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凍雪国編第1章
第32話 ミショウ村の生活3
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ジョティルは、ミショウ村の入り口を振り返り、村全体を取り囲んでいる柵を見渡す。
「そうなのですか?」
「あぁ」
バージは、上空を見上げ、始祖の血を色濃く受け継ぐものしか見ることのできない魔力障壁の結界を凝視する。
「それなら、あそこに見える柵は必要ないのではないですか?」
ジョティルは、そんな様子のバージを不思議そうに眺め、思いついた疑問を口にする。
「いや、魔力のほとんどない巨狼種や古代種の猪などの類いは、ずば抜けた体力で結界を通り抜け、暴れ回る。そのため、あの柵は、獣たちがどこから侵入したのかを知らせるために設置してある。だから、この村の柵は、強度はそれほどではないが、壊れたときには大きな音を立てて、はぜるようになっているんだ」
「へぇ……。何と言うか、便利ですね」
「長年培われた知恵だな。そういえば、柵の修理がまだ途中だったな。まぁ、また今度やればいいか……」
バージは、頭を指でかりかりと掻き、やりかけの仕事を放置することに決める。
「私のせいですね。申し訳ありません」
ジョティルは、突然の来訪によって、バージの仕事を中断させてしまったことを詫びる。
「ん? あぁ、独り言だ。気を悪くせんでくれ。それより、狼を倒したのは、どの辺りだ? 教えてくれれば、村の者に頼んで、引き取ってもらうぞ」
ジョティルは、先ほどの出来事を思い起こす。
「そうですね……。確か、滝が見える前のところだったような……? あぁ……、この村の誰かが魔法で氷嵐鳥を焼いた近くでしたね」
「あぁ、それなら、ボーとフレイだろう。ボーが、お前のことを見張っていたからな」
バージは、ジョティルの言葉から、ボーとフレイに聞けば、もっと詳細が分かるだろうと一人納得する。
「ボーとフレイ? もしかすると、あの白い狼のことですか?」
「そうだ。ボーは、古代種の狼だよ。巨狼種よりも賢く、人の言葉を話す」
「もしかして、フェンリル?」
ジョティルは、己の推測も交え、少々驚いてバージに聞いてみる。
古い文献には、古代種と呼ばれる竜やフェンリル、グリフォン、ユニコーンなどは、知能が高く、人語を解し、話すことができると記されている。
「大陸では、そう呼ばれることもあるな。ボーたちは、この村の守り神とも呼べる神聖な獣だ」
「ボーたち?」
「あぁ。ボーたち一族は、あの山の麓で暮らしている。人とともに生きることを選んだ種族だよ」
バージは、北にあるセキガ山の中腹を指差し、ボーのほかに、数匹の狼が住み着いていることを教える。
「すごいですね」
「あぁ。野生の生き物にとって、それは大変珍しいことらしいな。特に、気高き古代種が人と暮らすのはな」
「えぇ。私も、そのような話は今まで聞いたことがありません」
ジョティルは、これまで巡察官として辺境の部族を渡り歩いてきたが、未だに神獣と共存している部族とは出くわしたことがない。
「まぁ、この島の生き物自体が特殊かもな」
「そうだと思います。この島に渡ってから、これまで見たこともない植物や動物を目にしています。あと、瘴気がたいへん濃いです」
「瘴気? あぁ、魔素のことだな。ここは、確かに魔素が濃いところだな」
魔素とは、魔力のもととなる高エネルギー素子のことである。
この魔素は、目で捉えることができないが、霧のように空気中を漂っている。
「えぇ、普通の人間ならば、魔素酔いを起こして、動けなくなるほどに濃密です」
魔素酔いとは、強い魔素に触れることで引き起こされる病である。
特に、己のうちに宿す魔力量が少ないものは、濃い魔素に溺れて魔素酔いを起こしやすい。
一般に、長命族は、魔力量が多いため、あまり魔素酔いを起こさない。
しかし、短命族は、魔力に乏しく、魔素酔いを起こしやすい。
濃すぎる魔素を浴び続けると、体内の魔力が暴走し、魔臓が傷つけられ、死に至る。
なお、魔素酔いと似たものに、魔力当たりというものがある。
この魔力当たりは、魔力の強いものに近づくことで引き起こされる。
そのため、魔力の多い魔獣や高魔力体質の魔法師は、周りに魔力当たりを起こしやすい。
「お前は、平気か?」
