ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第1章

第36話 アロンとジルの意向4

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「ただな、今回は、ジョティルという大陸の案内人が付いている。それにな、国都に行けば、住むところも飯も用意されているぞ」

 ダイザは、任務で赴く利点を強調する。

「本当?」

 アロンが少し興味を引かれ、身を乗り出すようにして聞き返す。
 一方、ジルは、まだ黙ったままで、先ほどの戦という言葉が引っ掛かっている。

「あぁ。私たちが以前に国都へ行ったときも、そうだったからな。国主が、寄宿舎の部屋を用意してくれて、使用人を派遣してくれた」

「仕事は何をしていたの?」

「今回と同じだな。軍の訓練所に顔を出して、剣の手ほどきや魔法の使い方を教えていた。ときには、士官学校まで出向いて、学生たちに実戦を教えていたな」

 ダイザは、当時のことを思い出しながら、2人に説明する。

「俺たちも、国都に行って、先生になるの?」

 アロンは、まだ見ぬ国都を思い浮かべ、楽しげに笑う。

「そういう要請だからな。以前は、私とバージとホレイさんの3人で行ったが、今回は、戦が近いこともあって5人で行くことになりそうだ」

「俺とジルのほかには、誰が行くの?」

「バージとモールさん、それにキントが候補に挙がっているな」

「父さんは行かないの?」

「あぁ。村長が、俺とホレイさん、ゲナンにニコルは村の警護として残ってくれと言っていた。だから、村長には、俺の代わりとして、アロンとジルをすすめたんだ。2人が以前から島の外へ出たがっていたのを知っていたからな」

 ダイザは、村長とのやり取りを2人に説明し、2人の希望をかなえるための提案だったことを話す。

「そうなんだ……。なら、チャンスだね」

 アロンは、乗り気になり、希望に満ちた表情をする。

「そうだな。案内付きで、衣食住が確保された話だ。だから、チャンスであると言ってもいい。だが、ロナリアが心配しているように、戦が近いことが問題だ」

 それまで、ダイザの隣で大人しく話の成り行きを見守っていたロナリアが口を挟む。

「そうよ、アロンとジル。2人とも、よく考えてから決めなさい。遊びに行くのとは訳が違うのよ」

 ロナリアは、念を押すように2人に言い聞かせ、後悔のない選択をするように願う。

「俺は、行くよ」

 悩むジルをちらりと見て、アロンは目に決意を込めて答える。

「自分の力を試してみたいし、大陸の国々を見て回りたいから……」

「戦地にも行くのか?」

 ダイザが、アロンの覚悟を問う。

「うん。もし、戦に派遣されたら、迷わずに行くと思う」

「下手をしたら、死ぬぞ?」

「それは、覚悟の上だよ。それに、この島にいても、強い魔物に襲われたら死ぬことだってある。それは、大陸に行っても変わらないよね?」

 アロンはそう言って、ダイザに同意を求める。

「まぁ、確かに、アロンの言うことは一理ある。だが、魔物と人とでは、戦い方が根本的に異なる。いくら腕が立つとはいえ、大勢に奇襲されたら一溜まりもない」

 ダイザは、対人戦の難しさを経験してきたからこそ、重みのある言葉でアロンに話す。

「分かっているよ。だから、その辺りのことも経験がしたいんだ。決して生半可な気持ちじゃないよ」

 アロンは、決心が揺るがないことを言葉の力強さに込める。

「そうか。アロンの決意は固そうだな。それで、ジルは、どうする?」

 ダイザは、それまで何もしゃべらなかったジルに問いかける。

「俺も行くよ。でも、剣を教えるだけで、戦には行かない」

 ジルなりに搾り出した答えをダイザに言う。

「そうか……。でももし、戦に行くように命令されたら?」

 ダイザは、情勢の急変に伴い、ありうる仮定の話を持ち出す。
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