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第01話「現状把握(あるいは長い長いプロローグ)前編」
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明日なんか来なければいいと思っていた。
大学卒業後に就職した会社は典型的なブラック企業だった。
平日は日付が変わるまで家に帰れず、週休二日制なのに土曜はずっと仕事だし下手したら日曜も休日出勤は当たり前の地獄のようなスケジュール。
有給休暇?聞いたことない単語だな。
今日もまた、六年経っても全然慣れぬ仕事量をこなして、週初めからハードすぎる一日を終えて家に帰り眠りについた。
そこがその世界での最後の記憶だった。
目を覚ますと、見知らぬ天井が見えた。
ドアを開く音が聞こえ、音をした方を見ると、メイド服を着た女性が現れた。
パッチリとした瞳。栗色の長い髪を束ねている。歳は二十歳くらいだろうか。美人だ。
「ヴェイン様。お食事の時間ですよ」
そう言って近づいてきた女性に持ち上げられる感覚。
そして大きくて形のいいおっぱいが目の前に現れた。
それを見て、俺の中で性欲ではなく食欲の本能に対する衝動が湧きあがった。
本能のままおっぱいに吸いつく。大変美味であった。
お腹一杯になった俺は、とりあえず深く考えることなく眠いので眠った。
次に目を覚ました時になってようやく気付いたが、俺は赤ん坊になっていた。
最初は夢かと思っていたが、それからしばらくは眠い時には寝て、腹が減ったら泣いてミルクを飲む生活が続いた。いつまでも現実に戻らないのを見て、ここも現実だということに気付いた。
赤ん坊故自由に動けないので、考える時間は山ほどあった。
まだ確かめたわけではないが、ここは剣と魔法の世界。そして俺の置かれているこの状況は転生ものだ。
三十歳まで童貞だと異世界に行けるとの都市伝説がある。二十八歳だった俺はそこに至るまであと二年あるはずだが、どうやら先行して連れてこられたようだ。そんなアホな事を考えるくらいの悟りに近い心境に至っている。
あと現状把握のために地味に役に立っているのがこの世界で初めて出会った美人の女性である乳母のルルだ。元々聞く事は叶わない身だが、聞いてもいないのに色々と教えてくれた。
ここは大陸でも一・二を争う大国。ローゼリア王国。
そして俺はローゼリア王国の貴族であるバーネット子爵家に嫡男として生まれた。
どんな風に教えてくれたかと言うと、俺の事をあやしながら「ここは大陸随一の大国のローゼリア王国ですよ」とか「ヴェイン様はバーネット子爵家の跡取りですよ」とか言いながらあやしてくるのだ。他にも色々と喋っているが八割くらいがいらない情報なので必要な情報だけ拾っている。これでも時間だけはある身だ。
こうして、俺のヴェイン・バーネットとして新たな人生が始まった。
俺はルルに育てられてすくすくと成長した。
両親についてはそんなに語ることがない。両親らしき人物達が俺を見に来た事はある。二十代くらいの美男美女だったが、感想はそれくらいだ。ごくまれに部屋に現れては俺を見るだけでなにもせずに部屋を出ると言う変な記憶しかない。貴族と言うのはこういうものなのだろうか。血の繋がった人物で頻繁に顔を見せてくれたのは穏やかそうな見た目で小柄な老人の祖父のビクトールだけだった。両親と違って俺の成長を楽しそうな目で見ていた。
さらに俺が生まれて二年後。
もう言葉も喋れて自分の足で動けるようになった頃。
妹が生まれた。
妹の名はアーテリー。アーテリー・バーネット。
俺に引き続きアーテリーの乳母はルルが務めた。
俺の時と同じように、アーテリーの部屋には時折ビクトールが現れてはアーテリーを可愛がっていた。
俺は自分の足で歩けるようになったが、いくら屋敷の中を歩き回っても両親の姿は一度も見なかった。
そんなある日、朝食の後でビクトールから執務室に呼ばれた。
「大事な話がある。今日からは私の事を父上と呼べ。ヴェイン」
「はい。おじい様」
「父上だ」
「はい。父上」
どうやらアーテリーが生まれてすぐに、祖父と両親は何があったのか喧嘩別れして屋敷を出て行ってしまったようだ。
