ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第1章

第41話 キントの意向3

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 テムは、息子の秘めた思いを聞いて、理解を示す。

「あぁ。その気持ちはよく分かるぞ。俺も、ホレイの前に、一度国都へ行ったことがあるからな」

「父さんも?」

「あぁ。俺の場合は、師範ではなく、交易に行ったのだがな」

 テムは、大陸へ行ったときのことを思い起こして、息子に語る。

「交易?」

「そうだ。裏の畑に紅玉こうぎょく……と言っても分からんか……。あそこに、りんごの木が植わっているだろう?」

 テムは、キントに小屋の窓から見える大きく育った木々を指差す。

「うん」

「あの木々は、俺が国都で透輝石を売って手に入れたものだ。もともとは、大陸中央を縦断するミセル山脈の高地にしか生えていない木なんだが……、国都まで出向いたときに、たまたま、行商人がその苗木を持っていたんだ」

「おぅ! そうなのか?」

 隣で聞いていたホレイが、驚きの声を上げる。

「そうだ。紅玉は、ミセル山脈の特産品だよ。俺は、モール爺から聞いていて、一度は食べてみたいと思っていたところ、運良くその苗木が手に入ったんだ」

「ほぅ……」

「この島の気候は、紅玉の木が生育するミセル山脈の高地と似ているからな。今では、この村の特産品と呼べるぐらい、たくさん増えたぞ」

 テムは、手塩にかけて育て上げた木々を誇り、満足そうにりんごの木を見つめる。

「そうだったのか……。それは、知らなかったな……」

「そうか? では、いつも食べている高山米はどうだ? あれも、俺が買い付けてきた作物だとは知らんよな?」

 テムは、村のものが普段食べている高山米についての由来をホレイに話す。

「あぁ……」

「あの高山米も、そのときの交易で手に入れた種から育て増やしたものだ。あと、黄桃もだな」

「黄桃もか?」

「あぁ。黄桃の方は、全くの偶然だがな」

 テムは、そのときのことを思い出し、愉快そうに笑いながら言う。

「偶然?」

「紅玉を大量に買い付けたら、おまけとして、くれたんだ。最初は、何の木か分からなかったが、育ててみたら、黄桃が実った。まぁ、酸っぱい品種の黄桃なのか、そのまま食べるには難しかったがな。だから、数十年かけて、ほかの植物と掛け合わせ、食べられるぐらいまでには甘くしたんだ」

「紅玉や高山米が食べられるのも、父さんのお陰なんだね」

 キントは、それまで知らなかった事実を告げられて、自分の父親を少し誇らしい気持ちになる。

「はっはっはっ……。まぁ、昔のことだ。今では、誰もそんなことは覚えていない」

「確かにな。お主が、私よりも前に国都へ行ったことは覚えているが、てっきり、観光に行ってきたのかと思っていたぞ」

 ホレイは、テムが若かりし頃に、ふらっと村からいなくなったことを覚えている。

「まぁ、実際にそう言っていたしな。分からんのも、無理はない。……と、話がだいぶそれたな」

 テムは、照れ隠しに笑いながら、話の本題へと戻る。

「あぁ、そうだな。……キント。国都へ行くのに不安があるのは分かる。だが、今回は、モールさんやバージなどが一緒に行ってくれる。それに、人見知りを克服する良いチャンスにもなる」

 ホレイは、キントを改めて説得する。

「うん」

「だから、一度、国都へ行って、自分を試してみたらいい。それに、もし駄目だったら、その時は、モールさんと一緒に帰ってくればいい。モールさんなら、喜んで帰ってくるだろう」

「うん、分かった。僕、行ってみるよ」

 キントは、先ほどよりも明るい声を出して答える。
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