすものも出てくる。じゃから、わしは、戦地へ死にに行けとは、とてもじゃないが、口が裂けても言えん」

 ドルマは、重苦しく静まり返った一同を見渡す。
 そのなか、テムは、先ほど思いついた妙案を口にする。

「俺が一緒に行くのは、どうだ?」

「テムがか?」

「そうだ」

「それならば、テムが1人で行くことになる。テムとキントは、一緒には赴かせられん」

 ドルマは、テムにきっぱりと告げる。

「どうしてだ?」

「畑を管理する者がいなくなる。それに、ともに赴いて、何かあれば、テムの家が途絶えることになる」

「血を残せ……か?」

 テムは、この村に古くから言い伝わる教えを呟く。

「そうじゃ。これは、始祖の教えじゃ。バルトの盟約よりも重い」

 ドルマは、厳粛な声で言い放つ。

「となると、どうすればいい?」

「そうじゃな……。まず、今回の国主の依頼じゃが、剣と魔法の教練を依頼されておる。じゃから、わしは、戦への出征はないであろうと踏んでおる」

「戦の心配はないのか?」

 テムは、最も懸念していることを聞きたがる。

「ゼロではない。じゃが、その心配はあるまい。ジョティルの話じゃと、戦が起こるまでには、まだ時間的な余裕もあるそうじゃ」

「確かに、すぐに戦をするのに、のんびりと訓練をしている場合ではないからな」

 テムは、ドルマの意見に賛同する。

「そうじゃ。そして、アロンやジル、それにキントには、まだまだ経験が足りん。戦へ行くのは、死にに行くようなものじゃ。わしは、若き命を散らせとうはない」

「それで?」

「わしは、この3人が国都へ赴いても問題はないと思っておる。ただ、やはり戦は心配じゃの。じゃから、期限を区切ることにする。3人には、3年間だけの派遣を許可する。それ以降は、経験が豊富なゲナンやニコルに代わってもらう」

「そうか……。村長、それを聞いて少し安心した」

 テムは、硬くなっていた表情を緩め、隣のキントを見て微笑む。

「私もです」

 ダイザが、愁眉を開き、懸念を払拭した声で答える。

「それは、何よりじゃ。じゃがな、2人とも……。バルトの盟約を守るときは、この村からもさらに人を出し、戦地へ送り込まねばならんかもしれん。もちろん、我が村だけではなく、ほかの部族の村からも人が集まるがな」

「はい、分かっています。そのときは、私やホレイさん、テムさんが適任でしょう」

「そうじゃな。そのときは、お主らに頼むとするかの。ホレイとテムも、それでいいな?」

「えぇ。私は、異存はありません」

 ホレイは、話の落しどころが見えて、ほっとしながら頷く。

「俺もだ。キントが無事であれば、それでいい」

 テムも、キントに危険が及ばないことに安心して頷く。

「そうか。それでは、そのときは、よろしく頼む」

 ドルマは、ホレイやテムの返答を聞いて、安堵の吐息を漏らす。
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