ようだと言うのはあとでそのあたりの事情をルルに聞いたからだ。ビクトールからはただ今日から父と呼べとしか言われなかった。
こんな感じでバーネット子爵家ではいろいろ内輪揉めがあったようだが俺は平和だった。
そもそも現当主は祖父のビクトールで次期当主は俺の父親のはずで俺はその次のはずだが一気に俺が次期当主の座に着いたのだった。ルルが俺の事を「バーネット家の跡取り」と言っていたからてっきり嫡男だと勘違いしていたがそれが勘違いではなくなった。
両親とは会えないが、寂しいとは思わなかった。家族に恵まれていたからだ。
祖父のビクトール・バーネット。バーネット子爵家現当主。
五十歳を超えた老人。優しそうな外見で実際に優しい人だが、戦場で戦果を上げたという豪傑。……らしい。とてもそうは見えないが。でも威厳があるのは伝わってくる。
次に侍女のルル。俺の母親代わりの美人。
一緒にお風呂に入るのが俺の毎日の楽しみでもある。
そしてルルの娘のルーナ。
俺より三つ年上の少女。母と同じ侍女として屋敷で働いている。
大きくなったらルルに似た美人になること間違いないと思える将来有望株。
アーテリーが生まれてルルがアーテリーの面倒を見始めてからは俺の世話役として屋敷に住むようになった。
最後に、生まれたばかりの妹アーテリー。
そして屋敷で働く人達を含めて我がバーネット家だ。
俺はその家の嫡男。ビクトールが高齢なのを考えると割と近い将来子爵様になる。
前世では使われる立場だったが、この世界じゃ将来は俺が使う側になる。
子爵になることが決定だとしても、そのために色々とやらなければいけないこともあるだろう。しっかりと勉強しないといけないし、せっかくの剣と魔法の世界だ。自分を鍛えてどこまでいけるか試してみたい。
まずは勉強よりも剣と魔法だ。特に魔法。どうやったら鍛えられるか。自分で調べようとしてもわからなかった。 転生ものだからそのうち誰かに教えてもらえるかななんて悠長に考えてのんびり生きていたら四歳になってしまった。このまま魔法と出会えないのも困るので、ルルに魔法について尋ねたらビクトールが飛んできたのだった。
正確にはルルに「魔法を習いたい」と言ったら「ではマナを計りますね」と言って手をかざされたと思ったら慌ててビクトールを呼びに行った。そしてビクトールもルルと同じ動きをするなり驚愕の声を上げた。
「本当だ。確かに強大なマナを感じるぞ」
ビクトールは俺を抱き上げて喜んだ。
「ヴェイン。早速明日から修行をするぞ。良いな」
「はい。父上」
孫を可愛がるビクトールだから「早速師匠を呼ぼう」などと言いだすのではないかと心配した。実はこのバーネット子爵家はそんなに裕福ではない。領地運営的な問題があり、よその子爵家はもとより子爵より爵位が下の男爵家よりと比べても貧乏だそうなのでそこを心配していたが事態は俺の予想とは全く違う方向へ進んだ。
「それではこれより修行を開始する」
剣を携えたビクトールが俺にそう告げた。
実は我が祖父ビクトール。
小柄で穏やかな見た目と裏腹に、その正体は大陸で十指に入る剣の使い手であると同時に、全ての属性の魔術を操るエキスパート。これもルルから聞いた情報だが戦場で数々の戦果をあげた話同様まだ信じられない。
「マナの使い方をよく見ていなさい」
そう言ってビクトールが剣を振り上げる。
そのまま剣を振り下ろす。それだけの動作で、目の前の岩が真っ二つに切れた。
「!」
驚きのあまり目を見開いてしまった。
「鍛えればこのくらい簡単にできるようになる。よく鍛えるのだぞ」
「は、はい。よろしくお願いします。師匠」
思わず敬礼してしまった。
「早速始めるぞ。魔術と剣。どっちが向いているだろうか。マナの使い方を見ればわかる。身体強化か変換か。それによってどちら向きかわかるのだ」
ビクトールにマナによる身体強化のやりかたとマナを変換して魔術を発動する方法を教わる。ここで気付いたがこの世界では魔法ではなく魔術と呼ぶらしい。
説明を受けて最初の感想。良くわからない。
俺の理解力のせいだろうか。
ビクトールの説明は「ここで込めるのだ」とか「ここで思いっきり」とか感覚的なことしか言わないので全くわからない。
