ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第1章

第28話 国主からの要請4

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 バージの質問に、ドルマは少し渋い顔をする。

「この村は、隠れ里じゃ。おいそれと大勢の人間を出すわけにはいかん。おそらく、5人がせいぜいじゃな」

「なら、俺が志願する。あとは、ここにいるダイザとホレイさん。それに、ゲナンとニコルではどうだ?」

 バージは、国都への赴任経験があるダイザとホレイを軸に、若手の中でも実力のあるゲナンとニコルを推薦する。

「ダイザとホレイは、駄目じゃ。昔のように平和なら、お主とともに送り出しても良さそうだが、大戦の兆しがある今では、この村にも守るものが必要じゃ」

 ドルマは、残念そうに首を振って、バージの提案を断る。

「そうか。なら、ゲナンとニコルも難しいか?」

「そうじゃな。2人には、この村の守りとなってもらいたい」

「そうか……」

 バージは、力なく頷く。
 バージの隣で、そのやり取りを聞いていたダイザが、申し出る。

「村長。私が行くのが無理なら、息子のアロンとジルを連れて行ってはくれませんか?」

「ん? アロンとジルをか?」

「はい。2人は、すでに成人していて、力もそれなりにあります。また、息子たちは、かねてから、島の外へ出てみたいと申しておりました」

「あぁ。先ほど、フレイもそのようなことを言っておったの」

「えぇ。ですから、私が行けないのであれば、息子たちに機会を与えてやって欲しいと思います」

「そうじゃのぅ……」

 ダイザの申し出を聞いたバージは、「叔父さん。それなら、俺が、2人の面倒を見る。あと、キントも行かせよう」と、新たに提案する。

「テムの子か……?」

 ドルマは、意外そうな顔をする。
 キントは、もの静かな青年で、村でも、普段からあまり人と接することをしない。
 およそ国都のような人ごみの中には向かないと思われる人物である。
 だが、ドルマは、バージが前々からキントの弓術を高く評価していたことに思い当たる。

「どうかな?」

「ふむ……。3人の意見を聞いてみなければ、何とも言えん。……じゃが、もし3人が行きたいと言うのであれば、国都のことを知っておるものが、お主のほかにもう一人欲しいところじゃな」

 ドルマは、バージと若者だけで国都へおもむかせることに少々心許こころもとなさを感じて告げる。

「そうじゃ、モールにも行ってもらうとするかの。キントの師匠でもあるしの」

「モール爺か……?」

「あぁ。引退した身で申し訳ないが、若手の指導役として、もう一肌脱いでもらおうとするかの……」

「モール爺が、首を縦に振るかな?」

 バージは、都嫌いで有名なモールの気質を思い浮かべ、ドルマへ疑問を差し挟む。

「それは、頼んでみなければ分からん。じゃが、モールとて、まだ耄碌もうろくするには早すぎる年じゃて……」

「説得するのは、難しいそうだけどな」

 バージは、前回も都暮らしが嫌いになり、早々に帰ってきたモールのこと思いやる。

「ダイザの頼みもあるし、キントも行かせるのなら、なおさら年配のものが必要じゃ」

「なら、俺を入れて、その5人でいいか?」

「ふむ。人選はそれで良いじゃろう。ただし、いろいろと言いおかねばならんこともある。出発までには、まだまだ準備が必要じゃ」
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