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凍雪国編第1章
第27話 国主からの要請3
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ジョティルは、新興宗教のゼノス教について説明する。
「終末思想にかぶれた狂信者の集団です。浄化と再生を司る女神ゼノスを崇め、不当不正な行いがはびこる世を正し、秩序ある新世界を築き上げようと画策している教団です」
「大層なお題目じゃの」
ドルマは、やや呆れたように言う。
「えぇ。彼らは、世に腐敗と堕落をもたらす為政者を敵視し、暗殺を行ってまで排除しています」
「なんじゃ、その義賊気取りの世直し集団は……」
ドルマは、ジョティルの言葉を聞いて、呆れ返る。
「まさしく、その通りです。ただ、ゼノス教は、庶民たちが抱える不満の捌け口を作り出しているため、庶民受けはいいようです」
「じゃが、皇帝が黙っておらんじゃろう?」
ドルマは、権勢意欲の強いルシタニア皇帝の胸中を推し量るように、疑問を口にする。
「はい。ルシタニア皇帝は、ゼノス教を邪教に指定し、領内にいるゼノス教徒への弾圧を強めています。そして、巷では、近々、ゼノス教の聖地があるバラスタ連合国へ進軍が行われるであろうと噂されています」
ドルマは、地図に目を落とし、ルシタニア帝国の西方にあるバラスタ小国連合王国を見て、気がつく。
「そうか。ルシタニア帝国にとっては、インドールとドルムントが睨み合ってくれていたほうが、都合がいい訳じゃな」
「はい。そして、キルビナも内紛により、北伐ができない状態にあります」
「ふぅむ……。話を聞く限り、確かに大戦が起こってもおかしくなさそうな雰囲気じゃのぅ……」
「えぇ。私たち国都の人間も、大方そのように捉えております」
「それで、国主の要請か……」
「はい」
「う~む……」
ドルマは、また腕組みをして、天井を見上げ、考え込む。
「叔父さん。国主の文には何と書かれていたんだ?」
「ん?」
ドルマは、考えるのを止めて、バージへ向き直る。
「あぁ。バルトとの盟約を守るため、人を出して欲しいとのことじゃ。先ほど、ジョティルが話したように、大戦が起こるかもしれんから、国主は念のために備えておきたいのじゃよ」
「沈黙の民との盟約か……」
ホレイは、古の盟約が結ばれたときの出来事を思い起こす。
遥か昔、ロシュフォール帝国の血を引くこの国の祖先は、大陸を追われるときに、バルトの民の助けを得て、ディスガルドの奥地へと逃れた。
その際、この国の祖先は、バルトの民を末代まで守護することを約した。
そして、バルトの民は、祖先の逃亡先を秘匿するために、それ以来、外部との接触を一切断ち、いつしか沈黙の民と呼ばれるようになった。
「そうじゃ。わしらがこうして生きながらえておるのも、バルトの民の協力があってこそじゃ。そのバルトが戦に巻き込まれるようなことがあれば、守ってやらねばなるまいて……」
ドルマは、地図に記されたディスガルドとルシタニア帝国との間に挟まれている極小国バルトを指で指し示しながら、バージに教え聞かす。
それを聞いたバージは、「何人行けばいい?」と、ドルマに切り出す。
「終末思想にかぶれた狂信者の集団です。浄化と再生を司る女神ゼノスを崇め、不当不正な行いがはびこる世を正し、秩序ある新世界を築き上げようと画策している教団です」
「大層なお題目じゃの」
ドルマは、やや呆れたように言う。
「えぇ。彼らは、世に腐敗と堕落をもたらす為政者を敵視し、暗殺を行ってまで排除しています」
「なんじゃ、その義賊気取りの世直し集団は……」
ドルマは、ジョティルの言葉を聞いて、呆れ返る。
「まさしく、その通りです。ただ、ゼノス教は、庶民たちが抱える不満の捌け口を作り出しているため、庶民受けはいいようです」
「じゃが、皇帝が黙っておらんじゃろう?」
ドルマは、権勢意欲の強いルシタニア皇帝の胸中を推し量るように、疑問を口にする。
「はい。ルシタニア皇帝は、ゼノス教を邪教に指定し、領内にいるゼノス教徒への弾圧を強めています。そして、巷では、近々、ゼノス教の聖地があるバラスタ連合国へ進軍が行われるであろうと噂されています」
ドルマは、地図に目を落とし、ルシタニア帝国の西方にあるバラスタ小国連合王国を見て、気がつく。
「そうか。ルシタニア帝国にとっては、インドールとドルムントが睨み合ってくれていたほうが、都合がいい訳じゃな」
「はい。そして、キルビナも内紛により、北伐ができない状態にあります」
「ふぅむ……。話を聞く限り、確かに大戦が起こってもおかしくなさそうな雰囲気じゃのぅ……」
「えぇ。私たち国都の人間も、大方そのように捉えております」
「それで、国主の要請か……」
「はい」
「う~む……」
ドルマは、また腕組みをして、天井を見上げ、考え込む。
「叔父さん。国主の文には何と書かれていたんだ?」
「ん?」
ドルマは、考えるのを止めて、バージへ向き直る。
「あぁ。バルトとの盟約を守るため、人を出して欲しいとのことじゃ。先ほど、ジョティルが話したように、大戦が起こるかもしれんから、国主は念のために備えておきたいのじゃよ」
「沈黙の民との盟約か……」
ホレイは、古の盟約が結ばれたときの出来事を思い起こす。
遥か昔、ロシュフォール帝国の血を引くこの国の祖先は、大陸を追われるときに、バルトの民の助けを得て、ディスガルドの奥地へと逃れた。
その際、この国の祖先は、バルトの民を末代まで守護することを約した。
そして、バルトの民は、祖先の逃亡先を秘匿するために、それ以来、外部との接触を一切断ち、いつしか沈黙の民と呼ばれるようになった。
「そうじゃ。わしらがこうして生きながらえておるのも、バルトの民の協力があってこそじゃ。そのバルトが戦に巻き込まれるようなことがあれば、守ってやらねばなるまいて……」
ドルマは、地図に記されたディスガルドとルシタニア帝国との間に挟まれている極小国バルトを指で指し示しながら、バージに教え聞かす。
それを聞いたバージは、「何人行けばいい?」と、ドルマに切り出す。
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