ビクトールに「わかりません」と言おうとすると、俺の表情を見てビクトールは残念そうな顔をした。
「やはり私の説明ではわからないか」
俺は何も言っていないのにそう言って落ち込んでいた。教えるのに向いていない自覚はあるようだ。だがそうなると俺の修行にならない。
「エディ。あとは任せるぞ」
ビクトールに呼ばれて出てきたのは確か庭師の人だ。二十歳前のヒョロっとした人物だ。
「ヴェイン様。恐れ多くもマナの使い方について説明をさせてもらいます」
そしてエディの説明が始まった。ビクトールに比べてわかりやすい説明だ。こんな人がなんで庭師をやっているのかはあとでルルに聞いてみよう。
いざ、実践の時が来た。
「さあ、ヴェイン。試してみろ」
「はい」
まずは身体強化。
エディに言われた通り、目を閉じて自分の肉体をマナで覆っていくイメージをする。
体中に静電気が走るような感覚。それを持続させるように力を入れると急に体中に力が湧いてきたような感覚。エディに言われた通りの状態になった。そしてその状態で剣を振った。
「素晴らしいな」
ビクトールが呟く。どうやら筋はいいらしい。
「次は変換ですね。属性は火と水と風と土のどれがいいでしょうか?」
いきなり聞かれるが、やはり火だな。炎系の能力を試してみたい。
「火がいいです」
「わかりました。ファイアーボールですね。先程の説明に火を放つイメージを追加してみてください」
「はい」
教わった通り、両手にマナを集めて手からマナを放つイメージ。そして放つマナを火に変換して放つイメージをする。
ぶっつけ本番だったが、無事にファイアーボールが発動した。
俺の手から炎の球体が放たれ、狙った大木が爆発して吹き飛んで消えた。
「……天才ですね」
エディが呟いた。
「ああ。素晴らしい才能だ。さすがは我が孫」
いつも以上に俺に期待する目を向けながらビクトールがそう告げた。
「ヴェイン。私とエディがお前を鍛える。私の全てを教えるつもりだ。いずれは私を超えて三大帝の座を掴むのだ」
「はい。父上」
初めて聞く「さんたいてい」って何って思いながら俺の修行は指導者二人体勢で始まることになった。
大学卒業後に就職した会社は典型的なブラック企業だった。
平日は日付が変わるまで家に帰れず、週休二日制なのに土曜はずっと仕事だし下手したら日曜も休日出勤は当たり前の地獄のようなスケジュール。
有給休暇?聞いたことない単語だな。
今日もまた、六年経っても全然慣れぬ仕事量をこなして、週初めからハードすぎる一日を終えて家に帰り眠りについた。
そこがその世界での最後の記憶だった。
目を覚ますと、見知らぬ天井が見えた。
ドアを開く音が聞こえ、音をした方を見ると、メイド服を着た女性が現れた。
パッチリとした瞳。栗色の長い髪を束ねている。歳は二十歳くらいだろうか。美人だ。
「ヴェイン様。お食事の時間ですよ」
そう言って近づいてきた女性に持ち上げられる感覚。
そして大きくて形のいいおっぱいが目の前に現れた。
それを見て、俺の中で性欲ではなく食欲の本能に対する衝動が湧きあがった。
本能のままおっぱいに吸いつく。大変美味であった。
お腹一杯になった俺は、とりあえず深く考えることなく眠いので眠った。
次に目を覚ました時になってようやく気付いたが、俺は赤ん坊になっていた。
最初は夢かと思っていたが、それからしばらくは眠い時には寝て、腹が減ったら泣いてミルクを飲む生活が続いた。いつまでも現実に戻らないのを見て、ここも現実だということに気付いた。
赤ん坊故自由に動けないので、考える時間は山ほどあった。
まだ確かめたわけではないが、ここは剣と魔法の世界。そして俺の置かれているこの状況は転生ものだ。
三十歳まで童貞だと異世界に行けるとの都市伝説がある。二十八歳だった俺はそこに至るまであと二年あるはずだが、どうやら先行して連れてこられたようだ。そんなアホな事を考えるくらいの悟りに近い心境に至っている。
あと現状把握のために地味に役に立っているのがこの世界で初めて出会った美人の女性である乳母のルルだ。元々聞く事は叶わない身だが、聞いてもいないのに色々と教えてくれた。