「えぇ、今のところは……ですね。ただし、一週間もここにいれば、体内を流れる魔力が異常をきたして、魔臓を損傷してしまうでしょうね」
「そうなのですか?」
「あぁ」
バージは、上空を見上げ、始祖の血を色濃く受け継ぐものしか見ることのできない魔力障壁の結界を凝視する。
「それなら、あそこに見える柵は必要ないのではないですか?」
ジョティルは、そんな様子のバージを不思議そうに眺め、思いついた疑問を口にする。
「いや、魔力のほとんどない巨狼種や古代種の猪などの類いは、ずば抜けた体力で結界を通り抜け、暴れ回る。そのため、あの柵は、獣たちがどこから侵入したのかを知らせるために設置してある。だから、この村の柵は、強度はそれほどではないが、壊れたときには大きな音を立てて、はぜるようになっているんだ」
「へぇ……。何と言うか、便利ですね」
「長年培われた知恵だな。そういえば、柵の修理がまだ途中だったな。まぁ、また今度やればいいか……」
バージは、頭を指でかりかりと掻き、やりかけの仕事を放置することに決める。
「私のせいですね。申し訳ありません」
ジョティルは、突然の来訪によって、バージの仕事を中断させてしまったことを詫びる。
「ん? あぁ、独り言だ。気を悪くせんでくれ。それより、狼を倒したのは、どの辺りだ? 教えてくれれば、村の者に頼んで、引き取ってもらうぞ」
ジョティルは、先ほどの出来事を思い起こす。
「そうですね……。確か、滝が見える前のところだったような……? あぁ……、この村の誰かが魔法で氷嵐鳥を焼いた近くでしたね」
「あぁ、それなら、ボーとフレイだろう。ボーが、お前のことを見張っていたからな」
バージは、ジョティルの言葉から、ボーとフレイに聞けば、もっと詳細が分かるだろうと一人納得する。
「ボーとフレイ? もしかすると、あの白い狼のことですか?」
「そうだ。ボーは、古代種の狼だよ。巨狼種よりも賢く、人の言葉を話す」
「もしかして、フェンリル?」
ジョティルは、己の推測も交え、少々驚いてバージに聞いてみる。
古い文献には、古代種と呼ばれる竜やフェンリル、グリフォン、ユニコーンなどは、知能が高く、人語を解し、話すことができると記されている。
「大陸では、そう呼ばれることもあるな。ボーたちは、この村の守り神とも呼べる神聖な獣だ」
「ボーたち?」
「あぁ。ボーたち一族は、あの山の麓で暮らしている。人とともに生きることを選んだ種族だよ」
バージは、北にあるセキガ山の中腹を指差し、ボーのほかに、数匹の狼が住み着いていることを教える。
「すごいですね」
「あぁ。野生の生き物にとって、それは大変珍しいことらしいな。特に、気高き古代種が人と暮らすのはな」
「えぇ。私も、そのような話は今まで聞いたことがありません」
ジョティルは、これまで巡察官として辺境の部族を渡り歩いてきたが、未だに神獣と共存している部族とは出くわしたことがない。
「まぁ、この島の生き物自体が特殊かもな」
「そうだと思います。この島に渡ってから、これまで見たこともない植物や動物を目にしています。あと、瘴気がたいへん濃いです」
「瘴気? あぁ、魔素のことだな。ここは、確かに魔素が濃いところだな」
魔素とは、魔力のもととなる高エネルギー素子のことである。
この魔素は、目で捉えることができないが、霧のように空気中を漂っている。
「えぇ、普通の人間ならば、魔素酔いを起こして、動けなくなるほどに濃密です」
魔素酔いとは、強い魔素に触れることで引き起こされる病である。
特に、己のうちに宿す魔力量が少ないものは、濃い魔素に溺れて魔素酔いを起こしやすい。
一般に、長命族は、魔力量が多いため、あまり魔素酔いを起こさない。
しかし、短命族は、魔力に乏しく、魔素酔いを起こしやすい。
濃すぎる魔素を浴び続けると、体内の魔力が暴走し、魔臓が傷つけられ、死に至る。
なお、魔素酔いと似たものに、魔力当たりというものがある。
この魔力当たりは、魔力の強いものに近づくことで引き起こされる。
そのため、魔力の多い魔獣や高魔力体質の魔法師は、周りに魔力当たりを起こしやすい。
「お前は、平気か?」
「えぇ、今のところは……ですね。ただし、一週間もここにいれば、体内を流れる魔力が異常をきたして、魔臓を損傷してしまうでしょうね」
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