ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第1章

第37話 アロンとジルの意向5

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「そんな命令は受けない。大体、何を守るために、戦に行くのさ? この村とは、何も関係のない戦いでしょ?」

 ジルは、幼さゆえの純真さで、不当な要求を突っぱねるがごとく、言い放つ。

「直接的にはな。だが、バルトの盟約が関係してくるかもしれん」

 ダイザは、この村だけではなく、ディスガルドの国全体が関わる話を付け加える。

「バルトの盟約?」

 ジルは素直に聞き返し、隣のアロンも疑問符を顔に浮かべる。

「あぁ。詳しくは、夜にでも話してやるが、この村の祖先も加わった盟約だ」

 ダイザは、大切な盟約については、もっと時間がゆったりと取れるときに説明するつもりである。

「よく分からないよ」

 アロンは、素直に感想を言う。

「そうだな……。簡単に言うと、昔、この地へ逃れてくる祖先を支援してくれた見返りに、バルトの民を守ってやるという約束だ」

 ダイザは、話の流れから、要点だけでも話しておく必要があることを理解する。

「俺たちには、関係ないよ」

 ジルは、あくまでも盟約のことを突っぱねる。

「いいや。この村の人間であれば、バルトの盟約を守らねばならん」

「どうして?」

「バルトの民は、沈黙の民とも呼ばれ、現在もほかの国家との関わりを断って暮らしている。それは、祖先との約束を守るためであり、祖先から託された秘宝を守るためでもある」

「秘宝?」

 それまで静かに話の成り行きを聞いていたフレイが反応する。

「聞いた話ではな。まぁ、実際には、そんなに大層なものじゃなく、祖先がこの地まで運べなかった昔の魔道具や生活雑貨など、今ではガラクタ扱いされてもおかしくないような品物らしいがな」

「何だ……。少し期待して損した」

 フレイは、がっくりと肩を落とす。

「はははっ……。伝承とは、大抵そんなもんだ。フレイは、そういった話が好きだな」

 ダイザは、話をなごやかにしてくれたフレイに密かに感謝し、笑い飛ばす。

「うん」

 フレイは、素直に頷く。

「俺も好きだけど……」

 アロンは、フレイと同様に少しがっくりときて、そう呟く。

「はぁ……。うちの男どもは、夢を見過ぎ……」

 一瞬目を輝かせたジルの様子も見ていた長女のリリアは、現実主義者らしく嘆きの声を上げる。

「はははっ……。そう言うな、リリア。これぞ、男のロマンだ。……と、話がそれたな。そういうわけで、バルトの盟約を求められたら、我々はそれに答えなければならん。だから、ジルも、国都へ行くのなら、戦に赴く覚悟が必要になる。それでも、行くか?」

 ダイザは、ジルに念を押す。

「戦いは恐れないよ。ただ、意味のない戦いは無駄だと感じるだけだから……」

 ジルは、しぶしぶではあるが、戦いへ参加を了承し始める。

「バルトの盟約を守ってくれるか?」

 ダイザは、再度聞く。

「この村の掟みたいなものでしょ?」

「そうだな。これまで、この村の人間は、大陸とは無関係に暮らしていた。だから、バルトの盟約のことを詳しく知らないものが多い。お前たちにも、話してこなかったしな。だが、国都へ行くのなら、我々がどんな一族なのか、どういう経緯でここに暮らしているのかを知らなければならない」

 ダイザは、2人を前にして、急に厳かな雰囲気を醸し出し、話を続ける。

「それは、いつ話してくれるの?」

 ジルは、ダイザへ挑むように聞く。
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