ここは大陸でも一・二を争う大国。ローゼリア王国。
そして俺はローゼリア王国の貴族であるバーネット子爵家に嫡男として生まれた。
どんな風に教えてくれたかと言うと、俺の事をあやしながら「ここは大陸随一の大国のローゼリア王国ですよ」とか「ヴェイン様はバーネット子爵家の跡取りですよ」とか言いながらあやしてくるのだ。他にも色々と喋っているが八割くらいがいらない情報なので必要な情報だけ拾っている。これでも時間だけはある身だ。
こうして、俺のヴェイン・バーネットとして新たな人生が始まった。
俺はルルに育てられてすくすくと成長した。
両親についてはそんなに語ることがない。両親らしき人物達が俺を見に来た事はある。二十代くらいの美男美女だったが、感想はそれくらいだ。ごくまれに部屋に現れては俺を見るだけでなにもせずに部屋を出ると言う変な記憶しかない。貴族と言うのはこういうものなのだろうか。血の繋がった人物で頻繁に顔を見せてくれたのは穏やかそうな見た目で小柄な老人の祖父のビクトールだけだった。両親と違って俺の成長を楽しそうな目で見ていた。
さらに俺が生まれて二年後。
もう言葉も喋れて自分の足で動けるようになった頃。
妹が生まれた。
妹の名はアーテリー。アーテリー・バーネット。
俺に引き続きアーテリーの乳母はルルが務めた。
俺の時と同じように、アーテリーの部屋には時折ビクトールが現れてはアーテリーを可愛がっていた。
俺は自分の足で歩けるようになったが、いくら屋敷の中を歩き回っても両親の姿は一度も見なかった。
そんなある日、朝食の後でビクトールから執務室に呼ばれた。
「大事な話がある。今日からは私の事を父上と呼べ。ヴェイン」
「はい。おじい様」
「父上だ」
「はい。父上」
どうやらアーテリーが生まれてすぐに、祖父と両親は何があったのか喧嘩別れして屋敷を出て行ってしまったようだ。
ようだと言うのはあとでそのあたりの事情をルルに聞いたからだ。ビクトールからはただ今日から父と呼べとしか言われなかった。
こんな感じでバーネット子爵家ではいろいろ内輪揉めがあったようだが俺は平和だった。
そもそも現当主は祖父のビクトールで次期当主は俺の父親のはずで俺はその次のはずだが一気に俺が次期当主の座に着いたのだった。ルルが俺の事を「バーネット家の跡取り」と言っていたからてっきり嫡男だと勘違いしていたがそれが勘違いではなくなった。
両親とは会えないが、寂しいとは思わなかった。家族に恵まれていたからだ。
祖父のビクトール・バーネット。バーネット子爵家現当主。
五十歳を超えた老人。優しそうな外見で実際に優しい人だが、戦場で戦果を上げたという豪傑。……らしい。とてもそうは見えないが。でも威厳があるのは伝わってくる。
次に侍女のルル。俺の母親代わりの美人。
一緒にお風呂に入るのが俺の毎日の楽しみでもある。
そしてルルの娘のルーナ。
俺より三つ年上の少女。母と同じ侍女として屋敷で働いている。
大きくなったらルルに似た美人になること間違いないと思える将来有望株。
アーテリーが生まれてルルがアーテリーの面倒を見始めてからは俺の世話役として屋敷に住むようになった。
最後に、生まれたばかりの妹アーテリー。
そして屋敷で働く人達を含めて我がバーネット家だ。
俺はその家の嫡男。ビクトールが高齢なのを考えると割と近い将来子爵様になる。
前世では使われる立場だったが、この世界じゃ将来は俺が使う側になる。
子爵になることが決定だとしても、そのために色々とやらなければいけないこともあるだろう。しっかりと勉強しないといけないし、せっかくの剣と魔法の世界だ。自分を鍛えてどこまでいけるか試してみたい。
まずは勉強よりも剣と魔法だ。特に魔法。どうやったら鍛えられるか。自分で調べようとしてもわからなかった。 転生ものだからそのうち誰かに教えてもらえるかななんて悠長に考えてのんびり生きていたら四歳になってしまった。このまま魔法と出会えないのも困るので、ルルに魔法について尋ねたらビクトールが飛んできたのだった。
正確にはルルに「魔法を習いたい」と言ったら「ではマナを計りますね」と言って手をかざされたと思ったら慌ててビクトールを呼びに行った。そしてビクトールもルルと同じ動きをするなり驚愕の声を上げた。
