ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第1章

第5話 氷嵐鳥の襲来

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 フレイが立ち上がりかけたとき、浮遊岩の方から甲高いガァーという鳴き声が響き渡る。

「今のって……」

「あぁ。おそらくだが、氷嵐鳥ひょうらんちょうだな」

「だよね……」

 フレイとボーは、顔を見合わせ、浮遊岩の辺りを注意深く観察して、様子を探る。
 氷嵐鳥は、ディスガルドでは北半島の山岳部でよく見られる怪鳥である。
 翼を広げれば、馬ほどの大きさがあり、その身に宿した魔力で氷や風を操り、敵を攻撃する。

「氷嵐鳥は、この辺にいないはずなのに……」

「いつもは、龍爺がいるからな。怖くて近づけないはずだ」

「つまり……、龍のおじさんがいなくなったから、この辺りまで餌を探しにきたということ?」

「その可能性はある。だが、もしそうなら、もたもたしていられない。フレイ、我の背に乗れ」

 春先のこの時期は、どの魔獣も繁殖期に入り、気が立っている。
 特に、氷嵐鳥は、気性が獰猛で、獲物と認識した敵を執拗に狙い続ける。
 ボーは、腰を落として背中を低くし、フレイを促す。

「うん」

 ボーの背中に飛び乗ったフレイは、ボーの首に腕を回して、足で体を固定する。

「いいよ。行って」

「離れるぞ」

 ボーは、極力足音を立てないように走り出し、100mほど先にある姿を隠せそうな凍土林を目指す。
 湖に、またひとつガァーと甲高い鳴き声が響き渡る。



 それからしばらくして、浮遊岩の陰から氷嵐鳥の姿が現れる。

「見つかった?」

「分からない。だが、こちらは風上にいる」

 氷嵐鳥は、浮遊岩の上空を旋回している。

「だったら、凍土林へ入れば、逃げ切れる?」

「見つかれば、無理だ」

「戦うしかない?」

「おそらく、そうなるだろう。フレイ、魔力を練り上げておけ」

「うん」

 フレイは、速度を上げるボーにしがみついたまま、己の内に宿る魔力に意識を集中する。



 凍土林まであと少しというところで、ガァァーーと、ひときわ大きな鳴き声が響き渡る。
 フレイが慌てて後ろを振り返ると、こちらに向かってくる氷嵐鳥の姿が目に入る。

「完全に見つかったよ!」

「みたいだな!」

 ボーは、凍土林の中に見つけた獣道を全速力でひた走る。

「ボー! 追いつかれるよ!」

 氷嵐鳥の姿がどんどん大きくなり、バサバサという羽音まで聞こえてくる。

「ここでは、戦えん! フレイ、頼む!」

「うん!」

 フレイは、ボーにしがみついたまま、体内に宿る魔力を手に集め、火へと変化させていく。

「ボー、発動できるよ!」

「奴がもっと近づいてから、放て!」

「分かった!」

 フレイは、ボーに振り落とされないようにしながら、後ろを振り返る。

「追いつかれる!」

「いいぞ! やれ!」

fire javelinファイヤージャベリン

 上空から迫ってくる氷嵐鳥を目掛け、フレイの右手から火の槍が飛んでいく。
 ガァーと鳴いた氷嵐鳥は、右翼を閉じて器用に半回転し、迫りくる火槍をひらりとかわす。

「外れた!」

「馬鹿者! しっかりと狙え!」

「だって、結構速いんだよ!」

「日頃の練習不足だ!」

「真面目に練習しているよ!」

 フレイとボーが言い合いをしているうちに、氷嵐鳥は、鉤爪を立てて、フレイを引き裂こうと急降下してくる。

「わわわっ!」

 フレイがボーの首を左に曲げ、ボーの進路を無理矢理変える。

「こら! 我の首を曲げるな! 転ぶだろう!」

「だったら、ボーもよく見てよ!」

「見てる! というか、気配で分かる!」

 初撃をかわされた氷嵐鳥は、一度上空へと舞い上がり、旋回する。
 氷嵐鳥は、逃げ走るフレイたちの後ろから追いすがり、大きく息を吸い込む。
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