ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第1章

第13話 危急の知らせ

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 ジョティルは、2本の木を見比べ、獣の足跡が互い違いの高さについているのに気がつく。
 そして、視線を木の先端へと移し、わずかに折れている木の枝を見つける。

(すごいですね。獣があそこまで登って、飛んだんですか……)

 ジョティルは、獣が木を駆け上がっていった姿を想像して、少し驚く。

(ここは、興味深いところですね……。もしかして、先ほどの奇妙な気配の主ですかね?)

 ふふふっと、ジョティルは、いろいろと想像を膨らませて、これから起こる展開を期待し、微笑む。

(さて……。この足跡が目的地まで残っていればいいですが、先を急ぎましょうか)

 ジョティルの足取りは、先ほどよりも幾分軽やかになり、地図に描かれていた場所へと進み始める。



 ボーと別れたフレイは、村まで走り続けて帰りつく。
 村は、いつもと変わりのない長閑な様子で、早めに夕食の支度を始めた家からは炊事の煙が立ち上っている。
 フレイは、走り続けた疲れも見せず、収穫小屋や畑の間を急いで通り抜け、我が家の扉を勢いよく開ける。

「お母さん! お母さん! どこにいるの!?」

 フレイは、帰り着くなり怒鳴るように叫ぶ。
 すると、台所の方から、母ロナリアの声が聞こえる。

「フレイ? 帰ったのね。こっちにいるわよ」

 フレイは、台所へと続く廊下を走る。

「お母さん! 大変だよ!」

 フレイは、母の姿を見てすぐに叫ぶ。

「どうしたの? そんなに大きな声を出して?」

 ロナリアは、血相を変えたフレイの顔を見て、幾分驚きながら答える。

「人が! 人が来るの!」

「この家に?」

「違うよ、お母さん! 外から人が来るの!」

「外から?」

「そう! 島の外から人間がやってくるの!」

「本当なの!」

 ロナリアは、ようやく事態の深刻さに気がつき、勢いよくフレイに聞き返す。

「ボーが気配を感じたって!」

「ボーがそう言ったのね」

 それを聞いたロナリアは、少し考える。

「フレイ。まずは、落ち着きなさい。そして、ボーはどこなの?」

 ロナリアは、フレイの肩に手を置いて、本来のゆったりとした口調に戻って話しかける。

「ボーは、確かめに行ったよ」

「そう。それで、ボーは、ほかに何か言ってた?」

「獣臭がするって。長旅をしてきたような人間の臭いだって」

「近くにいたの?」

「ううん。僕は、何も感じなかったよ。でも、ボーは、遠くの方にいるって言ってた」

「そう……」

 ロナリアは、また少し考えて、かまどの中に水を入れて火を消す。

「フレイ。それは、いつのことなの?」

「1時間ぐらい前」

「どこにいたの?」

「沢を下ったところにある小滝のところ」

「あぁ、あそこね」

 ロナリアは、時間と場所を確認して、時間経過による事態の推移を予測する。

「そうね、フレイ。まずは、村長に知らせましょう。まだ、知らせていないんでしょ?」

「うん。村に着いてから、真っ先に家に帰ってきたよ」

「そう。じゃぁ、フレイ。荷物を置いてきて。それから、村長の家に行くわよ」

「うん、お母さん」

 ロナリアは、フレイを促して台所を出て、護身用の剣を身につけ、村長の家へ行く準備を整える。
 すると、フレイがすぐに駆けて来て、「お母さん。置いてきたよ」と、ロナリアへ伝える。

「じゃぁ、行くわよ」

 ロナリアは、フレイを伴って家を後にし、村長宅へと急ぐ。
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