ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第1章

第8話 束の間の休息

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 フレイとボーが村へと続く凍土林の中の獣道を進んでいると、突然、ボーが立ち止まる。

「どうしたの?」

「――巨狼種がくる!」

「えっ!」

「先ほどの音か、臭いで引き寄せられたか……」

 ボーは、湖の南側の方角を睨んで呟く。

「近いの?」

「いや、まだ遠い。……が、じきにやって来るだろう」

「1匹だけ?」

「いや……。奴らは常に群れて行動する」

「じゃぁ、早く帰ろう」

「あぁ、そうしよう」

 ボーは、背中をフレイに向けて、腰を落とす。

「フレイ、早く乗れ」

「うん」

 フレイを背中に乗せたボーは、岩場を選んで駆け抜け、足跡を消しながら村へと急ぐ。



 ボーは、凍土林の切れ目まで来ると、凍土林の横を流れる小川に沿って、上流に向けて走り出す。
 そして、小さな滝が見えたところで、ようやく立ち止まる。
 フレイは、ボーの背中から降りて、それまで走り続けていたボーを気遣う。

「ボー、疲れたでしょ?」

「少しな」

「ごめんね。ボーには、また無理させちゃったね」

「まぁ、いつものことだな」

「本当に、ごめんね」

「気にするな」

 ボーは、尻尾でフレイの頬をなでたあと、小滝を迂回して丘の頂上に至る道を登り出す。
 フレイは、一度心配そうに湖の方をちらりと見てから、ボーに並ぶ。



 しばらくして、小滝の上の見晴らしのいい場所に辿り着く。
 フレイとボーは、手頃な岩に腰を下ろす。
 フレイは、ごそごそと荷物袋を漁りだし、中から先ほど拾った非常食袋を取り出す。

「ボー、これを食べてよ」

「干し肉か?」

「うん。僕も疲れたから、ちょっと休みたい」

「あぁ。少しなら……、休憩できるな」

 ボーは、耳と鼻をせわしなく動かし、巨狼種の動きを探る。

「結構、離れた?」

「……そうだな」

 ボーは、来た道を振り返り、耳を澄ます。

「巨狼種は、氷嵐鳥のところに向かっているの?」

 フレイは、干し肉をちぎって、口の中に入れる。

「そのようだな」

「じゃぁ、僕たちが仕留めた獲物を食べられちゃうね」

 もぐもぐもぐ……と、フレイは、あまり美味しくなさそうに干し肉を噛んで飲み込む。

「まぁ、仕方あるまい。我らが、奴らの餌にされなかっただけ、ましだと思うことだな」

 そう言ってボーは、フレイに差し出された干し肉にかじりつく。

「そうだよね。巨狼種は、僕らじゃ倒せないしね」

「数が多いからな。群れでは太刀打ちできん」

「ボーの言っていた嫌な予感ってこれのこと?」

「……かもしれん。」

 ボーは、2枚目の干し肉を咀嚼しながらフレイに答える。

「じゃぁ、災難から逃れられたわけだね」

「まだ、逃れたと決まったわけではないがな。当面の危機は去ったのかもしれん……」

 フレイは、水筒を取り出し、ぐびぐびと飲みだす。

「あとは、早めに帰るだけだね」

「あぁ」

 フレイは、ようやく緊張の糸をほぐし、残りの干し肉を頬張ほおばる。
 ボーも、フレイから貰った干し肉を食べ終え、ひと時の休息をとる。



 しばらく、お互いに無言で景色を眺めたあと、フレイが凍土林の切れ目を見ながら話し出す。

「ねぇ、ボー。奴らは、村まで来ないよね?」

「あぁ、距離があるからな。奴らも人里までは来ないだろう」

「なら、良かった。奴らを村まで連れていったら、お母さんや村長に大目玉を食らっちゃうところだったよ」

 しかし、ボーは、ふと顔を上げ、来た道よりも、もっと下流の方角を見る。
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