ロシュフォール物語

正輝 知

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凍雪国編第1章

第1話 ディスガルド

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 未開の地ディスガルド。
 この地は、中央大陸の北西部に位置し、万年氷河が残る凍原地とうげんちとして有名である。

 ディスガルドは、長年、その厳しい自然環境ゆえに、人類文明を拒み続け、先史以前の生態系を息づかせている。
 そこには、すでに大陸では絶滅した氷竜ひょうりゅう種や巨狼きょろう種、凍獣牙とうじゅうが種などが今もなお存在し、独自の進化を遂げている。
 また、凍土林とうどりんでは、極寒の地に適応した小動物のほか、暴風雪の中でも飛ぶことができる氷嵐鳥ひょうらんちょうの類いも巣を作っている。
 そして、わずかな数ではあるものの、人間もまた点在している。

 その昔、長命な人間種であったロシュフォール族は、その強大な魔力と発達した文明で、大陸を支配した。
 その栄華は、二千年以上も続き、帝都は『千年王城せんねんおうき』として君臨し、各地の要となる都市も『光夜城こうやじょう』と謳われ、絶大な威光を地方へ及ぼした。

 しかし、その終わりは突然やってきた。
 皇帝の外戚がいせきである一部の血族が、皇族を凌駕りょうがせんとして、禁断の魔法実験に手を染めた。
 龍脈から強制的に魔力のもとになる魔素まそを吸い上げ、複数の人間を犠牲にして、いつでもその魔力を自由に引き出せる装置を作ろうとして、失敗した。

 その結果、制御できずに溢れ出した魔力は暴走し、『千年王城』を文字通り吹き飛ばした。
 広大な帝都は、火山が噴火したあとの如く、すり鉢状の盆地となり、今では、一国がまるごと収まるぐらいの湖となった。
 その後、ロシュフォール族は、支配者としての地位を失い、それまで力で押さえつけられていた短命族の反抗を許した。

 短命族の積年の怨みは凄まじく、多くのロシュフォール族は、捕らえられ惨殺され、皇帝や貴族に連なる支配者層は無残にも処刑された。
 だが、災厄に遭わなかった皇族や地方貴族の一部は、秘境に隠れ住んだり、大陸を捨てて新大陸を目指したりして、難を逃れた。

 人跡未踏の地ディスガルドも、これらの者の逃亡先の1つとなり、先代皇帝の末子とその支族しぞくが逃げ込んだ。
 一方、短命族の追撃も熾烈しれつを極めた。
 だが、竜種や狼種の棲息する奥地への進軍は、危険と判断され、それ以上の掃討戦は打ち切られた。
 こうして、事なきを得た皇帝の末子とその支族は、凍てつく大地の片隅に結界を張り、外界とは隔絶した世界で細々とではあるが隠れ住み、辺境の地でその命を長らえた。



 それから、五百年以上の歳月が流れ、短命族の代替わりが進み、ロシュフォール族への関心は次第に薄れていった。
 そうして新たな時代を迎えた秘境の奥地では、長命族の少年フレイが狼のボーと一緒に、小さな冒険を始めていた。
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