ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第1章

第7話 決着後

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「ふぅ~。疲れた~」

 フレイは、地面に腰を降ろし、足を投げ出して後ろ手で体を支える。
 そうして、膨大な魔力を費やした魔法のあとに襲ってくる一時的な魔力喪失に耐える。

「大丈夫か?」

「頭にたんこぶができた……。結構痛い……」

「そうか……。たんこぶは、村に帰ってから治してもらうといい。ところで、切り裂かれてはいないか?」

 フレイは、肩や太腿を触って確認する。

「うん。大丈夫だよ」

「そうか。荷物袋が守ってくれたのだな」

 ボーは、フレイの荷物袋を示す。

「あー! 破れてる!」

「透輝石は無事か?」

「うん。一応無事だけど……。非常食袋がない……」

「それだけで済んだのか?」

「あと、採掘棒」

「そうか」

 ボーは、少し思案をする。
 そして、こんがりと焼け焦げた氷嵐鳥のそばまで行き、敵が絶命していることを確認する。
 フレイは、破けた荷物袋から紐を取り出し、裂け目を利用して器用に穴を閉じていく。

「ボー。今朝感じた嫌な予感って、これのこと?」

「さぁな。我にも分からん。だが、何となく違う気がする……」

「そうなの? また、何かに襲われるの?」

 ボーは、耳をそば立てて小刻みに動かし、周囲の気配を探る。

「……かもしれんな」

「何かくる?」

「いや、今のところは、大丈夫だな」

「良かった……」

「それより、フレイ。氷嵐鳥はこのままにして、とりあえず、落とした荷物を取りに戻ろう」

「うん」

 フレイは、体が重たそうにして立ち上がり、ボーと一緒に逃げてきた道を引き返す。



 凍土林の中の獣道を50mほど戻った地点で、フレイが突然駆け出す。

「あっ! あったよ、ボー!」

 フレイは、岩陰に落ちている非常食袋を見つける。

「あぁ……。その岩を飛び越えたときに落としたのか」

 ボーは、辺りを見渡して、「フレイ、そこの木の根元に採掘棒も落ちているぞ」と、フレイに教えてやる。

「えっ、本当?」

 非常食袋を拾って、泥を叩いて落としていたフレイが、ボーの示す先を見る。

「あっ、本当だ。ありがとう、ボー」

「見つかって良かったな」

「うん。これ、お気に入りの棒なんだ」

 フレイは、嬉しそうに採掘棒を拾い上げ、荷物袋の中に入れる。
 その様子を眺めていたボーは、(さて、氷嵐鳥のところに戻るか……)と考えた矢先、遠くの方から聞こえてくる狼の遠吠えに気がつく。
 ボーが急に顔を険しくしたのを見て、フレイが不安になって尋ねる。

「どうしたの?」

「遠吠えが聞こえた……。おそらく巨狼きょろう種だな」

「えっ! どこに?」

「湖の南の方角……。まだ、遠い……」

「こっちに来るの?」

「分からん……が、ここに長居は無用だ」

「うん、分かった。早く帰ろう」

「あぁ」

 フレイとボーは、氷嵐鳥のところまで足早に戻る。



「ボー、これはどうするの?」

 フレイは、黒焦げになった氷嵐鳥を指差して、ボーに聞く。

「そうだな……。村に持って帰るのが一番良いが、巨狼種が来るかもしれない」

「じゃぁ、勿体無いけど置いていく?」

「そうした方が無難だな」

「分かった。久しぶりのご馳走だけど、我慢するよ」

 フレイは、そう言って、ボーに「行こう」と促す。

「あぁ。仕方ないと割り切ろう」

 ボーは、フレイに頷きつつ、先に歩き出したフレイを追いかける。
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