「本当だ。確かに強大なマナを感じるぞ」
ビクトールは俺を抱き上げて喜んだ。
「ヴェイン。早速明日から修行をするぞ。良いな」
「はい。父上」
孫を可愛がるビクトールだから「早速師匠を呼ぼう」などと言いだすのではないかと心配した。実はこのバーネット子爵家はそんなに裕福ではない。領地運営的な問題があり、よその子爵家はもとより子爵より爵位が下の男爵家よりと比べても貧乏だそうなのでそこを心配していたが事態は俺の予想とは全く違う方向へ進んだ。
「それではこれより修行を開始する」
剣を携えたビクトールが俺にそう告げた。
実は我が祖父ビクトール。
小柄で穏やかな見た目と裏腹に、その正体は大陸で十指に入る剣の使い手であると同時に、全ての属性の魔術を操るエキスパート。これもルルから聞いた情報だが戦場で数々の戦果をあげた話同様まだ信じられない。
「マナの使い方をよく見ていなさい」
そう言ってビクトールが剣を振り上げる。
そのまま剣を振り下ろす。それだけの動作で、目の前の岩が真っ二つに切れた。
「!」
驚きのあまり目を見開いてしまった。
「鍛えればこのくらい簡単にできるようになる。よく鍛えるのだぞ」
「は、はい。よろしくお願いします。師匠」
思わず敬礼してしまった。
「早速始めるぞ。魔術と剣。どっちが向いているだろうか。マナの使い方を見ればわかる。身体強化か変換か。それによってどちら向きかわかるのだ」
ビクトールにマナによる身体強化のやりかたとマナを変換して魔術を発動する方法を教わる。ここで気付いたがこの世界では魔法ではなく魔術と呼ぶらしい。
説明を受けて最初の感想。良くわからない。
俺の理解力のせいだろうか。
ビクトールの説明は「ここで込めるのだ」とか「ここで思いっきり」とか感覚的なことしか言わないので全くわからない。
ビクトールに「わかりません」と言おうとすると、俺の表情を見てビクトールは残念そうな顔をした。
「やはり私の説明ではわからないか」
俺は何も言っていないのにそう言って落ち込んでいた。教えるのに向いていない自覚はあるようだ。だがそうなると俺の修行にならない。
「エディ。あとは任せるぞ」
ビクトールに呼ばれて出てきたのは確か庭師の人だ。二十歳前のヒョロっとした人物だ。
「ヴェイン様。恐れ多くもマナの使い方について説明をさせてもらいます」
そしてエディの説明が始まった。ビクトールに比べてわかりやすい説明だ。こんな人がなんで庭師をやっているのかはあとでルルに聞いてみよう。
いざ、実践の時が来た。
「さあ、ヴェイン。試してみろ」
「はい」
まずは身体強化。
エディに言われた通り、目を閉じて自分の肉体をマナで覆っていくイメージをする。
体中に静電気が走るような感覚。それを持続させるように力を入れると急に体中に力が湧いてきたような感覚。エディに言われた通りの状態になった。そしてその状態で剣を振った。
「素晴らしいな」
ビクトールが呟く。どうやら筋はいいらしい。
「次は変換ですね。属性は火と水と風と土のどれがいいでしょうか?」
いきなり聞かれるが、やはり火だな。炎系の能力を試してみたい。
「火がいいです」
「わかりました。ファイアーボールですね。先程の説明に火を放つイメージを追加してみてください」
「はい」
教わった通り、両手にマナを集めて手からマナを放つイメージ。そして放つマナを火に変換して放つイメージをする。
ぶっつけ本番だったが、無事にファイアーボールが発動した。
俺の手から炎の球体が放たれ、狙った大木が爆発して吹き飛んで消えた。
「……天才ですね」
エディが呟いた。
「ああ。素晴らしい才能だ。さすがは我が孫」
いつも以上に俺に期待する目を向けながらビクトールがそう告げた。
「ヴェイン。私とエディがお前を鍛える。私の全てを教えるつもりだ。いずれは私を超えて三大帝の座を掴むのだ」
「はい。父上」
初めて聞く「さんたいてい」って何って思いながら俺の修行は指導者二人体勢で始まることになった。
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